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ふたりの。  作者: 須羽ヴィオラ
すれ違い
28/49

すれ違い #1

 三連休の真ん中の日曜日。私の世界でのソフトボールの試合の日。

 私は配球トレース作戦のために勇んで学校に向かった。

 9時15分前にグランドに着くと…。ソフト部員がグランド整備中。


 ここで今更ながら、ある疑問に気が付いた。茉菜世界では私が助っ人をやってる

けど、こっちの世界では誰が助っ人やってるんだろ。練習試合が組まれたからには

メンバーは9人揃ってる筈…。そう思って、選手を一人一人確かめると…。

 居た、手首に包帯を巻いた子が。

 たしか茉菜世界ではジャージ姿で試合のサポートをしてくれてた子だ。

 何だ、出れるんじゃん。

 件の子の守備位置は外野らしく、練習が始まると外野のノックに加わっていた。

 この子、捕球の方は危なげなくこなしてるけれど、送球の方は頼りない。ボール

の飛ぶ方向と距離がバラバラ。手首の怪我の影響か、それとも練習不足だろうか。


 そこに対戦相手の高校がチームバスでやってきた。知ってる校名だ、この高校も

わりと強豪校。

 どうやら、今回の相手も二軍か三軍らしい。うちのソフト部は弱小なので一軍は

相手にしてくれないのだろう。それに一軍相手だったら、こっちから出向いて行く

のが筋という位の実力差だ。


 さて、ピッチャーの配球が見やすい位置は…と探して、自軍ベンチ後方の応援席

に目立たないように陣取ることにした。

 茉菜世界では、私はさっきの怪我の子の代わり。だから、今この世界で行われる

試合では、あの子に関係するプレイだけをトレースしておけば良い筈よね。


 適当にベンチに腰掛け、バッグからノートを取り出したところで、

「あれ? ナッチじゃね」

 と聞きなれた声。

「剛ちゃん…!?」

 お互い驚きの表情で顔を見合わせる。

「ナッチ、どうしてここに? 外せない用事があったんじゃ?」

「あぁ、あれね…。えーと…、その…。ドタキャンになっちゃったのよ。それで、

急に暇になったから、学校に来てみたらソフトの試合やってたんで…」

 と焦りながら誤魔化す。

「ところで、剛ちゃんは? 由美たちとライブ大会見に行くんじゃんなかった?」

「ライブ大会ね…。あれ、4人で行くなら良いけど、3人じゃな。どうやっても、

2対1になっちゃうだろ。そんで、その1の方、俺だもん」

「はぁ? どゆこと?」

「いや、俺がお邪魔虫になっちゃうからさ、ライブ大会には岳と由美ちゃんだけで

行ってもらうことにした」

「お邪魔虫って…。剛ちゃん、気にしすぎだよ。でも、由美がよくOKしたね」

「だから、集合時間の直前に急用が出来たってウソの連絡した」

「なにもそこまで…。それに由美たち、そんな関係じゃないと思うけどなぁ」

「いいんだよ。その方が…。岳たちにとっては…」

 どうして男子って、なんでも色恋に結び付けたがるんだろ。

 といっても、今更どうしようもないけど…。


「そうだ。ねぇねえ、剛ちゃん。ソフトのスコアブックのつけ方知ってる?」

「えっ? 何でまた?」

「いいから。知ってるの? 知らないの?」

「野球なら知ってるけど…。ソフトも大体同じじゃね」

 こうして、剛ちゃんからスコアのつけ方を教わった。

 とはいえ、必要なのは件の子が絡むプレイの所だけなので、要点だけを覚えて、

あとは自分流に記号の意味や書き方をアレンジすることにした。


「ナッチ。スコアなんかつけて、何をやりたいわけ? ひょっとして、ソフト部に

入るとか?」

 隣に腰掛けた剛ちゃんが尋ねてきた。

