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新たな敵

 そしてついに龍星祭当日を迎えた。全生徒は早めに登校し、出し物の最終確認を済まし開会式のために体育館へと集合した。

 既に他のクラスは集まっておりこっそりと急いで列に並ぶ。その時の視線が凄い小声で聞こえる。

「ヴリティア様よ、勇敢だわ」

「ほんと、でも可愛らしいわ」

 全方位からの視線を感じるつつ、僕を讃える小声がなんともいづらい。早く、終わらせてくれないか……。

 その思いに応えるようにやっと校長先生がステージに立つ。

「みなさんおはようございます。本日は待ちに待った龍星祭開催の日です。クラス一丸となって頑張りましょう。そして突如現れた2人の神を鬼龍のような戦いぶりで打ち勝った。我が校の英雄ヴリティア君に開会の音頭を取って貰おうではないか」

 その瞬間体育館に歓声と拍手が鳴り響く。そんなよただでさえ目立ってしまうではないか、早くこの空間から出たいのに……。

「ほら早く行きなさい。覚悟を決めて」

 後ろでリーベが背中を押す。

「わ、分かった」

 翼を広げステージまでひとっ飛びする。スポットライトが僕を照らし、周りが暗くなる。一度全龍を見渡す。その1人1人の視線に緊張して口の中がパサパサになる。でもここまで僕を迎えてくれることがとても嬉しい。

 マイクを優しく握り電源を入れる前に咳払いをする。何も浮かんでないが、取り敢えずそれっぽい言葉を土壇場で並べた。

「今日の龍星祭は学校一丸となって頑張ろう」

 「「「「おーー!!!」」」」

 一度に上がる拳の後に大きな拍手が沸き起こる。

「では、龍星祭開会!!」

 校長の再びの言葉で学校全体のボルテージが最高潮になる。

 ステージからクラスメイトの所まで飛び、急いで教室へと戻り最期の確認を行った。

「では、手合わせ通りにヴリティアさんこれを着るように」

 渡されたのは、当然のことだがメイド服。更衣室に急いで向かい、まだ抵抗があるが今更わがままも言ってられない。メイド服に着替えて、再び教室へと戻る。

「ヴリティアさんは、集客をお願いします。店番は1時間交代でローテーションって事でいいですね。最初は私とサジェスさんとピスティさんです。それでは頑張りましょう!!」

 こっちも最期の掛け声と共に僕は、特製の看板を手に取りつつ廊下を出て、一般龍族で溢れかえっている正門の集客を始めた。

 もう、この服装に慣れた訳では無い。でもクラスメイトと学校の為には恥を捨てなければならなかった。

「和の国の冬の料理おでんやってます! 3階U-1までお越し下さい!」

 声に反応し、色々な龍が僕を見る。そして、男の集団が近づく。もしかして男ってバレた? 逆に男って認識して貰いたいけど。

「お嬢ちゃん可愛いねぇ、一緒に回ろうぜ」

 あっ……やっぱりそうなるよね。

「いえ、僕男なんですけど……」

「とか言っちゃって〜予防線を張らないでよ」

 僕にベッタリくっつく、物凄く変な感じしかしない。どうにか男って認識させるためにはどうしようか? 一度自分の体を見渡すと1つの正解に辿り着いた。

 胸だ。ロネスタと如月が討論したこの胸を使えば男って理解してくれるはずだ。

「お兄さん、手貸してくれるかな?」

「おっ、やっぱりノリノリじゃん」

 優しく差し出した手を両手で握り胸の方に運ぶ。

「おっ、おぉ! お嬢ちゃんそんなに可愛いがって欲しい……のか?」

 大きな手を僕の胸に密着させる。多少の不快感はあるが認識させるためだ。膨らんで無いのを理解してくれたはずだから男って分かったと思う。

「んっ……ね、これで納得してくれた?」

「あぁ……悪かったな」

「ううん、大丈夫。龍星祭楽しんで下さいね」

「ありがとよ」

 男の人達を送り込み、もう一度集客を始める。だが、背中が凍りつく。

「ほほう、ヴリティア。中々可愛らしい格好をしているじゃないか」

 聞き慣れた声に驚くが、この姿を一番見せたくない龍でもあった。

「お、お父さん……その、これは違うんだ! クラスで決まった案でこういう趣味は僕一切ないからね!」

「これは母さんにも見せたい姿だな。まぁいいそれで学校はどうだ?」

「うん、楽しいよ。始めてこんなにも歓迎されて親しいクラスメイトもいて、入学して本当に良かった。世界が一気に変わったよ」

「そうか、それは良かったな。成長した姿を見れてよかった。今度は家に帰って来いよ、俺は少し用があるから帰るからな」

「バイバイ、お母さんにも元気だよって伝えといてね、お母さんの事だから日々心配してそうで夜眠れてなさそうだし」

「あぁ、分かった」

 お父さんはその場から空へと羽ばたき家の方へと飛行していった。

 さて、気をとり直して集客を頑張りますか!




