実戦
翌日、いつも通りに起きて、クラスメイトの皆とご飯を食べて身支度をして登校する。当たり前の朝だが、今日は起きたときから胸に違和感を感じながら横に一列になりながら登校していた。普段通りに適当な会話に華を咲かせつつ校舎を目指して歩くなか、突如心臓が焼け焦げるほど熱くなり跪く。その途端僕の隣にいたサジェスとロネスタが脇に手を入れて様子を伺ってきたが、その前この後起きる事態に備えなければいけない。
「……急いでここから避難しないと……みんな死ぬ……死にたくなければ校舎まで走れって伝えて……」
それを聞いたロネスタが、声を上げて校舎まで走れと言うが、言う通りにする龍は少なかった。
「早く!ここにいたら死ぬぞ!」
ロネスタは諦めずに勧告するが、普段通りに歩く龍の方が圧倒的に多かった。ロネスタに釣られて如月、プリエール、リーベ、ピスティも声をかけるが全く増えないなか、目を閉じていたサジェスが突如目を見開くと見えないが波動を感じた。龍力を極限まで溜めて一気に放出した。桁外れの力に立ち止まる。
「龍族の王バハムートの直属の娘、サジェス・バハムートが伝える!死にたくない龍は、我々の言った通りに従え!」
サジェスの放った龍力と声のトーンで雰囲気は、王の骨格が浮かび上がる。周りから見れば、バハムート王そのものだった。サジェスの勧告は、全生徒を動かした。僕は、ロネスタとリーベに肩を借りて校舎へと逃げ教室に向かった。そこから先程の僕達がいた正門を見ていると、空から赤いレーザーのような物が貫いた。
そして、僕達がいた正門はドロドロのマグマのようになり瞬時に固まった。
「なっ……!?あれは一体……」
「神の攻撃だ。僕の予想が正しければ、2体……それにもうすぐ来る」
そして、一度収まった筈の胸の熱さがぶり返した。それとほぼ同時に、正門だって場所に身長の高い人間の姿をした神が2体が現れた。その間校内に限らず、ここ一帯に避難命令のサイレンが鳴り響いた。それと同時にヘールト先生も駆け寄ってきた。
「ヴリティア……よくやった。君の声がなければ全生徒の2分の1が消えていただろう。それとあの神今回は本気だ」
ヘールト先生の言葉の通り2体の神は、僕達を視界に捉えるとフワッと空を浮遊し始めた。
「神々に対抗する龍族よ、我が名はフレイ。忠告通り、この場にいる龍族を全て燃やし尽くしてやろう……」
「同じく、フレイヤ……安心しなさい。痛みを感じる暇なく、死ぬから……」
突然、フレイと名乗った神から禍々しい力を感じた。それと同時に、体の全身が炎に焼かれてると錯覚するほど熱くなり心臓を握り潰される感覚がする。
「あぐっ……!あぁぁ!うあああぁぁぁ!」
地獄のような苦しさ……僕を囲むクラスメイトの声があっても死に値するこの地獄には耐えれはいられない。
「呆気ない……ミカエルはこの程度の奴らに殺されたとは、燃え尽きろ!」
フレイは右手を突きつけると、真っ白な炎が襲い始めた。それとほぼ同タイミングで如月が装備を発動させてそれを真正面から受け止めた
「ほう、流石は和の国を代表する悪龍よ。イザナミを殺してまで得たその力で我と競い合おうぞ、フンッ!」
フレイの手から再び強い力を感じた。しかし、それは如月も同じだった。フレイは、標的を僕から如月に変えたのか、あの地獄は、スッと消えていった。
「その程度の炎ごとき、私の前では無力よ!貫けぇぇぇぇぇ!!!」
如月は、槍を突き出してフレイの出した炎に突っ込み始める。このまんま行けば、あの槍はあの神の心臓を突き刺す位置だ!しかし、如月の動きが突然止まった。白い炎が徐々に消えて行くとそこから見えた状況に怖気を感じた。
なんと、隣にいたフレイヤが人差し指と親指のたった2本だけて如月の槍を掴んでいた。
「甘い……そんな技量の無い攻撃で私達を殺せるとでも……?まぁいいわどうせ今すぐ死ねるから……さようなら」
フレイヤは如月を掴んだまんま高速で回転し始める。そして遠心力を使い、如月を別棟の校舎へ投げ飛ばした。瞬間にドゴーン!と凄まじい音と、巨大な地震のように校舎が揺れた。
「如月……!きさらぎーーーーっ!!!」
ユーベルクラス全員は、彼女の名前を叫んだ。その校舎は、クレーターのように凹んだ後、如月を飲み込むように倒壊していった。
