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ふたりの。  作者: 須羽ヴィオラ
すれ違い
29/49

すれ違い #2

 三連休の最後の月曜日。茉菜の世界での日曜日で、ソフトボールの試合の日。

 時間のズレは24時間のまま。入れ替わりを止めたのでズレも止まったらしい。

 これでソフトの試合に出ることができる。


 前日の配球トレース作戦で仕入れた情報をしっかり頭に詰め込んで、茉菜の元へ

向かった。オバケトンネルを抜けて、茉菜世界のオバケ鏡の前で待つ。

 待つこと五分。遅れて茉菜がやってきた。時間に正確な茉菜にしては珍しい。

「どうしたの? 遅れて」

「今日は由美たちバンド大会に行く予定だったでしょ。けど、私はソフトの試合に

行くことになってるから…。そしたら、剛ちゃんが自分が行くと、お邪魔虫だから

行かない方が良いって言い出して…」

 なるほど、どっちの剛ちゃんも考えてることは同じなのね。ほんとに男子って、

何でも色恋に結び付けて考えるんだから。

「でも、ちゃんと三人で行ってらっしゃいって、言っておいた」

「こっちの剛ちゃんも同じこと言ってた。しかも、ドタキャンしちゃったんだよ」

「あら。それじゃ、こっちの剛ちゃんも行かせない方が良かったかしら」

「そこまで合わせなくて良いんじゃない。とにかく、私の方の剛ちゃんは、昨日の

バンド大会に行ってないの。顔を合わせたときは話を合わせてね」

「オーケー、わかった」


 そこで、茉菜が少し真顔になって

「ところで念を押しとくけど、ソフトボールの助っ人はこれで最後だよ」

「わかった。わかった」

「それと、試合が終わったら出来るだけ早く戻ってくること。私の方もバンド練習

が終わったら、直ぐ戻るようにするから」

「はい。わかりました。茉菜隊長」

「茶化さないの! 入れ替わってるあいだに時間のズレ幅が変わったら、変な事に

なるかもしれないんだから」

「うん。わかった」と今度は、私も真面目に答えてみせた。


 9時前に学校に到着、急いでユニフォームに着替えて、グランドへ。

 一・二年生と一緒に、見よう見まねでグランド整備をしていると、キャプテンと

高橋さんがやって来て、今日は五番バッターになって欲しいと言われた。けれど、

それでは昨日の私の世界での試合と条件が変わってしまう。どうしても八番にして

と頼み込んで、事なきを得た。


 対戦相手の高校がチームバスでやってくる。当然、私が昨日観戦した試合と同じ

顔ぶれ。

 両チーム規定時間の守備練習を行って試合開始。

 1回の表裏は両チーム三者凡退で無得点。まずは昨日と同じで予定通り。


 2回の表、相手チームの先頭バッターが打席に入る。

 このバッターのライト前ヒットが切欠で先制点とられるんだったよね。

 けど、ヒットは3球目、と予め分かってるんだから、対処の仕方はある。

 その3球目。ピッチャーが投球のモーションに入ると同時に、私はライトの守備

位置から、スルスルと前に動き出す。

 カキーン。

 来た、ライト方向に打球。私は、更に前進して難なくボールをキャッチ。

 ライトフライで1アウト。

 次のバッターは三振。その次がサードゴロエラーで出塁したけど、更に次の打者

はキャッチャーフライで3アウトチェンジ。

 昨日の試合では、この次のバッターがタイムリーを打ってるので、先制点を阻止

したことになる。


 2回の裏。

 先頭バッターがレフト前ヒット。

 次打者の送りバントで、1アウト二塁。

 次打者のセカンドゴロが進塁打になって、2アウト三塁。

 次打者フォアボールで2アウト一塁三塁。

 ここで、私の打順が回ってくる。

 初球、胸元をつくインハイの球でストライク。2球目はアウトコースにボール。

 3球目は再び内角攻めでストライク。

 次だ。次にド真ん中のストライクがくる。

 タイミングだけ計って…。イチ、ニの…。

 カーン。

 打球はライト・センター間に…。落ちた…。ヒット。

 三塁ランナーホームイン。

 一塁ランナーは二塁を過ぎ、三塁を回ったところで、止まった止まった。そこへ

外野からサードへ好返球。私も二塁へ滑り込んだところでボールをタッグされたが

ギリギリでセーフ。さすが強豪校。守備もそつがない。

 それでも1点先制できたんだ。二塁上で私はガッツポーズ。

 次打者の九番バッターは三振でこの回の攻撃は終了。


 3回の表は、ヒットとフォアボールで2アウト一塁二塁にされたけど、無得点に

抑えた。

