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スカイスクレイパーⅡ 8話




「ごめんね……玲央くん。負けちゃったよ」


部屋に戻ってきた瑛士は申し訳なさそうに俺に頭を下げた。


「いいよ。それにしても驚いたぜ、お前やっぱり強かったんじゃねぇか」


「まぁ、勝負自体は一瞬だったけれどね」


「あの能力、なんなんだよ瑛士」


俺は冷たく言ったマツコを無視して瑛士に問い詰める。瑛士は少し恥ずかしそうだ


「僕の能力は『変身』 名前の通り、自分が理想として鎧を身体にまとう能力だよ。


 そこに様々な能力が付与される。さっき出した剣とかも、それだね」


「はへぇー、かっこよかったぜ。なぁマツコ!」


「マツコって言わないで。まぁ、レジェンド相手には頑張った方なんじゃないの」


「ありがとう立花さん。これで、玲央くんが闘わないといけなくなったね」


「あぁ、元々そのつもりだったしな」


俺は次に闘う蛇道有紗について思い出す。あのガキは、俺の師匠葵龍二の師匠に当たる蛇道狩羅の娘と聞く。


その実力は折り紙付き。現にあいつが部下として付き従えていた雨野があれほどの実力者だ。あのガキがハリボテのボスだとは考え辛い。


「玲央くん」


考え事をしていると、瑛士の声がした。


「あ、あぁ……なんだよ。瑛士」


「あまり無茶しないようにね。君の能力は使いすぎたら」


「あぁ、わかっている。けど出し惜しみして勝てるほど、有沙は弱くないだろ?」


「あんた、嬉しそうな顔で言うんじゃないわよ……」


俺がよっぽど歓喜の表情を浮かべていたのか、マツコが少し引き気味で言った。


「お前も同族だろが」


「私は自分の力のコントロールぐらいできますー。あんたの本気はね。見ているこっちが怖くなるのよ」


「まだ龍二さんとの修行での調整も完璧じゃないんでしょう?」


瑛士は俺のことをとことん心配してくれているみたいだ。


「まっ、なんとかなるだろ。じゃ、行ってくる」





俺は早く闘いたくてうずうずしている身体の意志に従い、有紗が待つ会場へと足を進ませる。


「ここまで来て負けたら承知しないからねぇ!」


「頑張って玲央くん」


二人の応援する声が俺の背を押した。













(いいか、有紗。お前は自由に生きていいんだ。俺と同じ道を歩む必要はない)


パパの言葉が響く。私はパパとは違う。五歳にしてこのスカイスクレイパーで名の広いプレイヤーだ。


けれど私の肩書きにはいつもパパの名前がまとわりつく。それこそ、身体にまきついてくる蛇のように。


『蛇道狩羅の娘』『オーディエンスに誘われた英雄の娘』『伝説のメルヘニクス一人を破った女の娘』


『極道の娘』『卑怯者の娘』『蛇の威を借る女』……私に対しての大人の目、私に負けた大人の目。その全てが私ではなく、私のパパ。『蛇』のボスであり、英雄明知晴嵐が作った『七つの天翼』のメンバーの一人、蛇道狩羅の方を見ていた。私を透かして、私の先にいる蛇道狩羅しか見ていない。