 そりゃそうだよね。事情を知らない剛ちゃんとしては当然の疑問。

「ソフト部に知り合いが居てさ。その子に頼まれたというか、何というか…」

 と、其れらしい言い訳。

「ふーん…。なら、良いけど。ナッチ、あんまり色んな事に首突っ込んで、バンド

の方が疎かになるのは、よくないと思うよ」

「そんなことしないよ」

「ナッチが居て4人なら良いんだけど、3人の時は、ほんと俺お邪魔虫なんで…」

「また、そんなことを。そんな卑屈になるの、剛ちゃんらしくないよ」

「いや、そういうんじゃなくて。本当なんだって」

 なんか、今日の剛ちゃん変。

 もう、とにかく私はソフトの試合に集中、集中。


 そうこうする内に、相手チーム先攻でプレイボール。件の子は、ライトの守備で

八番打者。

 1回の表裏は両チーム三者凡退で無得点。

 2回の表、相手チームの先頭バッターが打席に入る。

「ナッチさぁ。ちょっと聞いていい?」

「ん? 何?」スコアを付ける手を止めずに答える。

「俺たち、結構付き合い長いよな。ナッチは俺たちの関係って、何だと思う?」

「幼馴染みでしょ」

「まぁ、そうだけど…。他に言い方ない?」

「腐れ縁…」

「…そうじゃなくて。俺とナッチってもっと親密な関係だろう」

 ? 剛ちゃんってば、何を言いたいんだろ?

「そうね。こい…」

「恋…!?」

「濃い目の幼馴染みかな…」

「何だよ、それ。いや、俺が言いたいのは。俺たちも、岳と由美ちゃんみたく…」

 カキーン。

 その時、ライト方向にフライが上がった。ライトの子は、一瞬後方に動きかけ、

慌てて前進、前進、前進…しても間に合わず、打球はライト前にポトリと落ちた。

 どうみても、ライトの子が目測を誤った感じ。試合慣れしていないんだろうな。

センターの子がドンマイドンマイと声をかけている。


 気が付くと、隣で剛ちゃんが私の顔をじっと見つめている。

「あっ、ごめん。なんだっけ」

「…俺たちも、岳と由美ちゃんみたく成ればいいんじゃねえかってこと」

「うん。そうだね。私たちも、もっとバンドのこと一生懸命やらなくちゃね」

「………」

 私の答えに対して、剛ちゃんは何やら困ったような顔をした。それから、ため息

を一つついて

「…いいや、また。別な機会に話すよ。じゃぁあな」

 と私に背を向けて歩き始めた。

「剛ちゃん、ごめんね。私、うわの空で…」

 剛ちゃんは、私の方は振り向かずに右手を挙げて別れの合図をすると、そのまま

スタスタと去って行った。

 何だっただろ、剛ちゃん…。

 まぁ、いいや。今はソフトの試合の方が大事。


 で、その試合の行方。

 さきのライト前ヒットのあと、エラーとヒットで1点先行された。

 ライトの子も、その後の守備は無難にこなしているので、尚更、初回のヒットが

悔やまれる。

 その後、試合は両チーム無得点のままで進む。

 うちのチームの攻撃は、不思議な巡りあわせで、チャンスの場面にライトの子の

打順が回ってくる。

 だけど…

 2回裏は、2アウト一塁三塁で絶好球を見逃しの三振。4回裏も2アウト二塁で

空振り三振。と結果が出ない。

 6回表に相手チームにソロホームランが出て、0対2になった。

 7回裏、最後の攻撃。ノーアウト一塁二塁のビッグチャンスの場面で、またまた

ライトの子に打順が回ってきた。ところが結果は、サードゴロ・トリプルプレーで

試合終了と最悪の結果になった。

 試合後、ライトの子は責任をしょい込んで泣いていた。センターの子がライトの

子の肩を抱いて慰めている。


 大丈夫だよ。この借りは、私がちゃんと返しておくからね。 

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