東京スカイスクレイパーⅡ 1話
東京スカイスクレイパーを読んでくださった方々はお久しぶりです。
初めての方は初めまして。趣味で書いていた小説ですが、個人的に結構な数に読んでいただいているので、気持ちが乗ったときに書くための続編を作りました。
前作を気に入ってくださっていた人達にも満足できるように頑張っていきたいと思ってますので、これからもよろしくお願いします
そんなに広いはずはないのに、何もないせいで広く感じる部屋。
僕は今日、ここに住むことになった。憧れた先輩が住んでたというこのマンションに。
「おーい。早く荷物取って来いよ」
父親に呼ばれて僕は階段を下りる。下に停めてある車まで歩いて荷物を運ぶ。
この段ボールの中にはがらごろと転がるものがある。バスケットボール、俺が五年前から始めたスポーツ。
他にも漫画や日用品や服の詰まった段ボールも運んだ。
「じゃあな、たまにはこっちに帰ってこいよ?」
「うん。ありがとう」
そういって父は車に乗って帰っていった。
部屋に戻って僕は段ボールの中のものを部屋に配置していく。
まずは好きな漫画。これをあらかじめ設置いた本棚に収納していく。
そして食器類もキッチン近くに置いた棚の中に入れていく。
そうして一つずつ段ボールの中を空にしていく。一通り全てが終わった後。
僕は写真立てを取り出して一枚の写真をそこに入れて、テレビ台の上に置いた。
五年前。まだ僕が小学校の頃、お世話になった人達との思い出の写真だ。
そして、僕の道を照らしてくれた人たちの写真。
「さて! 散歩がてらこの辺一帯でも見て回って、後はこの辺での『入口』を探すか」
僕はジャージ服のまま外に出て散歩に出かけた。
☆
「ちっ、つまんねぇ」
「て、てめえこの猛獣!」
「猛獣だと思ってんなら喧嘩売ってくんな! この雑魚」
河原での怒号に通りかかった一般人は見てみぬふりをして通り過ぎていく。
倒れた男が数名。尻もちをついている男が一人、立っている男に対して泣き言にように何かを叫び
それを言われた側の男が一喝する。すると男は震えあがる。
その光景を見た少年はまた舌打ちをした。
事は三十分前、この男が退屈そうに川に向けて石を投げていたら数名の男たちが群がって石を投げている少年に声をかけてきた。
「おい、おめえ。この辺じゃあみねぇ顔だな」
少年は無視しようとした。対して声をかけてきた男はさらに近づき、少年の方を思いっきり突いた。
「こっちをみやがれガキ!」
少年は男の方を見る。いかにも悪ですって顔の男に少年は少しニヤリと笑った。
「何笑ってやがる。名前聞いてんだよ!」
「……神崎玲央っていいます。つい先日こちらに越してきました」
少年が自己紹介をすると、男の後ろにいた舎弟らしき男が震えて、ギョッ!と表情を変える。
「兄貴! こいつ知ってますぜ。神崎と言えば少し離れたところの町で猛獣って呼ばれてる奴ですよ」
「ほぉ……猛獣ねぇ。いいじゃねぇか。だが、どうせ田舎町の勘違い野郎だろ? この街じゃあ通用しねぇよ! そのむかつく態度一から教育してやるぜ!」
そういって男が殴りかかった後、それをよけた少年・玲央が思いっきり殴りかかり
そのまま流れるような流れで男とその舎弟数名を圧倒的な暴力で叩きのめしたのである。
「おい、今日のこと。誰にも喋るなよ? てめえらも15のガキにやられたとか広まったら面子丸つぶれだろ?」
「ひぃっ! わ、わかりました!」
「わかったらとっとと消えろ! この雑魚ッ!」
男たちは情けない声を出しながら足早に逃げていく。
