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第二章 壊れた精霊⑦

 奥庭の小道を進むと、鬱蒼と繁る木立に隠れるように、小屋が立っていた。

「あの小屋に、戦士精霊が?」

「名を『ランドゥ』という。王宮所属の精霊が名で呼ばれることはめずらしいが、彼は例外だ。レナルドが名付けた」

「父から、話にはきいていました。彼の働きがなかったら、四年前の魔物は退治できなかったかもしれないと。彼ほど戦いに向いた精霊はいないと」

「ランドゥは王宮の戦士精霊が殺された現場にいた。事件の生き残りだ」

「なぜ、今はこの屋敷に?」

「廃棄処分されそうになったからだ。廃棄の表向きの理由は、ランドゥが『命令使役』を受け付けないこと」

「……エデやペリみたい」

「ランドゥはレナルドの用いる『同調』と最も相性のいい戦士精霊だった。いや、そんな言い方はそぐわないな。ランドゥは、剣士レナルドの相棒だった。四年前の魔物は、彼らふたりが仕留めたようなものなのだ」

「父が面倒を見るまで、ランドゥは死んだようになっていたそうですね」

「ランドゥは『命令使役』どころか、『同調』すらなかなか適わない難しい精霊だ。私が彼の前で剣を振っても、彼はぴくりとも動いてくれない。私では駄目なのだ。レナルドが相棒でなければ、ランドゥは戦士になれない……」

「では、父がいなくなってから、彼はまた元のように動けなくなってしまったのですか? それで廃棄処分に?」

「ランドゥは、宮廷にとってみれば、魔物退治に素晴らしい威力を発揮した兵器だ。そう簡単に捨て去りはしない。廃棄処分の本当の理由は、ほかにあると私は思う」

「本当の理由?」

「おかしいと思わないか? レナルドが犯人だとして、戦士精霊を『同調』で操り、ほかの戦士精霊を殺したのなら、なぜ殺害にランドゥを使わない? 彼が一番強いのに。ランドゥは全く動かず、むしろ傷を負った側だ」

「そうですね」

「宮廷でも当然、その意見は出た。握り潰されたがな。デスカリド侯爵に」

「デスカリド侯爵を疑ってらっしゃるのですね」

「デスカリドに疑いを持つ者はほかにもいる。しかし、『命令使役』を支持する貴族たちが、デスカリドを囲んで守っている。ランドゥの処分も、『命令使役』支持派が言い出したことだ。廃棄処分の本当の理由は、余計な疑いの種はさっさと葬ってしまえということだろう」

 グレンはくやしそうに唇を結んだ。

 ミシェルは戦えない戦士精霊のいる小屋を見た。人間どうしの争いの中で、犠牲になるのはいつも精霊だ。

「ミシェル」

 グレンの呼びかけに、彼のほうへふたたび視線を向ける。

「レナルドは私に、宮廷の争いに手を出すなと言った。しかし、私は今、処分されそうになったランドゥを無理矢理引き取ってここへ匿っている。デスカリドとの敵対関係を宣言したも同然だ。ミシェル――私は、まちがっているか?」

「いいえ」

 ミシェルは即答したが、グレンに安易な勇気を与えたいからではなかった。

「正しくも、まちがってもないと思います。まちがっているかいないかは、これからの行動が決めることだと思います」

「ミシェル――。君は、やはりレナルドとメリエの娘だな」

 グレンはどこか安心したように、ミシェルを見て目を細めた。


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