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第一章 いきなりの求婚⑥

 どうやら追手がいるらしい。そして居場所がばれたらしい。

 ミシェルは深くため息をついた。ずっとこの村で暮らしたかったのに、叶わぬ夢になってしまった。

「みんな、ごめんね……」

 ペリは沈んだ顔をしている。

 モモは泣きつかれたのか、無表情でぼんやりしている。

 常に冷静なエデは「外装にも内部にも、紋章が入っていますね。少なくともこの馬車だけは、本物のフォシェリオン家の持ち物でしょう」と検分している。

「私も本物だぞ」

 馬車の持ち主が文句を言った。

「その判断は保留にしておきます。あなたが敵か味方かどうかも、現時点では保留です」

 醒めたまなざしで侯爵を眺めまわしつつ、エデが言った。

「一体どうやったらこんな精霊が育つのだろう……。君にも教えを請いたいものだ、ミシェル嬢。王都についたら、ゆっくり話をしてくれ」

「やはり、王都へ行かなければいけませんか」

「ほかに行くあてがあるのか? ――父君のところとか」

「……父は死にました」

「私はレナルドの死を信じないよ。なにはどうあれ、暴漢がやってきたとは穏やかではない。君たち四人に危険が迫っていることは確かなようだぞ」

「『四人』」

 ミシェルはまた、つぶやいた。

「なんだ? 四人がどうした?」

「あなたを信頼します。フォシェリオン侯爵」

 グレンの目を見て、ミシェルはきっぱりと言った。

「ミシェル! こんな自分だけの都合でプロポーズしてくるような男、だめだよ! きっと変態だよ! 襲われちゃうよ! 川で濡れてるミシェル見て、ムラムラしただけかもしれないよ!」

「この精霊もまた……。えらく腹の立つ……」

「だいじょうぶ、ペリ。この方は、あなたたちのことを人と同じと思ってる。『何体』とか『何匹』って言わないでしょ? 『何人』って言う。とても自然に」

「あっ……」

「わたしに対する思惑はどんなものかわかりませんけど……。侯爵様の精霊に対する気持ちは、信頼したいわ」

「ムラムラなどしていないぞ! 断じて!」

「……思惑がわからないって、そういうことじゃないです……」

「ムキになって否定するところがあやしい。みんな、ミシェルをこの変態から守るよ!」

「変態ではない!」

「変態は服が濡れて肌に張り付いてるのが好きなんだよ!」

「ああもう、ペリは黙っててちょうだい……。侯爵様、王都へ向かう前に、お願いがあるのですが」

「グレンだ。なんなりと言ってみよ」

「村長さんだけにでも、お別れをさせてください。村のみなさんにはとてもお世話になったの。村長さんから、お別れを伝えていただきたくて」

 「お別れ」ときいて、モモが「ひっく」としゃくりあげた。

「いいだろう。どうせなら、この馬車で家々をまわろう」

「えっ?」

「村長づてではなく、皆に直接伝えたいだろう?」

「いいのですか? ……ありがとうございます」

「なんなら、この花を小分けにして持っていけばいい。君には要らないと言われてしまったし」

「……ごめんなさい」

「気にするな。ほら、花束を分けるぞ。ペリ、エデ、モモ、手伝え」

「気安く呼ばないでよ変態」

「素手でひねりつぶしたくなる精霊ははじめてだな……」

 ぶっそうなことをつぶやきつつも、若きフォシェリオン侯爵は家事精霊(ブラウニー)たちと一緒に、せっせと小さな花束を作り始めた。

 その様子を見ながら、ミシェルは父の言葉を思い出していた。

 『精霊気』を届けるには、精霊との信頼関係が必要だ。

 おおげさなことではないよ。ただ、なにかを一緒にやればいい。それだけさ。

 グレンの周囲には自然の精霊気が漂い、ペリ、エデ、モモとの間をゆるやかに循環し始めている。

(『同調』――)

 村の人にあげる花束を作るという目的を共有して、グレンは初対面同然の精霊たちとの『同調』に、見事成功している。

(グレン・デル・フォシェリオン侯爵。不思議なひと……)

 ふと、視線に気づいたグレンと目が合った。

 ミシェルはあわてて目をそらした。またしても心臓が高鳴ってしまった。


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