「有紗さま、頑張ってください」


「うん。ありがとう小十郎。あなたの分、ちゃんと勝ってくるよ」


「いえ、有紗さま。今は、あなたのために闘ってください」


小十郎からの言葉に私は少し驚いた。


「どうして?」


「このチームの名こそ『蛇』でありますが、この闘いに、お父上は関係ありません。あの男に、有紗さまが『苛立った』のでしょう?」


小十郎は目線を私に合わせるためにしゃがんで私の目をじっと見つめる。


小十郎と私の空気を察したのか良介は端に移動してソファーに座って何も言わず珈琲を飲んだ。


「この闘い、あなたが負けたら。あなたの負けです。有紗さま」


「ふふっ。小十郎ったら自分も負けた癖に対して言い分ね」


「俺っ、いや。拙者は負けました。ですが、それはあなたの負けれない理由にしなくていいです。


 もとより、そんなもの背負わなくても、有紗さまは勝つことが出来ますよ」


私は彼の言葉が嬉しかった。そう、だから私は彼を部下にしたのだ。


「ありがと♪じゃあ行ってきます!」


「はーい。有紗ちゃん。言ってらっしゃーい」


手を振って会場に移動する私に良介は軽快に手を振って見送る。


小十郎はずっと頭を下げたままだった。
















会場に移動を果たすと、もう前には蛇道有紗がいた。


「よぉ、クソガキ」


「クソガキって言わないで」


「いんや。ガキはガキらしくしてろ。俺に喧嘩吹っかけてきた時みてぇにな」


俺は思いっきり首を鳴らし、拳の骨を鳴らす。喧嘩の前にやる儀礼のようなもんだ。


「この勝負、私のプライドに賭けてあんたを倒す」


その直後、試合開始の合図がなる。


直後、有紗は地面の砂を俺に向かって蹴って、砂をかける。俺は目の入らないように目を閉じる。


すぐに開いた時には奴の姿がなかった。


「はぁ!? あの野郎どこに! うっ!」


直後、背中から強烈な一撃、思わず地面に倒れる。さらに背中を思いっきり蹴られたような衝撃を受ける。


俺はそれを払うために腕を思いっきり後ろにぶん回す。しかし、何も触れたような感覚はなく、後ろにも誰もいなかった。


俺はすかさず立ち上がるが、今度は腹に思いっきり拳が飛んできた。とても小さな拳だと思うが、完全な不意打ちに鳩尾に入って思わず呼吸が止まる。そこにいると思って思いっきり腕で捕まえようとしたが、失敗。


