サジェス・バハムートの到来
「……この度は、ご心配をかけて誠にすいませんでした」
寮に帰って早々、床に正座してリーベを除くクラスメイトに向かって頭を下げた。
「もう二度と勝手な行動はしないからこのきつい体勢を解放して欲しいなぁ」
視線だけ上に向けると、腕を組んで鋭い目付きで見下す如月がいたので、直ぐに視線を床に落とした。
「……分かりました。今回は許します。しかし、もう一度私達を除け者にして、心配かけて勝手に散歩なんてしたらどうなるか分かりますよね?」
如月の頬が緩んでるが、おぞましい雰囲気に僕はただ頷くしか出来なかった。この恐怖を感じたのは僕だけじゃなく、怒られてもないピスティはロネスタの背中に隠れ顔だけ出していた。如月は、大きく息を吐くと怖がっていたピスティに寄ると頭を撫でてあげると、直ぐ元気な声を出した。
「よかった!いつもの如月だ!」
「怖がらしてごめんねピスティ。さて、そろそろ夕ご飯の時間ですね、行きましょう」
如月は、ピスティの手を取り食堂に向かって行くのを僕達はその背中を追った。
食堂では、多くの生徒でごった返していた。それでもなんとか6人座れる場所を確保してそれぞれご飯を頼みにいった。
今日はミートソーススパゲッティとマルゲリータ。2品も頼みお皿の上にかなりの量と思うが、盛り付けられてる量は少ない。
「ヴリティアそんなんで足りるのか?周りの男子も半分いくかどうかの量だぞ」
普通盛りのスパゲッティの半分の量にマルゲリータは、4分の1のサイズ。その少なさにクラスメイト以外のからも視線を感じる。
「それにしても少ないわよ」
リーベは、スペイン料理の定番パエリアをすくい口に運んだ。
「逆に、僕からすると大盛りなんてよく食べれると思うよ」
フォークに麺とソースを絡めさせて口に入れる。トマトの仄かな酸味と牛ひき肉の旨味が口に広がりとても美味しい。マルゲリータもチーズとソースのバランスが絶妙で美味しく頂く事が出来た。後は、お風呂に入って寝るだけだ。明日も授業があるために早めに就寝しないと。
翌朝。寝坊する事なく、身支度をしてみんなとご飯を食べて、寮棟から校舎に向かって行くなか、突風が吹いた。普通の風なら何事も問題は無いのだが風から強大な力を感じた。そう、昨日と同じ神の力を……
「この感じ……昨日と同じだ」
「もしかして昨日突如現れたあの4体の神が再び降臨したってこと?」
如月は、恐る恐る僕に質問する。全員の顔を見ると緊張し顔が険しくなっていた。
「うん……でも4体も居ない。1体だけ」
周りに他の生徒もいるが、その気配に全く気付いて無い。もしかしたら神の血を引く僕だけしか神力を感じる事が出来るのか?もし、そうだとしたらこの現状を早く広めないといけない。しかし、僕が情報を伝える前に向こうから姿を現した。
なんの予兆も無く現れた神に僕以外の生徒は怯み、座り込む者もいた。
「そこにいたか、我の名は、ミカエル。小僧もう一度チャンスを与えよう。龍を捨てて神になれ断ったら今ここで全員滅する」
ミカエルと言う全長3m程ある神は、僕に手を伸ばす。圧倒的な圧力と恐怖を前にジリジリと後退せざるを得ない。でも、一つ疑問もある。何故神々は、僕を何度も龍を裏切らさせるつもりなのか?それほど敵に回すと厄介な力をどこかに秘めているのか?僕は、意を決してミカエルに質問した
「どうして僕を神にさせたがるの?」
声だけは強気にさせるが足は震えている。僕を囲むクラスメイトも同じ状況と思ったが、そうでも無く魔法陣を作り召喚か装備の準備が出来ていた。
「悪いが、それに答える必要は無い。小僧早く答えろ神になるかそれともここで死ぬか」
ミカエルは、手の平に神力を集中させる。この最悪の状態を切り抜ける術は無いのか……頭をフル回転させて考えるが、ミカエルは我慢の限界か、一人の生徒に向けて人差し指を突きつけた。僕は直感した。あと数秒で殺される……
それだけは避けないと!
