遅めの入学式
デンマークのスケーエンを出発して何日経ったか曖昧だけどお金と体力を大いに使い、日付が変わるギリギリだが、ついにイタリアのミラノまで到達した。そして明日は季節外れの入学式だ。
やっとお父さんとお母さんの意思を継げる嬉しさと初めて通う学校たいう楽しそうなところで非常に気分がいい。
しかし、隣ではなんだか憂鬱な顔をしているルリアがいる。
「さっきからどうしたんだルリア、あまり元気じゃないようだけど」
誰のせいだよと言うようにジト目で私を見るそして、頭に指を刺して。
「だって今まで同じ髪型だったのに、アリル髪切るもん。しかも私が居ない時に」
そう、ルリアの言った通りにずっと同じロングヘアだったけどバッサリ切ってショートヘアへとチェンジした。これもちゃんとした意味がある。
「だって、2人ともロングだとお父さんの代わりがいないでしょ。ルリアはお母さんで私がお父さんの意思を継ぐの」
これだけでは無い。もう1つ大きな理由がある。双子で似た顔だけど違う所がある!
「それに私よりルリアの方が女の子っぽいし」
「えー? そんなことないよアリルだって可愛いじゃん!」
「そこじゃない。私より胸大きいじゃん」
同じ生活して同じ食べ物を食べているのにルリアと胸が比べものにならない。一応私の方が姉なのに……!
「こ、これはその……えっと……」
モジモジして口籠ってしまうのがルリアの癖だ。正直この状態が一番可愛いために、いじわるしてしまうが仕方無いね。
「まぁこの小さなお陰で男装も出来るから今回は良しとしてやるけど」
「だ、男装!?」
今度は大きな声を上げる。口籠っていたのに突然の大声でかなりビックリした。心臓が跳ねて胸が痛いです。
「急に大声だすなよ、驚くだろ」
「それはこっちのセリフよ! アリルの気持ちは分かるけどそこまでやるの?」
「当たり前、お父さんだけがのけ者にされたら可哀想でしょ」
「そ、そうだけどさ。なら一応私もやれる事は協力するけど口調とか動きとかは気を付けてよ」
「分かってるって、なんとか行けるよ。それより明日から学校だからとりあえず寝ようか?」
「そうだね、アリル朝起きれないからね」
「あーはいはいそうですねー」
棒読みで返してそそくさと布団へと入る。後ろでは鼻で笑うルリアも寝に入っていた。
木製の扉の奥から凄まじい威圧感を感じる。ここの学校を牛耳るボスが居座る部屋に立つ校長室ってこんなに緊張するのか! ルリアはここに立つ前から私いや、今は俺だ。すっかり背中に隠れている。
「ルリア……そろそろ窮屈なんだけど」
「無理無理、先頭取ってよー!」
これまたルリアの性格が現れる。超ド級の人見知りにすぐ部屋の隅に隠れる。この調子だとクラスの顔合わせの時どうなる事やら、不安しか無い。
「まぁいいよ、入るからな」
ルリアの返事を待たず扉をノックする。その奥から意外にも優しそうな声が返ってくる。
「失礼します」
案外軽かった扉を音を立て無いように優しく閉じる。
「この度は入学おめでとう。あれ妹さんは?」
ルリアは完全に俺の背中に隠れると正面から見ると見事にシンクロして隠れてると言わないと絶対に気づかれない。
「は……はい。ここにいます」
背中から顔の半分だけを覗かせる。それに声も私もギリギリ聞こえるかどうかの声で絶対に聞こえないと思ったが、校長先生はニコッと笑い。
「ルリア君も入学おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
再び背中に隠れて制服を強く握り締める。だかど何か微かに震えている気がする。
「すいません」
「いえいえ、大丈夫ですよ。それよりアリル君本当にそれで通うのかね?」
「はい、わた……んんっ! 俺は男ですから」
「だ、だいぶ無理してそうだけど、一応担任のヘールト先生には正規の性別を教えてるから」
やはり私がなかなか抜けない。早く治さなければ。
「今日から君達は、ユーベルクラスという対神龍族専用クラスの仲間だ。当然、同じように悲惨な進化を遂げた龍族が多い。直ぐに打ち解けると思う。さぁ、そろそろ時間だよ。未来を背負う若い龍よ」
「あ、は、はい。失礼します」
礼をして振り返った時ルリアが背中を強く押す。まるでこの部屋から早く出たいと促している。肩越しにチラッと校長先生を見ようとしたが、怯えるルリアが視界を埋める。
一体何を感じてるんだ? ここまで恐怖に顔を歪めるルリアは見た事ないため少し流石に俺も心配になる。
校長室から後ろにいたはずのルリアが飛び出していく、やっぱりここまで恐がるのは流石に異常だ。
「ルリア! 待てって!」
肩をなんとか掴みやっと止める事が出来た。
「どうしたルリア」
「あの人の笑顔が怖い。どう表現すれはいいのかわからないけど、とにかく変なの」
私は何も感じはしなかった。でもここまで震えて怯えるほどルリアは何かを絶対に感じたのは認めざるをえない。
「でもとりあえず俺たちのクラスに向かおう」
「うん……」
背中を優しくさすってあげながらユーベル教室へと案内図を手にして向かった。
三階に登り直ぐ右を向くと高身長の若い人が立っている。服装的に先生と直ぐにわかった。向こうもこっちに気づくと手を振ってくる。
