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第八話 タナカ・イチロー

本日最後の投稿です。ここから農業が始まります。


できればここまでくらいは読んでいってくれると嬉しいです。

この世界における最も偉大な偉人は誰であるか。


農民が戦争を終わらせるために初めて革命を起こしたナボリオン・バルバティーか。


この世の農業方法の土台を作り上げた男ラヴァトール・リンネであるか。


100種の新たな品種を作り上げた天才ブリック・フィティか。


彼らの名前を挙げる人ももちろんいるだろうがそんな人々も彼の名前を出せば皆が納得する。


農業神タナカ・イチロー。


彼が歴史の表舞台に立ったのは10年にも満たないがそれでも彼の与えた影響は大きすぎた。


当時最も富、武力、権力を持ち今でも食神と呼ばれる皇帝アルドリス。彼は大の美食家で美味なもの以外は体が拒否反応を起こし食べることができなかった。


そんな皇帝は年をとるごとに美食のレベルが上がっていきまともに食事することができなくなっていた。

食神の最後は餓死かと帝国民は皆一様に噂していた。


もうだめか。そう誰もが思うほどやせ細った頃タナカ・イチローは現れた。

彼の話す言語は神のものであり誰も理解することができなかったという。


言葉はわからなかったが彼の運んできた食材を見たとき皇帝アルドリスの手は自然と伸びていた。一口。また一口と食べる姿を見て臣下は驚きを隠せなかった。


それもそのはずである。アルドリスが食事をしたこと自体が驚きである上何も調理しない食材を食べるなど幼少期の頃以来である。


皇帝アルドリスは満足するまでタナカ・イチローの運んできた食材を食べると一言こう言った。


「彼の運んできた食材はこの世のものと思えぬほどの味であった。これは神の世のものであろう。私は救われた。彼の…いや神によって…」


皇帝アルドリスはタナカ・イチローに最大限の感謝をしようとしたがいつの間にか消えていた。


神が消えたと嘆くアルドリスの元に翌日もタナカ・イチローは野菜を届け調理してくれた。


タナカ・イチローは定期的にアルドリスの元へ食材を持ち訪れた。アルドリスはタナカ・イチローが来るたびにまるで子供のように喜んだという。


食神アルドリスはタナカ・イチローが消える1年ほど前に人生を終えた。そんな食神の最後は食べ過ぎによるものだったと言われているが定かではない。ただ一つ事実として伝えられているのはなんとも幸せそうな最後だったという。


そんなタナカ・イチローの食材は皇帝だけでなく青果市場にも度々流された。タナカ・イチローの育てた食材は同じ重さの金や宝石と取引されたという。


高価な食材として取引されたため庶民には食する機会がなかったように思われるがタナカ・イチローは時折街に現れ市民にも施しを与えたという。


天才と呼ばれたブリック・フィティもこの施しを受けた一人でこのタナカ・イチローの食材に近づけるために死ぬまで開発を続けたと言われている。


この世の農民全ての憧れであり神と崇められるタナカ・イチロー。出生も何もかも定かではなく、ある時突然現れ突然消えた神の人である。


彼が消え100年以上経つ今でも知らぬものなどいない。それどころか神として崇められ教会まで世界中に建っている。





そんな人物の映像が今タローの眼の前で流れている。


『では第3回農業講座をするのはおなじみの儂田中一郎じゃ。ふぉっふぉっふぉ。こういうのはなんどやっても面白いのぉ。まるで教育テレビの司会者じゃわい。』


タローは驚きのあまりどうしていいかわからないが一つだけわかることがある。


「何を言っているか…わかる…」


タナカ・イチローの言葉は誰も理解できない。それが当たり前であった。しかしタローはその言葉が理解できる。それはなぜか。答えはタローのスキルである。


他言語翻訳。このスキルが発現した際は取引に便利だね、くらいで誰も興味を持たなかった。農業主義の現代であるからしょうがないのかもしれないがこのスキルは世界にただ一人しかいない超超レアスキルなのだ。