 午前の部が終わり、午後の部が始まる。

 おでんの売り上げは凄まじく、午前で全て売り切れてしまった。そのため午後は全員で他のクラスの出し物を回った。屋台を巡り、本当にお祭り騒ぎだった。

「龍星祭はいつやっても楽しいわね」

 リーベはセンタースクエアを見下ろせるテラスでコーンに盛られたバニラソフトクリームを舌で掬う。その隣では、リーベでは無くアイスに眼光を光らせるロネスタがいた。

「そうだな、リーベそれ一口くれないか?」

「さっき買いなさいよ。はい、ロネスタ」

 舌を出して、ちょっと貰うと思いきやロネスタは口を開けて先端にかぶりつく。

「ちょっとー! ロネスタ! そんなに取らないでよ」

「いいじゃん減るもんじゃないし」

「減ってるわよ! もうロネスタったら」

 お互いに見合うとどこからとも無く笑いが起こる。小声で如月に聞くと、どうやらこれは2人にとっては恒例らしい。

「さて、まだまだ時間はあるしもっと色々回ろうよ!」

 プリエールに賛同し立ち上がった時、突然の爆発音が鳴り響く。衝撃が強く、立った瞬間地震が起きたように体が揺れる。

「な、何……一体」

 手すりに捕まり揺れに耐えていると鼻を刺激する火薬の臭いと、その中にうっすらとする血なまぐささがする。

 耳からは何かが発射されている音が不規則聞ここえる。そして、遠かった悲鳴と爆発音が徐々に学校まで近づく。

「ねぇ、龍星祭にこんな催しなんてないよね」

「いいえ、こんなの企画書に書かれていなかったわ」

 なら、一体なんなんだ。確認のために装備をして、翼を広げ悲鳴が聞こえる方へ飛び立とうとしたが、背後からとんでもない殺気を感じた。振り返り向かい合おうとしたが、太い腕が首に絡むと背中に金属の嫌な冷たさと硬さが背中に当たる。

「don't move」(動くな)

 この言葉本で見た事ある。龍の国は、フランス語とドイツ語しか話さない。この言葉は確か英語。ならもう1つしかない。

「You are a human being」(君は人間だね)

「Well, that there is a beast understanding these words」(ほう、この言葉が分かる獣がいるとは)

「On earth I came for the purpose of what here」(一体何の目的でここに来た)

「Is it a purpose? Easy. This is because it murders you!」(目的?簡単だ。お前を殺すためだ!)

 背中から強い力を感じた。装備をしているお陰で相手が何をしてくるから予想が付いた。

 肘で腹を殴りよろけた所で腕からすり抜ける。ヴリトラの角に似た剣で突き刺そうとするが、先にパシュン、パシュン。高音が耳に聞こえる。その途端体が突然止まった。お腹に襲いかかる激痛、腹部から血が滲み出る。

「ぐふっ! うっ……ぁぁ」

 足の力が抜け、膝が地面に着く。同時に口から血が出る。

「The purpose was accomplished whether you took it off. I return now.」(外したか、でも目的は達成した。今帰還する。)

 目の前にいた人間は、突然透明になり消えていく。

 その間に遠のく意識。……また気絶するのか……?

「しっかりしろ!  ヴリティア!」

 周りを囲むクラスメイトの声も徐々に遠のく。もうこれ以上心配は掛けたくない……! 心の中でそう強く思う。するとあれほどの激痛がスッと消えていく。比例するように視界もクリアになる。

 自力で座り込み腹を触るとなんとも無く血痕すら消えていた。

「はぁ……よかった。でもなんで傷が一瞬で消えたんだ?」

 サジェスが安堵しながらも疑問が残る。それは僕だってそうだ。

「分からない。でも、人間の襲来は絶対に何か意味を指すよね」

「多分ね、お父様も何かやるのか少し心配だけど」

 折角の龍星祭が、人間の強襲により全て壊された。翌日に被害が判明し死者168人負傷者657人と断定された。その中には生徒も含まれており50名が命を落とした。

 しかし、誰1人進化する龍はいない。一番厄介な敵は神では無く人間だと先生は言った。

 神に殺されたなら龍は進化しる。でも、人間に何百人殺されても進化なんてしない。昨日死んでいった168人の死は無駄死にだ。

 悪いことばかり起きている。でも、1ついいニュースが入ってきた。

 それは、明日ユーべルクラスに2人の転校生が来る事だ。

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