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ふたりの。  作者: 須羽ヴィオラ
出会い
16/49

出会い #2

「もう離さないんだから」

 鏡の子の背中にまわした両腕に力を入れる。

「ええー。なに、何。どうなってんの?」

 鏡の子が、この期に及んで疑問を口にしながら抗う。

「可愛い声出したってダメ。さぁ、正体を見せなさい」と私。

 鏡の子の両肩をつかんで、正対する。

「ええー。ええー。ええーっ!!」

 私の顔を見て、今更ながら驚愕する鏡の子。

 驚いている点は私も同じ。この子、本当に私そっくりだ。


 感心してる場合じゃない。この子の正体を暴かないと。私は両手で鏡の子の顎の

辺りを掴んで思い切り引っ張った。

「キャー。痛い、痛い。止めてー」

 鏡の子が悲鳴を上げる。

 さすがに女の子相手にこれはやり過ぎか、そう思って手を放す。

「もう、何なのよ。一体」

 鏡の子が顎を摩りながら、恨みがましい目で私を見る。

「それはこっちのセリフ。一体なんのつもりで、あんな悪戯するの?」

 それには答えずに、鏡の子は両の掌を下に向け、「落ち着け」のジェスチャーを

する。

「とにかく、一回落ち着きましょう。落ち着いて…落ち着いて…」

 私を落ち着かせたいのか、自分を落ち着かせたいのか。多分、両方だろう。

 私の質問はスルー? と思ったけど、取りあえず落ち着くことに否やはない。


「ここ、オバケ病院よね」と鏡の子。

「当然でしょ」と私。

 なるほど、と言うと、鏡の子はやおら後ろを向く。

「ダメ。逃がさないんだから」

 と鏡の子の腰にとりつく。

「逃げたりしないわよ」

 鏡の子は振り返って、私の目を見る。

 逃げ出すそぶりはないので、腰に回した手を放す。

「ありがとう」

 鏡の子が礼を言う。なんだ、意外に素直ジャン。

 鏡の子は再び、私に後ろを見せると、鏡の中に頭を突っ込んだ。

 ゲッ!? 

 鏡の中に頭がのめりこんでいく。どういうこと?

 鏡の子は、一度鏡から頭を引き抜くと、鏡の表面の様子を確かめ、再び鏡の中に

頭を捻じ込んだ。そして、最後に鏡から頭を出すと、なるほどと一言呟いた。


「何が『なるほど』よ、分かるように説明して」

 と強い調子で言うと。

「自分で見れば解るわ」

 といって、鏡の前の場所を明け渡した。


 私は鏡の前に進み出て、恐る恐る鏡に顔を近づけていく。

 もう直ぐぶつかる。

 だが、何かに当たる感触はなく、私の頭は鏡を突き抜けた。

 私がそこで見たのは、オバケ病院の談話室だった。

 頭を引いてみる。鏡に映った自分が見える。その背景には左右反転した談話室の

鏡像が見える。

 再び鏡の向こう側を覗くと、なぜか向こう側の談話室は左右反転していない。


 私は何が起こっているのか理解できぬまま、鏡から頭を戻して後ろを振り向くと

鏡の子が神妙な顔で立っていた。私は何が何だか分からないという体で首を左右に

振る。鏡の子は無表情のまま頷く。

「私も何が起きてるか分からない。とにかく先ず、お互いに名乗りましょう。私は

佐藤茉菜」

「あーっ。やっぱり、あなたが茉菜なのね。一体、悪戯の目的は何?」

「まぁ、落ち着いて…。それで、あなたの名前は?」

 また、私の質問スルーする。ほんとにもう、この子は。

 でも、名前くらい名乗ってあげるわよ。

「私は、佐藤芽菜。これで、どう」

「あー、やっぱり。私の想像通りだった」

 そういうと、茉菜と名乗った子は腕組みをして何やら考え始めた。


 そして、

「ねえ。さっきから悪戯、悪戯って言ってるけど、何のこと」

 と逆質問。

 私は、待ってましたとばかりに、自分のスクールバックから件のテストを取出し

て、茉菜の鼻づらに突き付けた。

 茉菜はそのテストを私の手から引き抜き、

「これ、私のだ」

 とため息をつき、さも呆れたという顔で私を見る。

「あのさぁ。どこの世界に他人に100点取らせて喜ぶ悪戯があるの?」

 うっ。確かにそうだ。それを言われると、返す言葉が見つからない。

 茉菜はもう一度、大きなため息をつくと、やおら鏡の中に入っていった。

 えっ。どうしたの? まさか逃げ出した?

 茉菜を追いかけようと鏡に近づくと、鏡に映る談話室の鏡像の他に、うっすらと

向こう側の様子が見えている事に気がついた。茉菜の姿も見えている。

 と思う間もなく、茉菜はスクールバッグを提げて鏡の向こうから戻ってきた。

「悪戯ってのは、こういうのでしょ」

 と言って、茉菜がスクールバッグから取り出したのは、55点と書かれた数学の

テストだった。予想通り、氏名欄には佐藤芽菜と書かれている。

 やった、平均点超え! と喜んだが。なんだか肩身が狭い。


「これは、元の所有者に戻すのが良いわね」

 茉菜はそう言って100点のテストを自分のバッグに仕舞い込んだ。

 私の手元には55点のテストが残った。

 あぁ、いい夢見させてもらった。サヨナラ100点さん。もう二度と会えそうも

ないけど…。


 そのあと、茉菜は暫く何か考えていたが、やおら

「えーと、あなたの事、芽菜って呼んでいいかしら」

 と聞いてきた。私が頷くと

「じゃぁ、私のこと茉菜って呼んで。それと、ちょっと確かめたい事があるから、

幾つか質問していい?」

「えーっ!? なんか尋問されるのは嫌だな」

「そんなんじゃないんだけどな。うーんと…、じゃぁ、お互いに質問し合うことに

しましょう。芽菜から始めて。なんか私について質問してみて」

 どんどん茉菜のペースになってる。まぁいいか。この子、私より頭よさそう。


「家族構成は?」

「私は一人っ子で、お父さんは佐藤和弘、お母さんは佐藤陽子。合ってる?」

「合ってる」

「じゃぁ、次は私からね。向こう三軒両隣は?」

「向こう三軒は、左から、板倉さん、稲生さん、中澤さん。右隣は川井田さんで、

左隣は江原さん」

「うん。合ってるわね」


 この調子で、親戚関係・友人関係・学校関係の個人情報を照らし合わせていった

のだが、みな驚く程に一致していた。

 中には一致しない項目もある。

 例えば、スマホの電話番号。

 他には、食べ物や色の好みが微妙に違うらしい。


 さて、このような遣り取りを交わすうちに、今までの一連の不思議を説明できる

ある単語が、私の頭の中にボンヤリと形を作りはじめていた。

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