出会い #4
『パラレルワールド』
またの名を『並行世界』
以前、由美がSFっぽい漫画を描きたいって言ったときに、調べたことがある。
この世界から分岐して、それに並行して存在する別の世界の事。
本当にそんなものがあるなんて。想像の中だけの話かと思っていた。
たしか、物理学の世界でもパラレルワールドを研究する人たちがいる。と何処か
で読んだ気がするけど、まさか、自分自身の身で体験することになるなんて。
漫画や映画の世界だったら、パラレルワールドを行き来しての大冒険とかになる
のだろうけど。現在体験中のパラレルワールドといえば、同じ顔の女の子が言合い
したり、仲良くなったり。怒ったと思えば泣いたり笑ったりするだけの、いたって
平凡なストーリー展開。
今のところ、こうなった原因も理屈も何一つ分からない。分かっているのは、私
の世界と茉菜の世界が、オバケ鏡で繋がっているということだけ。
三日前、私と茉菜はオバケ鏡を通して初めて入れ替わった。
お互い、それと気づかず相手世界の自宅に帰り、微妙な違いに戸惑った。この時
どうやって、元に戻ったかは謎だけど。そのうち分かる事になるだろう。
一昨日、何が切欠か分からないけど、私と茉菜はまた入れ替わった。
自分たちも、そして周囲の人間も、その事に気づかないままに、私たちは数学の
テストを受けた。これが、私の100点テストの種明かし。
悪戯でもなんでもない、初めからどこにも悪意など無かったんだ。
そうだ。私、茉菜に謝らなくちゃいけない。
「茉菜。あの、御免ね。さっき手荒に扱ったりして…」
「いいよ。許してあげる。だって、お互い何が起きてたか分からなかったんだし」
「ほんと!?。ありがとう」
「それにしても良く似てるよね。私たち」
「ほんと、そっくり。てか、本人同士なんだから、同じでなきゃ駄目でしょ」
「そうだね…。あっ…」
茉菜が何か思いついたらしい。目がキラキラと輝いてる。
「ねえねえ、芽菜。ちょっと、回ってみてくれない」
ん? と思いながら、右回りにクルリと体を一回転してみせる。
もう一回、ゆっくりと。と注文されたので、その通り回っていると、茉菜に背中
を見せたところで、
「止まって」
と言われた。
私の背を見ながら、茉菜がふむふむと何やら感心している様子。
「ねえねえ。どうしたの」
「自分の後姿って、普段見たことないでしょ。だから、どんなかなと思って」
「そう言えばそうだね。で、どうだった」
振り向いて尋ねる。
「うーん。自分で言うのは、ちょっと恥ずかしいような…」
と照れる茉菜。
「ずるーい。私にも見せてよ」
「こ、こうかな」
と、茉菜が恥ずかしがりながら後ろ向きになる。
ふーん、なるほど。茉菜の言う意味が分かる気がする。
茉菜が振り返り、どうだった。と興味津々の顔つき。
「思ってたより、うなじが綺麗で可愛かった」
「だよね!!」
「でも、自己採点甘すぎかな?」
「そうだね」
といって茉菜が声をあげて笑った。つられて私も笑顔になった。
「ところでさ。私たち、なんで名前が違うんだろ」
茉菜に疑問を投げかけてみる。
「パラレルワールドって皆同じゃなくて、分岐の度に少しづつ差がでるんでしょ。
きっと、私たちの名前をつけるときの条件が、微妙に違ったのよ」
「なるほど」
「でも、名前が違ってて良かったじゃない。同じだったら、お互いに呼び合う時に
不便だもの」
「そうだね」
「それにさ。違うのは名前だけじゃないでしょ。芽菜ってさ、思ったことが直ぐに
言葉や態度に出ちゃう人でしょ」
「そうそう。それで、幾度しくじりをしたことか。茉菜は逆だよね。じっくりと、
考えてから行動するタイプ」
「そうそう。それで、幾度チャンスを逃したことか」
「お互い、うまくいかないね」
「そうだね」
「「嗚呼、私、{茉菜・芽菜}になってみたい」」
変な風にハモったので、笑えた。
「それとー」
と言ってから、茉菜がまた悪戯っぽく笑う。
「芽菜って、勉強が得意じゃないでしょ」
「えー。それを言う!?」と私は口を尖らせる。「そりゃ、数学や物理は平均点に
遠く及ばないけど、他の教科は平均点近くまでいくんだからぁ」
「越えないんだ」
と茉菜が笑いながらツッこんだ。
「もう! 確かに勉強は不得意かも知れないけど。これでもスポーツは…」
あーっ!!
茉菜が急に素っ頓狂な声を発して、私の台詞を吹き飛ばした。
「私、大変なこと思い出した」