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ふたりの。  作者: 須羽ヴィオラ
出会い
17/49

出会い #3

 一通り質問の応酬が終わると、また茉菜が腕組みして何事か考え始めた。

 暫くして

「細かい違いはあるけど、大体同じと思っていいわね」

 と独り言のように呟く。私も同じ意見なので頷いてみせる。

「でもさ、今までのは調べようと思えば調べられる事ばかりでしょ。だから今度は

他の人が知らない事を聞くことにしましょう。本人しか知らない秘密」

「どういうこと?」

「普段思ってても他の人に言ってないこと。イヤな事とか、嫌いな事。例えば…、

中学校で嫌いだった先生は?」

「丹沢」

「即答なのね…。バスケ部の丹沢先生。私がバスケ部に入部希望したとき、お前は

才能無いから駄目だって門前払いされた。一大決心で運動部入ろうとしてたのに」

 私の場合、丹沢先生の依怙贔屓のせいでバスケ部辞めることになった。この子は

その経験はしてないみたいだけど、その方が幸せかもしれない。


「じゃぁ、今度は芽菜が質問して」

 と言われたので、暫く考えてから、ちょっと意地悪な質問をしてみた。

「小学校でつけられた嫌な綽名」

 えっ、と言って、それまで表情を変えずに話していた茉菜の顔が曇った。


「ほんとに…嫌なこと…聞くのね…」

 ため息交じりの言葉が搾り出される。

 茉菜が視線を在らぬ方に向け、遠いものを見る眼差しになる。

「ナッパ…。…剛ちゃんにつけられた…」

 と見る間に、茉菜の目に涙が溢れ、一筋の雫が頬を流れ落ちた。

「御免ね。思い出すと、今でも涙が出ることがあるの。笑わないでね」

 指先で涙を拭いながら、茉菜が小さくなってつぶやく。

 茉菜の涙を見て、私はこの話を切り出したことを少なからず後悔した。胸の辺り

が冷たくなる。

「笑ったりしないよ。だって、私もそうだもの」

 自然に応えが口をつく。


 今まで会話を仕切っていた茉菜が呆けたので、私が話しを続けることになる。

「剛ちゃんが、アメリカに行くって言ったあと、何故だか私をナッパって呼ぶよう

になったんだよね」

 茉菜が相槌を打つのをみて、私は話を続ける。

「でも、その名で呼ばれるたびに、『お前は、只の菜っ葉だ。アメリカに行ったら

お前なんか要らない』。そんな風に言われているように思えて、悲しくなった」

 当時の事を語るうちに、私の胸にあの時の痛みがよみがえってくる。

 目頭が熱くなってくるのが分かる。だめだ、涙がこぼれる。そう、思った時には

既に頬が濡れていた。

 手の甲で涙を拭って前をみると、茉菜が優しい眼差しで私を見ていた。


 茉菜が話を引き取る。

「それで、剛ちゃんに、もう、その名前で呼ばないでって、お願いしたんだよね。

そしたら次の日、剛ちゃんが『今日から茉菜はナッチだ』って言ってくれたの」


 うんうんと頷く私。

「そうそう。それで、私はもうナッパじゃなくなったんだって、安心した」

そのシーンを思い出すと、心が温かくなる。

 笑顔を取り戻した茉菜が大きく頷く。

「それに、剛ちゃんが私の願いを聞き届けてくれたと思うと、とても嬉しかった」


 オバケ鏡の前で、泣き笑いをした二つの顔が見つめあう。

 この子は、私と同じ思い出を持っているんだ。

 私と同じ心を持っているんだ。

 私の全身が、そのことを強く感じている。


 肩の力が抜けて、穏やかな気持ちで心が満たされていく。

 私は、この子をずっと昔から知っている気がする。

 この子は偽者なんかじゃない、この子は私だ、もう一人の私なんだ。


「私たち、同じこと考えてるよね」

 茉菜の言葉にハッと正気に返る。

「うん。多分」私は茉菜の瞳を見据えて答える。

 茉菜が頷き返す。

「私たち、同じなんだね」

「そう、私はあなたで、あなたは私…」

「そして、いま私たちが体験しているこの現象は…」

「きっと…」

「間違いなく…」

「「パラレルワールド」」

 見事にハモった。

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