第四章 我が愛しの精霊使い⑤
「えっ? えっ? えっ?」
メイドのうろたえる声を背後にききながら、ミシェルは動きづらいローブを脱ぎ捨てて走り出した。
衛兵がわらわらと現れて進路を塞ぐ。
ミシェルは鞘に収まったままの剣を薙ぎ払った。ミシェルの一撃は届かなかったが、戦士精霊のモモがいる。戦いに特化した精霊の鞘が、衛兵たちの脇腹に次々と食い込んだ。
「ミシェル、鞘から抜こうよ! 重い!」
「絶対駄目!」
『同調』中のモモは、ミシェルとおなじことをする。
モモにはもう、魔物以外を殺させてはいけない。
モモをひきとったとき、ミシェルはそう誓った。
戦士精霊の大量殺戮事件――モモはその実行者のひとりだ。
モモはデスカリドが調教した戦士精霊の中でも、『命令使役』に高い適性を示した。だから、選ばれてしまったのだ。
「同族を殺す」という役割に。
『命令使役』に適性を示していたはずのモモなのに、本能から逸脱した戦いを強いられたおかげで、神経が焼き切れてしまった。モモは、「同族を殺す」という行為を行っている最中に、変調をきたしたのだ。
乱闘の末、始末する予定の戦士精霊あと一人を残して、モモはその場に倒れ伏した。
あと一人残った戦士精霊は、ランドゥだった。
壊れたモモは、倒れざまにランドゥに剣を差し出したという。
「殺してほしかったの」と、後になってモモは言った。
「ランドゥにも酷いことをした。精霊は精霊を殺したくないって、そのとき気付いたのに。ランドゥにおなじことをさせて、自分だけ死んで楽になろうだなんて……」
昔のモモを思い出すと、ミシェルは胸がしめつけられてしかたがない。
戦士精霊は、魔物を屠るために存在するのだ。
人間の都合で、戦士精霊の存在意義をねじまげてはいけない。
「なにをしている! 早く捕まえろ!」
デスカリドが苛々と叫ぶ。
「侯爵、あの者たちは何者です?」
事情を知らない精霊庁の面々がたずねた。
「あの娘は……」
「クレティス伯爵のお嬢さんで、私の婚約者だ!」
朗々たる若い声が庭園に響いた。