「やめろ!狙いは僕のはずだ!他の龍には手を出すな!」
「貴様の返答が遅いせいだ。我が殺したのではない……貴様が殺させた!」
パヒュン!と何が高速で移動した。狙われた生徒は何が起きたのか分からない表情だったが、腹部から出た血を見た途端絶叫した。
「さぁ!早くしろ!返答しないのなら無理矢理にでも貴様を神にするぞ!」
今度は、僕に指を向けた。すると、隣にいた如月が動いた
「もう、許しません!罪の無い家族を殺めるなんてッ……神を燃やす煉獄の炎よ!その力よ私に宿れ!カグツチーーーーッ!!」
如月の体が炎に包まれた。しかし、隣にいるのに全く暑さを感じない。一方のミカエルは煉獄の炎の威力に少し驚く声を漏らした。
如月を包み込んだ炎が四方に四散すると、漆黒の髪は、メラメラと燃える炎になり、背中には、真っ赤な翼。紫陽花の着物からカグツチの頑丈な鱗のようなものが胸部を守り、手にはこれまたカグツチの頭部に生えていた角をまるまる槍として如月が握っていた。
「覚悟は出来てますね……尋常に勝負!」
如月は地面を蹴るとミカエルの心臓部分へと槍を向けて一直線に跳躍した。凄まじい速さだったが、ミカエルと槍の間には透明の壁があった。
「ほほう、なかなかの者だな小娘。しかし、戦場で情に流されては……死ぬぞ」
ミカエルは、如月を両手で掴んだ。
「ぐっ!?はっ、離せ!」
「安心しろ酷いようにはしない。痛みも感じる前にもう死んでるから」
「あぁ!い、いやぁぁぁーーーッ!!」
如月を掴む手から膨大な力を感じた。その直後に苦しみの叫び声をあげた。このままだと如月が死ぬ……なんて僕は惨めだ!目の前で家族と言ってくれた如月の命が消される寸前なのに……!誰でもいい!誰か助けて!
心の中で大きく祈った。すると奇跡が起きた。ミカエルの背後から巨大な大剣を持った少女が現れた。ミカエルは、気付いたが既に遅かった。もう真っ二つに寸断されていた。
「ふぅ、まぁこんなもんよねぇ」
ミカエルを一振りで消した少女は、装備していた大剣をしまい倒れる如月の側によると肩に担いでこっちに来る。そして僕と視線が合うと、手を振ってきた。
「ヴリティアあの子とは友人なの?」
ロネスタは魔法陣を解除して僕に聞く
「いや、初対面だけど……」
すると、その少女が手を伸ばして来たのでそれを掴むとグイっと引っ張られ少女に寄りかかる体勢になる。
「やぁ、ヴリティア生で見ると本当に可愛い顔ね。私の名前はサジェス・バハムート。知っての通りお父様の一人の娘よ」
「え!バハムート様の!?にしてもどうしてこんないいタイミングに」
「ヴリティア、君の体の中にはお父様の力が少しだけ入ってるの。そのお陰で私にも貴方が何処にいて、心の中で何を思っているのか、分かるのよ」
「そ、それは初耳だな。でもサジェスはどうして学校に?あの強さなら必要無いでしょう」
まだまだ質問したいことは山ほどあるが、まずは誰もが思う事を問い掛けた。
「私は、ヴリティアに龍族の技を教える為に来たの。それとそう一つあるんだけど……」
突如サジェスは、顔を赤くして口をモゴモゴさせたが、小さな声で
「……ごめん、やっぱりこの話はまた後で!この事言ったら集中出来なくなるから!それと如月って事ミカエルに狙われた子は無事だから心配しないで」
言葉に通りに如月は、装備が解けて今まで通りの着物に戻り安定したリズムで息をしていた。サジェスは僕の後ろにいるクラスメイトにも挨拶をすると、当然みんな驚いた表情を浮かべた。
「さぁ、行こうか。私学校って初めてなの!だからとても楽しみ!」
サジェスは、僕の手を掴み校舎に向けてグイグイ引っ張り始めた。クラスメイトの方を見ると不満そうな顔をしたロネスタがいた。