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ふたりの。  作者: 須羽ヴィオラ
異変
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異変 #1

 私たちは、その日一日の予定を確かめるために、朝食が終わって着替えが済んだ

後に、互いに連絡を取り合う約束になっている。

 大概はメールで、『今日は入替り無しで頑張る』とか『三限目の数学ピンチ』と

いった具合。大急ぎの時は電話で話すし、込み入った話になりそうな場合だったら

『〇〇時にオバケ鏡で』となる。


 ところが、その日に限って茉菜からの連絡が来なかった。

 こちらから茉菜に連絡を入れようとしても、電波圏外か電源が入っていない旨の

案内が流れるだけ。

 一体、なんだろう。茉菜の性格からして、連絡を忘れるとは考えにくい。

 スマホが壊れた?

 それとも病気?

 今までの経験に照らすと、茉菜の周囲で起きた出来事は、多くの場合に私の周り

でも起きることになっている。けれど、スマホは壊れてないし、私も元気だ。


 仕方がないので、そのまま学校に行ったのだが、茉菜のことが気にかかって授業

どころではなかった。休み時間の度に茉菜に連絡を試みたけど、どうしても繋がら

ない。

 なんだか胸騒ぎがする。

 放課後、バンドの練習をキャンセルしてオバケ病院に向かった。

 入れ替わりは子バケ鏡を使っているので、オバケ鏡の所に行くのは久しぶりだ。

 ここに来たのは、もしも不都合があってスマホでの連絡が出来ないなら、オバケ

鏡を抜けて茉菜が来てくれるのではないか、と考えたから。

 けれど、30分待っても、1時間経っても、茉菜は現れなかった。

 あまり遅くなると、人通りが増えて、人目に付かずにオバケ病院を抜け出す事が

難しくなる。私は夕方5時まで待って、オバケ病院を後にした。


 夜になってベッドに横になっても、茉菜のことが気にかかり、何時まで経っても

寝つけなかった。無駄な事と知りながら茉菜に電話をかけても、圏外を伝える音声

案内が返ってくるばかり。

 12時を回って、私の瞼に眠気のカーテンが降りかかった頃に、メールの着信が

鳴った。

 茉菜からだった。

 良かった、と少しホッする。同時に、何よ、こんな時間に。と不満が浮かぶ。

 さっきまで不安で眠れなかったのに自分勝手な私。


 やれやれと思いながら、茉菜のメールを開くと

『異変が起きた。いま4時30分』

 と書かれていた。

 何これ? 今12時10分でしょ。茉菜ったら夢でも見てんの?


――寝ぼけてないで起きなさい――

 と返信しようとしたところで、再び着信。

 今度は『10分後。姿見。スマホカメラ』

 と書かれている。

 一体なんのクイズ? 茉菜らしくもない。


 先ほど送り損なったメールを送信したら、送信できませんのエラーメッセージ。

 それならば、と茉菜のスマホに電話したら圏外だった。なんなのこれ?


 10分も待てない。部屋の電燈を点け、スマホのカメラで姿見を見てみる。

 姿見を通して茉菜の部屋が見える。

 子バケ鏡で、茉菜の世界が見えることは前にも書いた。けど、自分の片割れとは

いえ、女の子の部屋を覗き見するのは気が引ける、だから普段はこの方法で相手の

部屋を見たりはしない。

 茉菜の部屋を見てすぐに、何かの違和感を感じた。

 暫く部屋の様子をみていたら、違和感の理由が分かった。

 部屋を照らす光が違う。

 私の部屋は蛍光灯の光のせいで全体が青白い。茉菜の部屋は、日光に照らされた

ように自然な明るさ。


 いったいどういうこと?


 と思っている間に茉菜が姿見の前に現れた。なぜか学校帰りの制服姿だ。

 茉菜は鏡の向こうでスマホ取り出すと、私に向かってカメラを向けた。

 これで、茉菜からも私の部屋が見えている筈。

 茉菜が私に向かってOKサインを作ってみせる。私もOKサインを返す。

 すると、茉菜がちょっと待っててのジェスチャをして姿見の前から居なくなる。

 次に茉菜が姿見の前に現れたとき、手に目覚ましい時計を持っていた。

 いつも、ベッドのサイドテーブルに置いてあるデジタル表示の目覚ましだ。

 茉菜がその目覚ましを指さす。


 えっ、と思ってよく見ると、その時計は4時40分を指していた。

 まさか? と思って、私も自分の部屋の時計を持って姿見の前に立つ。こちらの

時計は12時20分だ。姿見の向こう側の茉菜が、こちらを時計を見て、納得した

ように頷いた。


 これって、もしかして……。私たちの時間がズレてるってこと?


 このあと、私たちは姿見越しに筆談をして状況を確かめ合った。その遣り取りを

全て書いていると煩雑になるので、要点を掻い摘んで記しておく。


 現在(この言い方自体が怪しい表現だけど)、茉菜と私の時間は約8時間ずれて

いる。私を基準にするなら茉菜は8時間前の世界に居ることになる。

 スマホでの連絡が出来なかったのは、この時間のズレのためらしい。

 先ほど、一時的に茉菜と連絡がとれたのは、これから書くような事情。


 私と連絡が取れなくなった茉菜は、それを不審に思ってオバケ鏡の前に行った。

 ここまでは私の行動と同じだけど、茉菜はそのあとオバケ鏡を抜けて私の世界に

やってきたのだ。

 茉菜はそこで辺りが夜になっていることに気が付いた。

 そして、オバケ鏡の前から私にメールを送ったのだ。その後、夜中に私の部屋を

訪ねるわけにもいかず、姿見を介しての筆談を思いつき、あのメールを送って来た

のだ。


 とにかく、時間のズレが起きていることだけは分かった。

 さて、これから如何しよう。となるのだが、上手い知恵は出てこない。

 茉菜がオバケ鏡を抜けてこちらの世界に来れたのだから、会おうと思えば私達が

会うことは可能だろう。

 だけど、8時間という時差は微妙。

 どう遣り繰りしても、どちらかが暗い時間にオバケ病院に赴かなねばならない。

 それは、年若い女の子としては困りもの。

 仕方がないので、お互い暫くは何もせず、様子を見るということに落ち着いた。

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