東京スカイスクレイパーⅡ 五話
蛇道有紗との闘いのために修行と仲間探しをする玲央。
彼らの三人目の仲間はいったい誰になるのか、ぜひお楽しみ
練習場と呼ばれる場所に龍二さんは俺を連れてきた。
「さて、ここならお前も俺も全力で闘える。
はっきり言って、俺が陸に頼まれたのはお前が能力を使いこなすきっかけを得るための経験だ」
腕をぱきぱきと鳴らす龍二さん。呆然と話を聞いている俺をよそにストレッチをする。
「おい、お前もしっかりやれ。ストレッチは大事だぜ?若いことは思わなかったが、二十歳超えたら身体がちょっとずつ鈍くなっちまうからなぁ」
自分はまだ二十歳超えてないっすけど……。と思いながらも龍二さんの言いつけ通りストレッチを始める。
「いいか、今日のうちに習得してもらうぜ。無理やり治すためにメアリーのお嬢も呼んでいる」
「メアリーさんがっ!?」
「なんだぁ? お前お嬢気に入っちまったのか」
「あっ、いや……」
俺は思わず恥ずかしくなる。
「お前年上好きかぁ~なるほどなるほど。いろんなヤツに言われてると思うがやめとけよ。
結婚しているし、子どももいる」
「こ、子ども!?」
あ、あの若さでこ、子ども……。あの人には毎度驚かされる。
「さて、じゃあ始めるぞ。お前、俺に勝ちたいと願え。そして俺は全力でお前に挑む!
死にたくない。負けたくない。と願え!! ただし、理性をギリギリまで抑えろ。俺が言えるのはその辺だ。
んじゃ、いっくぜぇ!!」
「ちょ、まだ心の準備が!!」
俺が慌てていると龍二さんは腰を軸に身体を捻った。
その瞬間だった。俺の視界は一瞬で真っ白になった。直後、俺は練習場の天井が映る。
な、何が起きた!? 何か大きなものに撥ねられたような――――
「おいおい!得意の喧嘩魂はまだ出ねぇのか!?」
天井の光景から龍二さんが現れる。このまま殴りぬけて俺を地面に叩きつける気だ。
俺は思いっきり足を上に上げる。身体が少し傾き、腕が床に触れた。
その腕を曲げて、バネのように勢いよく押して、龍二さんの腹部に向けて蹴りを放つ。
「センスは悪くねえ!やっぱお前才能あるぜ!!」
俺の蹴りが龍二さんに届く前に龍二さんの腕が突然青色の突起物となって俺の胸部を思いっきり叩きつけた。
体勢が体勢だっただけに、首の骨が折れそうな勢いで頭から地面に叩きつけられる。
「これで終わりじゃあねぇだろ!? 悪いが、荒療治だ。このままいかせてもらうぜ!!」
着地した瞬間に龍二さんはまた身体を捻る。
くっ!今度はあの技の正体を確認しなきゃなんねぇ!!
俺はクラクラする頭を振るい、咄嗟に立って、龍二さんの突進を受けとめようと試みる。
「っ!?」
でっけぇ何かが俺の胴体まるごとに衝突した。俺はそれを身体全体で受けとめようとする。
地面に足が引きずる。なんだ、この新幹線みてぇな巨大なものは、
後ろから何かが飛んでくる。まるで鞭のようにそれは俺の背中を思いっきり叩きつける。
「がはっ!」
「能力発動なしで俺の突進を受けとめたのは褒めてやるが、それだと修行の意味がないんだよなぁ~
人思いに一回ぶっ殺すか?」
頭を掻きながら龍二さんがぼやいているのが聞こえる。
さっきの衝撃と背中の痛みで俺はうつ伏せで倒れたままだった。
やばい。強すぎる。これがあの伝説の喧嘩屋である龍二さんの力なのか。
さっきの巨大な姿から元の人間体に戻る瞬間を見ることが出来た。あれが龍二さんの能力なのか?
