表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたりの。  作者: 須羽ヴィオラ
入れ替わり
21/49

入れ替わり #2

 日曜日の朝。


 いよいよ、入れ替わりの日。

 8時丁度にオバケ鏡の所で茉菜と待ち合わせ。

 時間ピッタリに行ったら、やっぱり茉菜が先に来てた。

「ごめん、待たせちゃった?」

「ううん。いま来たばかり」

 なんか初めてのデートでの会話みたいじゃない?


 デート経験はないんだけど。初デートの時って、こんな感じなんだと思う。

 何が楽しい事が起こりそうな予感のワクワク半分、失敗したりしないかと不安な

ドキドキ半分。

「ねぇねぇ。茉菜はワクワク、ドキドキ。どっち?」

「私は、ワクワクかな。芽菜は?」

「私も、ワクワクかな」

 これで意味が通じるんだから、やっぱり私たちは私たちだ。


「そうだ、芽菜。これ」と茉菜がバックからユニフォームを取り出す。

「ありがとう」

「洗ってあったみたいだけど。私がもう一度洗っといた」

「えー。ありがとう」

 さすが茉菜、色んなとこに気が回る。というか、私への気遣いがすごく嬉しい。

 感謝の気持ちを込めて、茉菜を『友達ハグ』。

「ちょ、ちょっと。何するの…」

 茉菜の頬が朱くなる。

「感謝の気持ち…」

「もう。芽菜は行動が予測不能なんだから、ほんとにー」

「えへへ」と私も照れ笑い。

「調子に乗って怪我なんてしないでね」

「わかってます。わかってます。準備怠り無しよ。昨日、スポーツブラ買ったし、

バッティングセンターにも行ったし」


「はいはい。わかりました」

 私の能天気さに、茉菜は半ば諦め顔。

「でも、真面目な話として、注意点とか話し合っておきましょうか」

 と茉菜が真顔になる。

「注意点って?」

「いつもの自分と矛盾して見られないように、こうして欲しいとか、こうしないで

欲しいとか、そういうこと」


 それなら、私からお願いしておきたいことがある。

「バンドの方だけど。まだ、なに歌うとか決まってなくて…。もしも、英語の曲に

決まりそうだったら、少し抵抗してみてくれない。私、英語で歌う自信ないの」

「練習すれば平気だと思うけど…」

「もちろん、決まったら一生懸命練習するけど。出来れば…、ささやかな希望…」

「わかった」

「ありがとう。茉菜の方は、何かある?」

「えーと。キャプテンって人が、私のことを…つまり芽菜のことになるんだけど、

あんまり信用してないみたいなのね。だから、皮肉とか言われるかもしれないけど

我慢してくれる」

「わかりました。頑張って見返してやればいいのね」

「そこまでしなくて良いのよ。頑張りすぎて怪我とかしないでね。あと、ひょっと

するとソフト部に入れとか言われるかもしれないけど、それは断って」

「わかった。私も部活とかは苦手だし…」

「そうじゃなくて、私がソフト部に入ることになるからよ」

「そうか。なんだかややっこしい」

「あと…。剛ちゃんのことだけど…」

「ん?」

 茉菜が次の言葉をためらっている。

「剛ちゃんが何?」と私が促すと

「剛ちゃんは…、その…。上手くあしらっといて…」

「えっ? どいうこと?」と聞くと、

「わ、分かるでしょ。私も方も上手くやるから」とはにかんだ。

 なんか意味不明。剛ちゃんと喧嘩でもしてるのかな? まぁ、いいや。

「わかった」と深く考えずに返事をしておいた。


 さて、とにもかくにも、準備は整った。いよいよ、これから入れ替わり開始。


 ○


 ソフト部の練習試合は9時集合になっている。

 それに合わせてグランドにいったら、既にソフト部の子たちがユニフォーム姿で

グランド整備をしていた。

 高橋さんを見つけたので走って行って

「おはようございます。よろしくお願いします」

 と挨拶したら、隣で腕組みしてた子が私を一瞥して

「遅いのね」と嫌味たらしい言葉を吐いた。

 私がムッとすると。高橋さんが割って入って、

「佐藤さん、来てくれてありがとう。着替えはこっち…」

と私を部室へ引っ張っていった。

 そうか、あの人がキャプテンなんだ。顔がキツくて気位高そう。

 このとき、何で高橋さんが私のことキャプテンに紹介してくれないんだろうと、

思ったけど、既に茉菜相手に紹介は終わってるんだと気が付いた。入れ替わりの際

には、こういう微妙なとこまで考えとかなくちゃいけない。自己紹介とかしなくて

よかった。

 部室でユニフォームに着替えたあと、高橋さんが私のために、引退した三年生の

スパイクとグローブをみつくろってくれた。

 着替えながら、ソフト部に限らずうちの高校の運動部では、集合時間の15分前

に来て準備を始めてるんだった聞かされた。そんなの先に言ってよ、もう。


 校庭に戻ると、グランド整備が終わり白線が引かれていた。高橋さんから、私は

ライトで8番だと告げられた。茉菜の話では、キャプテンから立ってるだけでいい

と言われたらしいけど、それも悔しいので外野の練習に混ぜてもらった。

 外野練習してる子たちに、宜しくお願いしますと挨拶したら、よそよそしい返事

を返された。知らない顔ばかりなので、みんな一年生なのだろう。

 外野ノックしてくれるのは、どうやら三年生らしい。コーチの先生は何処と辺り

を見回すと、ベンチにゴマ塩頭の痩せた先生が似合わぬユニフォームで座ってる。

どうやら野球やソフトの経験など無さそうに見える。


 外野ノックは結構、悲惨だった。私がではなく、他の一年生の子たちが…。入部

して日が経っていないのか、それとも練習量が不十分なのだろうか。目測を誤って

フライをバンザイしてみたり、ゴロをトンネルしてみたりと、助っ人の私のほうが

上手い気がする。

「あなたたち、試合前からビビッててどうするの」とノッカー役の叱責が飛ぶ。

 なるほど、この一年生たち初めての試合で緊張してるんだ、と納得。

「ちょっとタイム」

 ノックしてる三年生にタイムをかけて、一年の子を集める。

「あなたたち、試合初めて? エラーが怖い?」と聞くと、緊張した顔で頷いた。

「平気、平気。人間ってみんな失敗するもんなのよ。失敗したら、次はすこしでも

良い失敗をすればいいの」と父の受け売りを語って聞かせる。

 一年の子が理解不能? みたいな顔してるので、

「じゃぁさ。試合で最初にボールが飛んできたら、必ずエラーする事にしとこう。

それなら気が楽でしょ」

 えー!? という顔で一年の子が顔を見合わせている。

 それを半ば無視して、ノック再開してください、とノッカー役に声をかけた。

 果たして私の薬が効いたのか、一年の子達がボールを逸らすことはなくなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