タローは今までこのスキルを憎まなかったことはない。もしもこのスキルが農業スキルだったらどれだけよかったかと何度も思った。しかし今は違う。この世のありとあらゆるものよりも感謝している。このスキルをもたせてくれた両親にも感謝である。


嬉しさのあまり泣いているとタナカ・イチローの話が続いているのを思い出し話に集中した。


『今回育て方を教えるのはこの石っころが入っていた袋に一緒に入っていた種の育て方じゃがなんの種かわかるかのぉ?』


「袋に入っていた種ってこれのことか…小さいし似たようなやつなら見たことあったよな…なんだっけ?」


タローは幾つか手の上に取り出して見てみる。白っぽく小さな種は何かに似ているようだがなかなか思い出せない。


『あまり待ってもしょうがないのぉ。正解はトマトの種じゃ。』


トマト。初めて聞く作物に興味深々のタロー。一体どんなものなのか皆目見当がつかない。


『この世界にも似た作物があったのぉ。名前は…パイア?じゃったかのぉ。赤い実で冷やして塩をかけるとうまいんじゃわい。夏の暑い日には最高じゃな。』


あのタナカ・イチローが美味いという実。どんな味がするのか。想像するだけでヨダレが溢れてくる。


『今回使う品種の説明もしなくちゃいかんのぉ。今回使うのは桃太郎という品種じゃ。ただしこの世界で育てておったらなんだか今までのものと全く変わってしまってな。味が数段うまくなっとる。そこでどうせじゃから名前を変えて桃太郎侍と名付けた。かっこいいじゃろ。』


「も、『モモタロウザムライ』…何かはよくわかんないけど超かっこいい。」


タローの目はまるで子供のようにキラキラとしている。よくわからないがタナカ・イチローの言葉である。盲信的に信じてしまうのだ。


『さて…前置きはここまでにしておくか。じゃあ育て方に入るとしよう。まずは苗を作る必要がある。まず種じゃが一晩から1日程水につけておけば芽が出やすくなるからやっておきなさい。次に育苗トレー…はこの世界にもあるのかの?…そうかあるのかじゃあそれに腐葉土と赤土を混ぜて殺菌したものを入れるのじゃ。面倒だったら天日干しでも効果はあるじゃろ』


腐葉土と赤土。腐葉土ならばこの森にいくらでもあるし赤土も畑のところにいくらでもあるから問題ない。育苗トレーももちろんある。タローは何も問題ないと一安心する。


『種の撒き方は好きにやってもらって構わんが種も限りはあるからのぉ1cmかそこら間は空けてやった方がええかもしれんな。覆土は嫌光性種子じゃからちゃんとかけてやれ。ただしかけすぎには注意じゃぞ見えなくなるくらいで構わん。土をかけたら手の甲で軽く土を固めてやれ。』


ここまではリカルドの農場でも似たようなことはやったことがあるので何も問題はないと一安心する。神の作物だからとんでもなく難しいのかと思いきや作り方は以外と単純だ。


『発芽温度は20〜30度じゃから25度くらいで保っておけば問題はないからのぉ。苗が大きくなったらポットに移し替えて育てるのじゃ。まあ面倒だったら最初からポットでも良いぞ。背丈を5cmほどまで育てたら次の指示を出そう。』


そう言うと映像が切り替わり画面に文字が表示された。


「えーとなになに…『ミッション・トマトの苗を規定の大きさまで育てろ』か。5cmまで育てればいいんだな。」


タローの目に生気が戻った。それは先程までの全て諦め家に帰ろうと思っていた頃とは違いやる気に満ち溢れている。


「かなり走ってきたけどこれちゃんと帰れるかな…」


やる気はあるが…不安だらけである。




物語初めに作る作物はトマトです。

ちなみに作者はトマト嫌いです(笑)


明日の投稿も12時を予定しています。

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