一撃打った後に、すかさず距離を取ったのだろう。


「うっ……、あんのクソガキ。透明になれるのか」


「あなたがこの世界の素人で助かったわ。この『能力』はここ周辺のビルの人達ならみんな対策の一つや二つ練っているものなんだけどね!」


声がしてしばらく、地面を踏む音がした。


俺は予想で顔の前に手を置いた。案の定俺の、手の平に見えない拳が当たった。


「悪いな。ここの素人でも俺は喧嘩はセミプロぐらい言ってんだよ」


掴んだ瞬間透明の能力が解けたのか、有紗の姿が現れた。憎らしそうにしている。


「ガキ殴る趣味はねぇが、ガキ扱いしてほしくねぇんだよなぁ!お前は!」


俺はもう片方の腕で思いっきり有紗の身体を殴りぬける。思いっきり飛んでいくあいつは地面に身体を転がす。


しかし、殴った俺の拳もヒリヒリと痛みが走った。これは、すんげえ固いものを殴った感触だ。


「やっぱり顔は殴らないよね。子どもの顔面殴らない優しいお兄ちゃんで助かったよ」


立ち上がった有紗の服の中から薄い鉄板が落ちてきた。俺が殴ったせいで少し曲がってしまっている。


鉄板を殴った拳の痛みが予想より酷い。俺は片方の手でそれをさする。


能力使って回復することも可能だが、あんまり安易に使うと瑛士に心配かけちまう。


そんなことを考えているうちに、有紗の身体がぬるっと消滅していく。


あの能力への対処法は予想するしかない俺にとって、この状況はまたまずい。


ただ、この能力は自身が透明化するだけだ。足跡や、気配はそのまま。だったらある程度の対応は聞く。


「……ここっ」


後ろに向かって思いっきり蹴りを入れる。当たった感触がした。


透明化が解けた有紗はまた悔しそうに顔を歪ませる。


「へっへー。透明化の能力、見破ったぜ!こうなりゃ俺はお前に対して怖さはねーんだぞぉーと!」


「子どもみたいな挑発。 幼稚園にいる勇気くんと一緒だわあんた」


「誰が脳内年齢5歳だ!!」


「あんたよあんた! 神崎玲央! 17歳! けど、精神年齢5歳のヤンキーヤンキー!」


「なんだとてめえ! 能力が叶わないからって口喧嘩か!? てめえこそクソガキじゃねぇか!」


俺が有紗に対して怒鳴っていると、突然意識がクラッときた。視界が朦朧とする。


「あなた、透明に出来るのは『私自身』だと思ってたでしょ。違うのよ。それが」


さっきまでガキっぽくしていた有紗が勝ち誇った顔をして俺の方を見る。俺は足から痛みが走って足を振り回す。


すると蛇が何匹か俺の足から出てきた。俺は確信した。この蛇どもに噛まれていたんだ。


「これは、やばそう……」


俺は大きく深呼吸する。今のところ、これが俺の能力の起動スイッチだ。


身体から力がみなぎってきて、足の毒も消えていく。目の前の有紗に対しての感情が『獲物』に変わりつつある自分を拒絶するように一度顔を左右に思いっきり振る。


「あんた、回復系の能力なの?」


有紗が話かけてきた瞬間。それが合図に感じて俺は思いっきり奴に襲いかかる。


有紗も突然のことに対応できず、俺の攻撃をもろに受けて飛んでいく。俺もその飛んでいった有紗を追いかけて追撃をする。


有紗の腕を捕まえてそれを思いっきり地面に叩きつける。有紗の口から血反吐が出る。


そしてさらに攻撃を加えると、有紗はぐったりした。


俺は一度離すと奴の身体に向かって思いっきり拳を放つ。しかし、その拳に何かをぶつけた感触がなかった。


「っ!? な、なんだこれ」


俺が殴った先には皮があった。不思議なことにまるで抜け殻のような皮。


「これを使わないとあんたには勝てないってことがわかったわ」


上から声がする。俺はすぐに見上げると翼を生やした有紗の姿があった。


「人って成長するのよ。一皮剥けた女はいい女ってパパも言ってたのよ」


わざと大人びた口調で話す有紗。気のせいか少し背が伸びている気もした。


「さて、制空権を得た私は強いよ!」


空から翼をはためかせ、羽をまるで矢のように放つ有紗。その羽を避けようとするもいくつかの羽が身体に突き刺さる。


「くっそお!」


俺は思いっきり地面を蹴り、有紗に向かって飛ぶ。


奴と同じ高さまで飛び、その飛距離に驚いた有紗の腹部に向かって叩き落すように殴る。


避けることの出来なかった有紗は地面に向かって落とされるが、衝突直後で翼を使ってそれを阻止。


逆に落下してくる俺に向かって頭突きをかましてきた。俺は腕を掴まれ、地面に叩きつけられる。


すぐに立ち上がると、上空から飛んでくる有紗の足が俺の顔面に衝突し、また地面に叩きつけられる。


このままじゃあ絶対に負ける。負ける、負けたくねぇな。くそ、くそ、くそ、くそ、くそ


「くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! くそっ!」


言葉が止まらなかった。相手は空を飛び、俺は空が飛べない。上空に逃げられたらそれでおしまい。


この状況、完全に詰みだ。さっきのような不意打ちでのジャンプも聞かない。


段々頭の中が侵食されていく。負けたくないという感情に理性がどんどん飲み込まれていく。


「あたしにあなたは勝てない!」


有紗は上空から捕まらないように俺の方へ降りてきては蹴り、殴り、羽を身体に突き刺す。


まるで少しずつ弱らせるように少しずつ少しずついたぶっていく。俺はそれを防ごうと必死になるが


まったく通用しない。捕まえることが出来ても、すぐに逃げられてしまう。実力差は圧倒的だった。


突然視界が赤く染まった。そして瑛士とマツコの顔が浮かんだが、それはすぐに消えた。


脳内には何もなくなり、真っ赤に染まった視界はただ一点。蛇道有紗を捕らえていた。


俺の口から言葉では表すことのできない獣のような咆哮が鳴り響いた。


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