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ふたりの。  作者: 須羽ヴィオラ
入れ替わり
23/49

入れ替わり #4

 相手チームを見送り、練習試合はおしまい。ソフト部の練習は、このあとも続く

らしいけど、助っ人の私はお役御免。

 と思ったら、キャプテンと高橋さんが連れ立って私のところにやってきた。

「佐藤さん。さっきはつっけんどんな態度で御免なさい。あなた、見直したわ」

 とキャプテンが頭を下げる。

「いや、おかげさまで…」

 さっき嫌味を言われたのが頭に残っていて、変な返事をしてしまう。

「佐藤さん、あなたソフトの才能あるわよ、うちの部に入らない」

 そら来た。茉菜の言ったとおり。でも、ここは断りを入れないと。

「えーと、御免なさい。あのぉ、私、部活やらない主義なんです」

「そうなの? 勿体ない。才能の持ち腐れよ、うちなら即レギュラー間違いなし」

「ソフトの才能というか、私ってスポーツ全般得…」

 得意なの、と言おうとして急ブレーキ。余計な事を口走るとこだった。私は今、

茉菜だった。

「…得意じゃないの…。ルールが絡む球技は特に…」

「あれで不得意なの!?」とキャプテンと高橋さんが顔を見合わせる。

 拙い! これ以上会話を続けるとボロが出そう。

 じゃぁこれで、とその場を退散しようとすると、来週も練習試合に出て欲しいと

頼まれた。入部じゃないから、これは良いんだよね、と考えてOKしておいた。


 〇


 オバケ鏡の前に戻った。茉菜はまだ帰っていない。

 ソフトの試合にしろ、バンドの練習にしろ、開始時間は決められるけど、お終い

の時間は決められない。

 ああ、お腹空いた。なんか食べときゃよかった。

 それから、かれこれ20~30分待たされて、やっと茉菜が帰ってきた。

「もう。遅いー」と膨れっ面をすると、

「あー。御免御免」と言いながら、茉菜が私を『友達ハグ』。

「わっわっわっ、どしたの?」

 ハグされるって、結構恥ずかしいって分かった。でも、茉菜の髪、良い香りだ。

「今朝のお返し」

「えー!」

 茉菜もこんなことするんだ。

「何か良いことでも有ったの?」

「あったというか、これからあるのかも」

「はぁ???」

 何だか、謎めいたことを言う茉菜。


 ここで、お互い状況報告。

 ソフトの試合は、強豪校とやって1対7で敗戦。

 自分はヒット一本と、タイムリーエラーを呼ぶサードゴロ一本だと説明した。

 茉菜は関心無さげに、ふーんと頷いた。

 ルール分かってる? そうか、茉菜は元々スポーツ苦手なんだっけ。


「バンドの方の話は盛りだくさん」

 と茉菜が浮き浮きしながら話してくれた。

 まず、挑戦する楽曲は、日本の古いフォークソングに決まった。英語じゃなくて

少しホッとする。聞いたことのある曲名だと思ったら、むかし合唱曲として音楽の

教科書に載ってたかもしれない。取り敢えず、この曲から手をつけてレパートリー

を増やすんだと決まったとのこと。


 パートは、由美と私がボーカル。剛ちゃんギターで、岳くんエレクトーン。

 こちらも、それぞれ演奏できる楽器を増やしてく話になっている。

 由美はむかし習ってた事があるのでエレクトーン。剛ちゃん岳くん私もギターと

ベースが弾けるように練習する方針。

 

「そころで、芽菜に聞いときたいことがあるんだけど」

 茉菜が意味ありげな笑みを含みながら私に尋ねる。

「芽菜ん所の由美ってさ、いつもあんなに明るいの?」

「ああ、あれ。由美ってさ、バンドの話が出てから急に変わったんだよ。岳くんの

呼び方だって、これまでは”本山さん”とか”本山君”だったのが、”岳くん”に

なってるし、今まで敬語で話してたのがタメ口になってるし」

「なるほど」

 茉菜がしきりに関心してみせる。一体何なんだ。

「でも、これでやっと普通なんだけどさ」と私は付け足した。

「それはそうなんだけどね…。そうか、私の方でもバンドやってみようかな」

「賛成、賛成、大賛成。音楽なら、由美中心でできるもの」

「うん。それに…。ひょっとすると、ひょっとするかも…」

「えっ? 何が?」

「あっ、こっちのこと。こっちのこと」


 茉菜が何の事を言っているのかは、良くわからない。

 だけど、この日の私たちの入れ替わりが大成功だったことは間違いない。

 これで気をよくした私たちは、偶然にも繋がった私たちのパラレルワールドを、

断然楽しむことに決めたのである。

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