 3回の裏。ある変化に気が付いた。と言っても、当たり前の事なのだが…。

 昨日の試合では、2回の裏にライトの子の三振で3アウトチェンジだった。

だから、3回裏は九番からの攻撃。

 この試合の2回の裏は、私がヒットで二塁に残ったので、九番バッターの三振で

チェンジになっている。そのため、3回裏は一番からの攻撃に変化している。


 うーん。この差が、どんな風に影響して来るんだろう? 分からない。

 2回裏にヒットの後で塁上でアウトになって、アウトカウントを調整しておけば

良かったのだろうが、後の祭りだ。

 3回裏はワンアウト一塁二塁まで攻めたけど、二連続三振で無得点に終わった。


 4回表も、2アウト一塁二塁のピンチを無得点で切り抜ける。

 4回裏。先頭は六番バッター。この回は、確実に私まで打順が回ってくる。

 先頭バッターがフォアボールで出塁後、盗塁して二塁へ。

 次のバッターはピッチャーフライで、1アウト二塁。昨日の試合は2アウト二塁

だったので、似たような状況だ。

 バッターボックスに入りピッチャーと対峙する。1ボール1ストライクになった

ところで、ピッチャーの攻め方が昨日の試合と違うことに気が付いた。

 そりゃそうだよね。前打席の結果もアウトカウントの状況も、昨日のライトの子

と私では違っているのだから、ピッチャーも攻め方を変えてくるよ、普通。

 これこそ、茉菜の言っていた「小さな物事の違いが複雑に影響する」の典型なの

だろう。そんな事を考えているあいだに、2ストライクに追い込まれた。


 えーい。考えても仕方がない。とにかく自分の実力で…って、そんなのあるの?

 4球目をファール。

 ピッチャーが5球目を投じる。絶好球だ。フルスイングすると、ピッチャー返し

の打球がセンターへ抜け……ずに横っ飛びしたセカンドがダイレクトでキャッチ。

飛び出したセカンドランナー戻れずにタッチアウトでダブルプレーになった。

 ああ、悔しい。上手くいかないものだ。


 けど、昨日の試合で、ライトの子は同じ状況で三振して、ランナーが一人残塁。

 この試合では、今のダブルプレーでチェンジだから、アウトカウントの進み方は

昨日の試合と同じになった。

 それが、吉とでるか凶とでるか。全ては、これから分かる。

 

 6回表。ここで、相手チームにソロホームランが出た。これは昨日の試合の流れ

から分かっていた事ではあるのだが、野手の私にはどうしようもない。

 これで、1対1の同点になった。

 6回裏、7回表はお互いに無得点。


 1対1の同点まま、7回裏の私たちの最後の攻撃。

 先頭打者の六番バッターがセンター前。

 次打者の七番バッターがライト前ヒットで続いてノーアウト一塁二塁。

 さて、昨日の試合と同じ状況で、私に打順が回ってきたのである。

「よしっ! 一打サヨナラのチャンス」

 と勇んでバッターボックスに入る。


 すると相手のキャッチャがタイムをとって、ピッチャーの元へ…。

 何事が話し合った後、キャッチャーが戻ってきて、審判に「故意四球」を告げた。


―ええっ! まさかの敬遠!?―


 驚きはしたけど、作戦としては至極まっとうだ。

 私の第一打席は、ライト・センター間のタイムリーヒット、二打席目は結果こそ

ダブルプレーだったけど、あわやセンター前に抜ける痛烈な当たり。

 それに引き替え、九番バッターはここまで二打席連続で三振している。

 私との勝負を避けるのは当然の判断だ。


 私は、どうすることも出来ずに一塁へ歩いて満塁に。

 と、ここで自チームのベンチに動きがあった。

 ごま塩頭の監督が代打を告げている。

 しかも、代打はなんと腕に包帯をした昨日のライトの子。


 えっ、ええっー。大丈夫なの、あの子で。

 指名された子も意外だったようで、強張った顔をしている。

 センターの子が、肩を抱いて、盛んに元気づけている。

 見てるだけで、こっちが心配。


 さて、代打の子がバッターボックスに入ってプレイ再開。

 相手ピッチャーが投球モーションに入る。

 と、その初球が内角に大きく外れ、バッターの脇腹に当たった。

 押し出しサヨナラだ。

 相手ピッチャーがマウンド上で天を仰ぐ。

 三塁ランナーが本塁を踊りながら駆け抜ける。


 代打の子が一塁へ到達し、ベンチから飛び出した仲間に手荒な祝福を受ける。

 まるで何かの大会で優勝したような騒ぎだ。それも、無理はない。何しろ、この

チームになってから、初めて経験する勝利なんだから。

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