表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたりの。  作者: 須羽ヴィオラ
不思議
14/49

不思議 #3

 ベッドに横になって天井を見る。まだ、寝りたいとは思わない。

 天井のクロスの模様を目で追ってみるが、一向に、眠気など訪れそうにもない。

 寝返りをうつ。

 オバケ鏡の前で何があったのかを、思い出してみる。


 スーッと魂が脱け出す様な感覚だった。いや、魂というより意識が抜きとられた

のかもしれない。ボーっと何も考えられなくなり、鏡に引き寄せられていった。

 引き寄せられた? そうか、私を呼んでたのはオバケ鏡だったんだ。


 でも待って。私が学校の屋上で感じたのは人の印象だった。そりゃ、光みたいな

のも感じた。けど、やっぱり人だった印象が強い。

 じゃあ、オバケ鏡に人の姿が映って、それが屋上から見えたってこと?

 いやぁ、それは無理でしょう。あの鏡の位置では、建物の外からは見えないよ。

建物の正面のガラス張りは、全部目張りしてあったし。


 学校とオバケ病院の位置関係を頭の中の地図で照らし合わせてみる。

 うーん、どうにもよく分からない。そもそも、オバケ病院のことなんて、今まで

気にした事なんて無かったんだもの。

 あっ、そうだ。

 たしか、高校の屋上で町並みをスケッチした時、オバケ病院の辺りも描いていた

ように覚えている。

 私はベッドから飛び起きて、スクールバッグの中からスケッチブックを引っ張り

出し、ページの当りをつけてスケッチブックを開く。


 あった。

 だけど…。私が目を奪われたのは、屋上からの風景画ではなかった。

 街の景色を描いた同じページに、見覚えのない人の顔が幾つも描かれている。

 私は人物画は得意ではない、だから私がスケッチするのは風景か静物がほとんど

だ。このスケッチブックにも人物画を描いた記憶はない。それなのに…。


 描かれているのは一人の男子の顔。それも肖像画のように澄ました顔でなくて、

表情豊かな顔が幾つも描かれている。

 ひょっとして、これみんな剛ちゃん?

 描かれた顔を見比べていて、そう思った。残念ながら、あまり上手とは言い難い

が、なんとなく雰囲気を掴んでいる。

 一体だれが描いたんだろう?

 由美? …は違う。由美が屋上で描いたバスケの絵に剛ちゃんの絵も混ざってた

けど、もっと格段に上手だった。

 岳くん? …の絵はもっと漫画チックだったし。

 剛ちゃん? …の訳はない。剛ちゃんの絵は絵と呼べる代物ではない。そのこと

は本人も自覚していて、自分で描いた絵を人に見せるなんてありえない。


 じゃぁ、だれの? 私が? まさか? 全く記憶にございません!

 不思議な事に、風景画の方は私の絵なんだよね。けど、風景画の方も、もう少し

描き足してあったような気もする。


 それとも、他人のスケッチブックを持ってきた? そう、思ってスケッチブック

の表をあらためる。

 あれっ!?

 また。『あれっ!?』だ。一体ぜんたい、今日何回目の『あれっ!?』

 スケッチブックの表には、『佐藤茉菜』と書かれている。

 ご丁寧にも、その下にローマ字で、Satoh Manaとある。

「マナ? なによ、これ」

 と思わず声がでる。


 佐藤芽菜と佐藤茉菜。違うのは一字だけ。

 『芽』と『茉』。

 似てないことも無いけど、書き間違えるような字体でもない。だいいち読み仮名

がManaになっている。

 誰がこんな事したんだろ、ワザワザ別人のスケッチブック用意して…。

 それとも表紙だけ替えた?

 なんかの悪戯だろうか?


 悪戯? ホントにそう?

 さっき、お母さん、私のこと『マナ』って呼んでなかった?

 それに、剛ちゃんからの手紙の宛先もManaだったし…。

 じゃぁ、ひょっとして、私いま『茉菜』って子になってるって事?

 

 いや、待て。落ち着いて考えるんだ、芽菜!

 こんな夢見たいな話がある訳がない。

 あ、そうだ。夢なんだ、これ。

 っと思って、頬っぺたを思いっきりつねったら痛かった。

 うー。夢じゃないよー。


 自分が自分あることを確かめる方法? えーと。そうだ! 鏡を見ればいい…。

 だけど。今日は鏡のお世話にはなりたくないんだよな。そもそも、一連の不思議

はオバケ鏡が原因のような気がするし。

 えーと。何か良い方法は…


 そうだ、閃いた。スマホという文明の利器があるではないですか。

 オバケ鏡の呪いだか魔法だか知らないけど、こっちはスマホだよ、スマホ。現代

科学の結晶だよ。呪いなんて前近代的なオカルト現象、すぐに正体を見破ってやる

んだから。

 私は、バッグからスマホを引っ張り出すと、すぐさま手鏡アプリを起動させる。

 とはいえ、やっぱり映し出されるのが自分以外の顔だったらショックなので、心

を落ち着かせてから、イッセのセでスマホの画面を覗き込み。


 私だよ。紛う方なき私だよ。

 グスッ…。一瞬涙がでるかと思った。

 やっぱり、私は佐藤芽菜ご本人で間違いありません。

 ああ、良かった。

 安堵感で肩の力が抜けた。

 その拍子に

 「はぁ、私、芽菜でよかった」

 と言葉が出た。


 ワァッ!!


 次の瞬間、私はスマホをベッドに投げ出していた。

 だって、スマホの中の私は、言った言葉とは違う口の形をしていたのだもの。


 なによ、なによ。もう勘弁してよ。スマホまで当てにならないの?

 いや、そうじゃない。却ってスマホだから、よくないのかも。

 画面の歪みとか、それともアプリのバグとかいう奴かもしれない。


 私は気をとりなおして、ベッドに投げ出したスマホを手に取った。

 そして、おそるおそる指先をスマホの画面にタッ…


 ○


 ……。どれくらい時間が経ったのだろう。

 私はベッドで横になった状態で目を覚ました。手にスマホを握りしめたまま…。


 私、今まで何を…。

 起き上がって、スマホの画面を見てみる。私が映ってる。

 そうだ、手鏡アプリで自分が自分なのかを確かめてたんだっけ。

「メェ、ナァ」と口の形がはっきり分かるよう自分の名前を呼んでみる。

 大丈夫だ。ちゃんと自分の名前の口の形だ。


 ベッドの上に置いたままのスケッチブックを取り上げてみる。

 表紙の名前は…佐藤芽菜になっている。

 ページを繰ってみる。私の描いた風景画だけが残ってる。剛ちゃんらしき人物画

は消えていた。

 窓際に干してあるバスタオル、カーテン、パジャマの色もピンクに戻っている。

 壁掛け収納ポケットからは剛ちゃんの絵葉書が無くなっていた。

 何もかもが、普段の自分の部屋の様子に戻ってる。


 いや、一点だけ違いがある。

 剛ちゃんの絵葉書が六枚ばかり机の上に並べられている。

 これは何を意味しているんだ?

 いったい、さっき私が見たものは何だったんだろうか?

 全部が夢?

 茉菜って、私の見た夢だったの?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