今日は制服来てなくてよかった。と内心玲央は思った。今日外に散歩行く時、せっかく引っ越してすぐでもうすぐ入学式だからその予行練習みたいなノリで制服で散歩するのもいいかもなとか考えていたからだ。
もし制服来た状態であいつらに喧嘩を仕掛けられたら、母ちゃんにバレてどやされる。
「しっかし、つまんねぇなぁ」
河原の坂の部分で横になりながら溜息を吐く。
玲央はここに引っ越してきたばかりだったが、そこに不安があるわけではなかった。
自分は他の奴らよりも強い。その確信があった。しかし、母には喧嘩を止められ、その母が止める原因であり、恐らく自分よりも圧倒的に強い父はそもそも仕事ばかりな上にこちらの喧嘩にまともに付き合ってくれるはずもなかった。だから、彼は飢えているのだ。自分の血潮を熱く燃やしてくれる存在を。
引っ越す前の町では、色々無茶もした。町の不良にかたっぱしから喧嘩を売った。そして全てを蹴散らした。その度に母さんにバレてどやされた。父親の都合で少し遠いこの町に引っ越してきて、その近くの高校を受験したのにまた喧嘩となっちゃ母に迷惑をかける。それが玲央は嫌だった。けれどやはりこのエネルギーを発散させる方法がないかと毎日もやもやしている。それが彼、神崎玲央の日常だった。
「考え事か?」
「っ!?」
玲央は思わず飛び上がるように起き上がる。
気づかない間に隣で自分と同じように寝転んでいる男性の姿があったからだ。
自分が呆然としていた事実に気づくと同時、それを踏まえても気配なく隣で寝転んでいるこの男を玲央は気味悪がった。
「あぁ、悪い悪い。まあまあ座って座って」
拍子の抜けた話し方で身構えていた自分が馬鹿らしくなった玲央はそのまま男の隣に座りなおす。
「君、こんなところでぼーっとして何していたの?」
男は物凄く気軽な感じで話しかけてきた。まだ不振がっている玲央は恐る恐る対応する。
「な、何も。ただぼーっとしていただけです。あんたこそ……その、何しているんですか?」
使い慣れない敬語を使ってしまっている自分に気づいた玲央。
目の前の男はまだ二十代の若さを示しながらも、なぜかこちらを威圧してくる雰囲気を醸し出していた。
その威圧感に玲央自身無意識に圧されたのかもしれない。
「俺かい? 俺はネタを探しに散歩してたら、ちょうど面白い子を見つけたからちょっと口説きにきているんだ」
ちょっと気障な仕草をした男は玲央の方を見た。
「く、口説く……?」
「あっ、冗談だから。そういう意味じゃないから。そんな少し距離取るのやめてもらえる」
そういうと男は立ち上がる。座っているこっちを見下す形になり、なんとなく玲央は気に食わなくて玲央も立ち上がり、男を睨みつける。今までの不良たちとは違う威圧感に再び戦闘態勢に意識を切り替える。
「うん。いいセンスだ。けれど、それが発散できなくて不満足なんだろ?」
不敵な笑みを浮かべる男。その笑みに玲央は苛立ちを覚えて彼に殴りかかる。
しかし、男はその拳を簡単に受け止めてその後玲央の足を引っかけて玲央は草の生えた地面に落下する。
「っ!?」
余りにも一瞬のことで玲央は戸惑った。自分をこのように簡単に倒す奴も彼は初めて出会ったのだ。
男は握ったままの玲央の腕を引っ張って彼を立ち上がらせた。
「あんた、名前はなんていうんだ」
男は玲央に対して質問をする。
「か、神崎玲央……です」
「神崎玲央ね。その目だ。昔の俺を見ているようだ」
そういうと男は玲央の腕を離して玲央に背を向けて一度大きく伸びをする。
「さて、玲央。お前さ、さっきみたいにお前の攻撃を簡単に受け止めて、反撃してきて
お前が全力で戦っても勝てないような相手がゴロゴロいる。そんな世界に、興味はないか?」
男は振り返りそういった。