「さぁ!もう一回くらい立て!!」
言われなくても立ってやる。俺は痛みを消えろと念じてヤツを睨む。
その時、身体の奥から力がこみあげてくるのを感じる。俺は飲み込まれないように一度深呼吸をする。
「おっ?お前……さっきまでの傷、消えてねぇか?」
「うっせぇ、もう切れた。てめぇはボコる」
「ほお、なんか調子に乗り始めたなぁ!いいぜぇ!一回殺す宣言したし、もうちょい遊ばせろや!!」
龍二の腕が蒼く光る。両手両足がまるで龍の鱗のように変わっていく。
「じゃあ、行くぜぇ!!」
ヤツの拳が飛んでくる。早い。俺は思いっきり頬に一発食らうが、それを受けとめてヤツにヘッドバットをかます。
「ちっ! 不思議とさっきよりも強くなってやがる!!」
すぐに龍二は俺の腹部へ蹴りを放つ。一瞬よろけた俺の頭を掴んで思いっきり膝蹴りをする。
くらっと意識が遠のく。この瞬間を龍二は決して見逃さない。
「いーくーぜー! 俺様の必殺!俺様パンチ!!!」
その拳が俺に当たった瞬間。俺は背中が壁にぶつかる痛みを感じて、そのまま気を失った。
「大丈夫ですか? 玲央くん」
目が覚めると、メアリーさんが俺の顔を覗き込んでいた。
どうやら俺は龍二さんに負けたらしい。
「ん~、ちょっといけそうだったんだが、やっぱ俺には師匠向いてねぇのかぁ~!!」
少し遠くで頭をカリカリと書きながら龍二さんが叫んでいた。
俺が身体を起こすと龍二さんは気付いて俺の方にきた。
「よし、目覚ましたな。さっき一瞬なんか変わってたけど、そんときの意識はあるか?」
俺はなんとか思い出そうと試みる。龍二さんに言われた言葉に腹が立った後、身体からなんかこみあげてきて
そのときに確か身体の痛みも一緒に消えていた気がする。そして俺は龍二さんに啖呵を切って
「あっ! あの時はてめえとか言ってすみません!」
「あぁ? あぁ、言ってたなそういうこと。でも言ったって記憶があるのは上々なのかも知れねえ」
龍二さんはそういった後俺の頭を軽く小突いた。
「よし、ならそれを意識的に発動できるようにして、調整できるようにするぞ。なるべく早く。
午後にはあの瑛士って奴と『三人目』を探すんだろ」
龍二さんはまた俺に対戦を挑むために部屋に入っていった。
俺もそれを追いかける。この午前中になんとしてでも自分の能力を形にする。
何度も何度も、龍二さんにボロボロに負けて、その度に身体の中から湧きあがる力を使いこなせるように闘い続けた。
「はぁ、いくらメアリーさんに直してもらえるっつってもきっついよなぁ」
「それで、朝からずっとあの龍二さんと闘い続けていたの?」
「あぁ。あの人やべえ……。勝てる気がしねぇ」
「そうだね。彼はこのビルで番付をするなら確実にTOP5に入る人物だと思うよ」
「ほぉ、その番付是非興味があるねぇ」
龍二さんとの修行を終えた俺は、ビルの中にあるベンチに座って瑛士と話をしていた。
「んー、まぁ。僕個人の見解だし、順位付けも難しい。それに強いけど普段から来ていない人もカウントするのはなしで、比較的来ることが多い人なら、葵龍二さん。車田清五郎さん。赤野瞳。辰巳陸。そして……蛇道有紗」
「あのチビか!?」
「うん。僕も彼女が気になってちょっとだけいろんな人に話を聞いてみたけれど
勝率もすごい高いって聞いた。最年少プレイヤーにして若手最強とも言われてるよ。瞳さんや陸くんは小学校の頃からここにいて、その上でリムバレッドや引退したヘラクレスの弟子だからね」
「そうだ、そのリムバレッドのメンバーはいないのか?」