「待っていたよアリル、ルリア。校長先生から紹介があったと思うが、ヘールト・ラドンだ。今からクラスメイトと顔合わせしてもらうが心の準備はいいか?」
「はい、俺は大丈夫です。ルリアはどうだ?」
先生がこっちを向いた瞬間に背中に隠れるルリアは声だけを出して。
「大丈夫……です」
「いや、大丈夫じゃないだろ。すいません先生、ルリアは極度の人見知りで」
「大丈夫、みんな優しい奴だよ。ルリア顔を見してくれないか?」
出ては引っ込めてを繰り返して顔を出すだけで3分以上かける。それでも先生は笑顔で見守ってくれた。
「はい、先生」
すると顎をクイッと持ち上げられて目を合わせられる。
「うん、いい目だ強い意志を感じる。ルリア、君はここで楽しくやっていけるよ」
「本当ですか?」
「もちろん、俺は教師だ。何があっても生徒である君達を守る事が仕事だ」
「あ……」
何か言いたげた表情を作るが、再び私の背中へと擬態化する。
「後で呼ぶから来てくれよ」
先生が先に教室に入ると、一斉に挨拶をする声が聞こえる。ついに、ミラノ龍学校へと最初に1日が始まろうとしていた。
「みんなおはよー」
緩い挨拶と共に爽やかな笑顔を見せつけながら担任の先生であるヘールト先生が入ってくる。それを僕達は返事をして席に座る。
「うん、いい声だ。遅刻欠席は無しと。改めておはよう。今日は前から連絡してはあるが転校生というか、ヴリティアやサジェスみたいに入学式が少し遅れた2人が新しくユーベルクラスの家族なる。おーい入ってこーい!」
扉が開くと赤い短髪の男子生徒が入ってくる。よかった。今まで男1人だったから物凄く嬉しい。でも、もう1人はどこにいるだ? 疑問が残るなか
自己紹介を始めた。
「俺はアリル・ファフニール。出身国はデンマークの最北端スケーエンから来ました。そして、こっちが……」
アリルが隣に移動するとその真後ろにロングヘアの顔見たときに察したけどきっと双子の兄妹だね。何故か顔を赤らめつつ口はパクパクさせながら視線は下を向いたまんまだった。そしてかすかに聞こえる声で。
「ル……ルリア・ファフニール……です。よろしくお願い……します」
瞬間で頭を下げて背中を見せる。その行動にアリルは頭を押さえてヘールト先生は苦笑いしていた。
「ごめん、わた……んんっ! 俺の妹は極度の人見知りで、仲良くしてくれないか?」
「そんなの言わなくても大丈夫だよ。僕含めてここにいる家族は、アリルとルリアを歓迎するよ。こんな僕でもみんなは歓迎してくれた」
翼を隠していたコートを脱ぐと常識では考えられない左右反対の翼が出る。それでもみんなは嫌気を指すことない。
「そうですよ、アリルさんルリアさん。ユーベルクラスは全員が家族です」
如月も優しくルリアに微笑む。
「私……みんなありがとう」
ルリアは歓迎されて感動したのか、目が濡れて涙が頬に垂れていく。
「あーあ、ヴリティア泣かせちゃった」
「なに言ってんのロネスタ!?」
冷やかすように泣かせた原因は僕には無いのに不敵な笑みを浮かべる。するとヘールトは何か楽しみを待つように微笑む。
「まぁ、そんなこんでこの2人をよろしくな。では、ユーベルクラス恒例行事、寮の部屋変えをしようと思う! はいみんな拍手!」
僕とサジェス意外のみんなは、またかみたいな顔で拍手を送っている。
「ヴリティアとサジェスが来た時は神の襲来真っ最中だから無理だが、今は落ち着いてるからアリルとルリアが来たからやろうと思ってな」
はぁ、そういうことね。僕の隣では物凄くそわそわしているサジェスがいる。
「あら〜サジェスちゃ〜ん何か悪い都合でもある訳?」
「な、なんも無いわよ」
と言いつつもやはり落ち着いてない。まぁ何か事情がありそうだけどいいか。
「先生、1つ提案をいいですか?」
「何でも言ってみろ如月」
「ヴリティアさんとアリルさんは同室でどうでしょう? 同じ男同士ですし、女子がいると何かと気を使ってしまいますから」
「確かにそうだなヴリティアとアリルはそれでもいいか?」
「僕はむしろそっちを望んでたよ」
「俺も問題無い。ルリアそれでもいいよな?」
「……うん。男同士気が会う話もありそうだし」
「よし、後のみんなはくじ引きで決定だな」
そして決まったペアが、ルリア・ロネスタ
サジェス・プリエール。人数の関係で3人部屋になった如月・ピスティ・リーベだ。
「今日は授業無し! アリルとルリアにここの学校の良いところと家族全員で友情を育むように! 以上解散!」
この人は相変わらず緩い。でもこういう先生の方が緊張しないしゆっくり出来るから嬉しいんだけどね。
「まずは、ぐるっと回りましょう。そして、私からも恒例のアレがありますから」
「本当!? 如月の弁当は食堂とか寮のご飯より美味しいからあたし好きなの!」
ピスティが心から喜ぶのは全員同感出来る。僕だってあの弁当の味に舌が飢えちゃってるからね。
「よし、それなら早く回りましょう。歩きながらデンマークの話聞かせてくれてら嬉しいですわ」
先に歩いたのはリーベにその後ろをついて行く。あの時、みんなに案内されながら校内を歩いた懐かしい記憶が少しだけ蘇った。