玲央はまだ不振がっていたが、その甘美な言葉に胸が躍らざるをえなかった。
自分が求めているものを、この男は持っている。その確信があった。自分の攻撃を受け止め、自分を簡単に地面に叩きつけたこの男はそれでもまだ本気ではないという余裕が感じられた。そしてその男が自分に誘いかけている。疑う気持ちよりも、好奇心が勝ってしまったのだ。
「その目。決まりだな。俺の名は明知晴嵐。ちょっとついてこい」
そういうと晴嵐と名乗った男は玲央に背を向けて歩く。玲央は何も言わずにその男の後ろをついていった。
玲央は幸先が不安になった。この男なら自分の鬱憤を解消してくれる。この男は自分に何か新しいものをもたらしてくれるということを期待した。しかし、男に連れてこられたのはなんともないゲームセンターだった。店内は聞き覚えのある太鼓のキャラクターの声や、UFOキャッチャーから流れるチャチな音楽、対戦ゲームから流れるアニメのキャラクターの声でにぎわっていた。晴嵐と名乗る男はそんなものに目もくれずただまっすぐ奥へと進んでいく。すると何台か並んだ格闘ゲーム台の場所にたどり着く。
何人かの人が今も格闘ゲームの画面に集中して楽しんでいた。
「おい、まさか俺にゲームを勧めるためにこんなところに連れてきたんじゃねぇだろうな?」
玲央は少し不安になり、怒るように晴嵐の肩を掴んだ。
「待てって! えっと……おっさんが言ってたのだと確か。うん。オッケーオッケー」
晴嵐はボタンを押した後、どのゲームをやるかの選択画面に出る。その画面の端の方まで動かした後
スティックキーをグッと押した後ゆっくり三回右に入力する。すると今までなかったゲームタイトルの姿が現れる。そのタイトルを読むと『Skyscraper』と英語で書かれていた。
「いやぁ、この五年で大分変わったなぁー。このシステム。さてっと、さっきのやり方見てたか?」
俺は急に話を振られて思わず頷く。すると彼はそのゲームの場所で決定ボタンを押す。
すると気が付く時には男の姿はなかった。
「っ!? い、いない!いなくなった」
玲央は思わずテンパってあたりを見渡す。もちろん晴嵐の姿はない。
慌てている玲央を不振がってゲームをしていた人や回りの人も玲央を見るが、また自分たちが見ていたものへと視点を戻した。
「も、もしかして……この画面の中に?」
格闘ゲーム台はまた搭載されている格闘ゲームの対戦画面を流していた。
玲央は生唾を飲んだ。不安はさらに膨らんだが、同時に好奇心がその倍膨らんだ。
玲央はスティッくを動かし、一番奥のゲームまで言った後
「確か、グッと押して。右を三回入力……」
晴嵐がやっていたコマンドを反芻しながらやると、画面端に現れる『Skyscraper』の文字。
これを押せば、自分はどうなってしまうのだろう。玲央は心が躍った。
「晴嵐さん。いいぜぇ、あんたの誘い。乗った!」
玲央は『Skyscraper』を選んだ段階で決定ボタンを押す。その直後、彼はゲーム画面に吸い込まれた。
☆
「ふぅー。受験のせいでしばらく離れていたけれど、久々だな。この空気感」
ビルの中を散策しながら少年は足取り軽く歩いていた。心が躍っている。久しぶりにこのゲームを楽しめるということが。頑張って新規用のゲートを探した甲斐があったものだと彼は自負していた。
「あっ!」
少年は一人の青年を見つけて嬉しそうに走っていく。
「よぉ! 陸! 随分久々だな」
「晴嵐さん! お久しぶりです。ちょっと受験のせいで控えてましたから」
少年、辰巳陸は目の前の青年、明知晴嵐を見つけて気持ちが高揚する。
自分が憧れる存在にしばらくぶりに出会ったことで彼は今『こちら』に来たのだと実感できた。