俺は疑問を感じた。こいつが言う番付を全て当てはめれば若い陸や赤野が入るわけがねぇ。
ましてやあんなクソガキである有紗もだ。
「うん。他のビルに住んでいる人がほとんどだしね。ここのビルに所属してても来ない人が多い。
さっき名前を出した車田って人はリムバレッドのメンバーだよ。面白がってよく遊びに来ては
ランダム対戦の相手を倒しまくって「勝率下げの爆風」なんてあだ名で若手の間じゃあちょっと嫌われてるよ。
でも、そうだなぁ……。さっき名前は出さなかったけれど、飛来さんって言う今晴嵐さんの変わりにこのビルを管理している人がこのビルでは最強じゃないかな。第0位って感じ(笑)」
瑛士はニコっと笑いながら答える。この話を聞くだけで、俺よりも強い奴はまだまだたくさんいるってことがわかって少し興奮する。
「さて。まぁとりあえず三人目、探すか」
「そうだねぇ、できたら二人見つけてもらって、僕は参加したくないんだけど……」
瑛士はやれやれと溜息を吐いてベンチから立ち上がる。
「まずはやっぱり陸くんかな? 彼なら快く受けてくれそうだけど」
「ぜってぇやだ!」
俺は瑛士の意見に思いっきり反対した。瑛士は驚いたように目をきょとんとさせていた。
「どうして?」
「あいつの手なんか死んでもかりねぇ!」
「じゃあ、誰を誘うの?」
「赤野だ! あいつならいい戦力になるぞぉ!」
あいつと一回闘った俺ならわかる。あいつの強さは本物だ。
それに、あの時負けてちゃんと話していなかったから、これを機会に話をしてみたい。
「とりあえず赤野さん探してみようか」
そして俺の瑛士は二人して赤野を探してみるが、一向にみつからなかった。
いろんな奴に赤野を見ていないかとも聞いてみたが、誰も赤野を見たというものはいなかった。
「くっそぉ……。こうなったら誰でもいい。陸以外だったら誰でもいい!探すぞ」
「うん。そうだね。僕もなんとなく強そうな人に声をかけてみるよ」
しかし、誰に声をかけても「あの蛇道に喧嘩を売ったのが悪い」
「ここで勝率を下げたくない」と言う声が多くて、だれ一人俺達の誘いに乗ってくれる人はいなかった。
俺の中に陸の顔がちらつく。確かに瑛士の言う通り、アイツに誘えばやれやれと言う顔をしながらも俺たちに協力をしてくれるだろう。だけど、それは俺の中の何かが許さなかった。
「んー、陸くんもダメ、赤野さんも不在。龍二さんは立場上有紗の敵に回ることを望まないし。
声をかけてもみんな『蛇』の名を恐れてよってこない」
瑛士はそこまで言って「あぁー! もうどうしよぉー!!」と叫びながらその場でしゃがみこんだ。
『蛇』……あの有紗の親である蛇道狩羅が昔作ったチームで伝説の『リムバレッド』と共に二大勢力として
このビルに存在していると、龍二さんから聞いた。確かに、根性のねぇ連中にはそんな奴らと闘うのは避けたいだろ。
「なぁ、ここまま二人で三人と闘うのは不可能なのか?」
「いや、最悪の場合それも僕らは挑まれた側だし、けど。まだここに来たばかりの玲央くんと
この僕だけで『蛇』の三人を相手出来るとは思えない。もしかしたら五年前の激戦時代の人も参加するかも知れないし……」
不安そうに瑛士は答えた。確かに、俺も龍二さんのおかげで闘えるまでには制御ができるようになったけれど
それでも二人連続だときつい。瑛士に二人以上闘えと言うのも酷なものだろう。俺が巻き込んじまったし……。
「話は聞かせてもろうたで!」
頭を悩ましている俺達二人の前に大きな怒鳴り声が響いてその声の主を見上げる。
