入れ替わり #6
茉菜と出会って暫くして、入れ代わりも大分慣れた頃、どちらがからともなく、
どこかに一緒に遊びに行かないかという話になった。
そこで、少し遠出して海浜公園に遊びに行くことにした。遠い場所を選んだのは
顔見知りに会うのが面倒だからだ。ジャンケンの結果、茉菜の世界にある海浜公園
が目的地と決まった。
茉菜と私が一緒のところは見られたくないので、時間差で電車に乗り、目的地の
近くの駅で落ち合った。
どんな服装で来るかは、特に打ち合わせていなかったのに、会ってみたら見事に
ペアルックになっていた。
白に青のピンストライプのシャツワンピ、白いソックスにハイヒールサンダル、
麦藁帽子に肩掛けバック。
ソックスのアクセントラインと帽子についてるリボンの色だけが違った。私のは
ピンクで、茉菜のはパープル。
やっぱり、私たちはよく似てる。っていうか、本人同士だもの。
海浜公園についた。森の散策コースを通って、フラワーガーデンへ。見はらしの
よい丘に上ると遠くに砂丘が見えた。自転車をレンタルして砂丘へ。そのまま海へ
繋がってると思ったら行き止まりw。
そこから、池のあるエリアに移動。水上のステージで軽音コンサートが催されて
いた。その演奏を聴きながら、自分たちのバンドもこんな演奏が出来ればいいねと
語り合った。
ほんとにデートしてるみたい。気心が通じ合うので、気を遣わなくても済むのが
とても楽しい。
茉菜と私で、同じ花をみて美しいと感じ、同じ空を眺めて綺麗だと思い、同じ風
を心地良いものと受け止める。同じ時間と空間を共にしていることが、とても嬉し
かった。
そうだ、少し困ったことにも出くわした。
並んで歩いたり、ベンチに座ったりするとき、茉菜と私はどちらも左側の位置が
好みのようだ。そこで、軽い場所取りゲームが始まるのだが、それはそれで子猫が
じゃれあってるようで、可笑しかった。
散策を楽しんだあと、池の近くのレストランで食事をした。
食事のあとは、草原のエリアにいって草の上の寝転がって羽を伸ばした。
のんびりと退屈した時間を、思いっきり愉しんだ。
午後、公園内を散策していて、マスコットキャラの顔出しパネルを見つけた。
マスコットキャラは二匹のリスで、パネルには顔をだす穴が二つ開いている。
そこで、私たちは面白い動画を撮ることを思いついた。
まず、茉菜にパネルの裏に隠れていてもらう。
私がパネルの前を通りかかり、パネルの裏に回って顔を出す。でも穴は二つある
ので、どちらか一方しか顔を出せない。私が悩んでいると、もう一つの穴に同じ顔
の茉菜が現れる。最後にパネルの裏から茉菜と私が手を繋いで現れるという内容。
これをスマホのカメラで撮影してみた。
なんか分身の術を使ってるように見えて、自分たちだけ大ウケした。
あとで動画をコピーしてもらって、SNSに投稿しようかな。
これで、わたし達も四~つ~葉~。
さて、楽しい時間は、あっという間に過ぎた。
歩き疲れたせいで帰りの電車のなかでは肩を寄せ合って眠った。
出発するときは、顔を見られないように、時間をずらす細工をした。けれども、
一日ずっと一緒にいたせいか、それが当たり前の事に思えて、帰りの電車では改札
を同時にくぐった。
楽しかったデートも終わり、オバケ鏡の前でサヨナラすることになった。
その時、私はほんの軽い気持ちで
「私たち、一緒の家に帰れたら良いのにね」と話した。
そうしたら、
「そうだね。そして、そのまま、ずっと一緒に暮らせたら良い」
と茉菜が答えた。
その言葉と、今日一日の思い出が胸の中を駆けめぐり、私たちは、いつのまにか
泣きながら抱き合っていた。
私たちが出会ったのは、ほんの数週間前だけど、それより前からお互いをずっと
見知っていたような気がする。このまま別の家に帰っていくことが、自然の摂理に
反しているようにさえ思えてくる。
私たちは一つなんだ、お互いがかけがえのない存在なんだということを、私たち
は自分たちの流した涙とともに、心の底から理解した。
嗚呼、このまま私たちの時間がいつまでも続いて欲しい、そう願った。
けれど、異変は何の前触れもなく、私たちの元にやってきた。