「いやぁ、オーディンが立てた新システム面白いですけれど、ちょっと度胸入りますね……」
辰巳陸は苦笑いしながら答えた。
彼は引っ越してすぐ、散歩しながらゲームセンターを探していた。この『Skyscraper』の入り口である筐体を探すために。そしてゲームセンターを見つけても、どれが入り口の筐体かもわからず、空いている台をかたっぱしからコマンド入力するのも不審がられるし、それに消える瞬間を誰かに見られたらと思うと少し小市民な性格をしている辰巳陸には入る覚悟を決める時間に随分かかったのだ。
「まぁ、筐体のあるゲームセンターには『こっち』を知っている奴が店長だったりするし
一応一目のつかないところの人が寄り付き辛い台をセレクトしているらしいけれどな。
こっちの方が誰がどこに所属かがはっきりできる上に『面白い』からだってオーディンのおっさんは言っ ていたな」
「まぁ、確かにこの入り方、まるでファンタジーみたいですものね」
「まっ、こっちの地区だとお前は新人だ。よろしくな」
「はいっ!」
晴嵐が差し伸べた手を陸が取り握手をする。
「さて、じゃあさっそく新人同士でバトルでもしてもらおうかな」
「新人……同士? そういえば晴嵐さんって確かもう闘えないはずなのになぜこっちに?」
「あぁ、それはな? 面白い奴を見つけてきたからだ。さてっと俺はお前とそいつの闘いを拝見させてもらうぜ?」
そういうと晴嵐は陸の頭をポンと叩いてその場を去った。
真上から音声が鳴り響く。対戦カードの発表だ。今日も申請されていないもの同士のランダムの対決が始まるのか。
「確か、新人は新人とぶつかることが多いって聞くから……」
陸が対戦カードがある画面を見上げる。
すると自分の名前が表示されていた。『辰巳陸VS神崎玲央』と書かれていた。
「さてっと、俺の弟子と俺が見込んだ相手。どう転ぶか拝見させていただきますか!」
晴嵐は一つ大きなソファーを見つけそこに座り込み、対戦が見れる画面を見つめた。
☆
「君が、僕の最初の相手か。神崎玲央くん」
「なんだかわけわからねえが。用はもらった能力使って、こいつをぶん殴ればいいってことだなぁ!?」
少し暗い空間。辺りに無人車が止まってあるどうやら地下駐車場が舞台のようだ。
辰巳陸は戦闘態勢に入って構える。一方の玲央も今の状況が楽しいのか終始ニヤニヤと笑いながら目の前の少年辰巳陸を睨んでいた。そしてゴングの音が鳴り響いた。
世界の裏では、闘いに飢えたものたちが己の実力を試すように特殊空間に誘われる。
その空間ではそれぞれが一つの能力を与えられ、その能力を駆使して闘い抜く。
そこはかつて童話の伝説を生み、かつては不死鳥の伝説を生んだ。
その特殊空間の名を『Skyscraper』と呼んだ。
読んでいただきありがとうございます。
五年後、ということで設定を少し変えました。理由は前作の導入設定が中々雑だったからです。ゲームセンターからこの世界に入っていくってのがハリーポッターの駅の入り方みたいでちょっと好きだなって思ったので使わせていただきました。同じゲーセンのプレイヤーで競い合うもよし、たまに別のゲーセンで新たなライバルを探すもよし!みたいな妄想からこういった設定への変更点を出しました。
後は、最近バトルものを書けてなくて戦闘描写にビビっている自分がいます(;´Д`)
でも、最初は世界感とわくわく感のためにあえて戦闘は書きませんでした。
二人の戦闘は次回のお楽しみにしてください。
言い訳がましいあとがきですみません。
それではこれからも東京スカイスクレイパーを応援お願いしますm(__)m