俺がしゃがんでいたからか、ミニスカートの中からパンツが見えそうで見えず、思わずそっちに目が言った。
「なぁ、聞いてんの?」
「あっ、あぁ。悪い。んで、あんた誰?」
「あっ、そうよね。こほん。うちの名前は立花松子。瞳に声かけようとしてて、あの子の永遠のライバルであるうちにアプローチないのがどうも気に食わんくて探してたんや。やっと見つけたで」
微笑みながらこっちを見てくる。松子? なんか、似たような単語を誰かが言っていたような。
「そんでや。うちがその三人目とやらになってやろやん。なんやっけ? 『蛇』と闘うんやろ?」
彼女の目から一瞬放たれた殺気を俺は感じた。この女、口先だけで赤野のライバルを名乗ったわけではないというのが伝わってくる。
「えっと、二人の名前聞いてもええ?」
「あ、あぁ。僕は野上瑛士って言います」
「俺は神崎玲央だ」
「神崎玲央……あぁ! もしかして龍二さんのお弟子さん?」
「あぁ? 俺を知ってるのか?」
松子と呼ばれた女は俺の名前を聞いて驚いた後、納得したように一人で頷いていた。
「うちの店に龍二さん来た時に話しとったもん。俺にも弟子が出来るんだぁーって。
そんときあんたの名前聞いたから間違いないわ。あんた、龍二さんのお弟子さんなんやろ?」
「あぁ、ついこないだなったばっかりだけど」
「なら、面白い出会いやわ。うちは『車田清五郎』のたった一人の一番弟子。
この『蛇』との大事な闘いに滑り込み参戦するには、ええ役者やと思わへん?」
立花松子と名乗る女はそういってニヤリと笑った。車田清五郎って言葉に俺はピンときていなかった。
瑛士が「すごい。あの蛇道狩羅の娘、葵龍二の弟子と車田清五郎の弟子が揃う闘いか。わくわくするね」
子どものように瑛士は目をキラキラさせていた。要はすごい奴ってことだと俺は瑛士の反応で納得することにした。
「まぁ、人手不足で困ってたんだ。ここに首を突っ込んでくれるなら、歓迎するぜ。松子」
「出来たらその方で呼ばずに松っちゃんとか立花って言ってくれへん?」
「え? なんでだよ」
「だ、だってほら……」
少しモジモジしている松子を見ていると向こうの方から赤野が来るのを確認した。
今来たばかりなのだろうか。もう少し早く見つけれたら確実だったのに。
赤野は俺達の方を見つけると歩いてこちらに近づいてきて、松子に話しかけた。
「ん? どうしたの? デラックス。こいつらとなんか一緒にいて」
「またあんたはうちのことデラックス言う!デラックスちゃうもん。可愛い乙女やもん!」
「あんなバイク乗っててよく言うわよ。『松子デラックス』じゃん」
「なんやとぉー! 今日と言う今日は許さんで! 勝負や!勝負せぇ!!」
「いやいや、今日はあたし拓海さんに呼ばれてるだけだから。じゃ、またね。デラックス」
そういって赤野は悪気なんて一つもないと言った表情ですたすたと歩いて言った。
「ムキ―ッ!あの女絶対どっかでコテンパンにしたんねん!」
「……まぁ、気にすんなよ。デラックス」
「玲央くんまでその呼び名すんの!もう嫌やぁー!」
松子はわざとらしくわぁーわぁー泣いたふりをする。
まぁ、騒がしい奴だけど。これであの蛇道有紗と闘える準備を整えたのだと思うと、とたんに俺は興奮を覚えた。
次の日、俺達三人は、蛇道有紗との決戦に向かった。
三人目に新キャラ立花松子が参戦しました!!
次の話からは三対三の闘いがはじまります♪
読んでくださっている皆さまお楽しみにください!!