「お兄様……さっさと片付けましょう。私早く帰って森の動物達と遊びたいから」
「お前はなぁ……まぁいい、俺もとっとと終わらせたかったからな……んん?あの金髪の龍……もしや、あの村の者か?フレイヤ、金髪の女と黒髪の男は生かしとけ、後は……殺せ」
「うん……分かった」
2体の神のやり取りが終わったのか、浮遊したまんま近づいてくる。
「全員!3人一組となって各隊、撃退でもいいから攻撃の手を緩めるな。俺は、如月の救護に早急に向かった後応援を要請する。数分間だけ時間を稼いでくれ、散開!」
「は、はいっ!」
リーベの声に自然の3人別れ、東西に走って先ずは、2体の神を離れさせた。ロネスタ、サジェス、僕の方には、フレイが向かってきた。
「一体、どうやって戦うんだ!?」
「先ずは、グラウンドに逃げて戦いやすい場所に行って……殺す」
サジェス目付きが変わり体を纏う龍力も変わっていった。体全体から感じる鋭く尖った殺気に僕とロネスタはただ、頷く事しか出来なかった。
グラウンドに着いて振り返ると空からフレイが優雅に舞い降りてくる。もう、後は引けない。どちらかが死ぬのを待つしか無い。サジェスは、魔法陣を出すことなく装備をした。僕もそれに続いて装備する。
「子供に何が出来る?辞めておけ、命を無駄にするだけだ。それでもいいなら殺してやる」
「何を言ってるの、私は龍王の娘そして彼は、龍族の英雄の子よ。引き継いでる血が違うのよ、如月を倒したからって調子に乗らないでくれるかしら?」
「ほほう、なら相当殺り合えそうだな!」
フレイが動いた。装備のお陰でどのように動けばいいか、分かるためにその場から手早く離れる。さっきいた地面から噴火のようにマグマが湧き出ては、瞬時に固まった。一方ロネスタは後で始末するのか眼中になかった。
「ヴリティア、ごめん少し耐えて」
「え……?がはっ!?」
サジェスが持つ大剣で峰打ちされる。装備でしっかりと胸部は守られていたが、気絶しそうになる痛みが襲いかかるが、その代わりどこからか力が湧き溢れてきた。
「お父様の龍力を最大限に発揮出来るようにしたわ、後は私とヴリティアの腕次第」
「今のお陰か、より鮮明に戦い方が分かる。なんとな戦い抜いてみるよ」
サジェスの動きに僕は自然とその行動が読めた。きっとバハムート様の力のお陰だろうか、心の中でも通じてると確信できる。
(ヴリティアは真正面から、私はその隙を着いて一撃を狙うわ)
その通りに動くと両手に持つ暗い剣でフレイを切り裂きに行った。相手も、炎の剣を持ち応戦するが、相手の動きが遅く感じる。そしてどこから剣が向かってくるか直ぐに予測がつき圧倒的な攻撃を見せつけた。
「ほほう、少しはやれるようだな……」
今の僕には相手の声は雑音で全く聞こえなかった。両手に龍力を溜め込んで重い一撃を叩き込んだ。その反動を使いフレイは、宙を舞った。しかし、その後ろには大剣を振り上げていたサジェスがいた。もう避けれる距離では無い。挟み込むように漆黒の翼を使い一気に距離を詰めた、残り数センチ!フレイの腹部と背中に剣を貫いた……しかし手応えが無かった。ただ空気に剣を刺してるだけであった。
「俺も舐められた者だ。その程度の連携で殺せるとでも?残念だけの経験が違うんだよ」
「なんで……じゃ、これは一体……」
「そいつは、ダミー。光の屈折や熱で作った俺の姿をしたただの酸素だ」
「さぁ、もう逃げ場は無い。大人しく死ね」
遥か頭上から豪炎が襲い始めた。
「ヴリティア!ヴリトラを信じて受けるしか無い。あれは……避けれない」
(ヴリトラ、お願いだ。僕とサジェスを守ってくれ!)
心の中で強く念じると体全体を包むヴリトラの鱗がより一層厚くなった。
「避けないとはいい覚悟だ!燃え尽きろ!」
徐々に向かってくる炎にただ目を閉じた。そして豪炎は僕とサジェスを包んだ。
「ぐうぅぅっ!あ……熱い。バハムート……もっと!厚く、硬く」
隣で苦しむサジェスの声
「サジェ……ス……ヴリトラ!僕達を包め!」
すると勝手に一瞬装備が解けた。完璧に灰になって消し炭となるに違いない。しかし、突然、熱さが消えた。目を開けると、何か真っ黒い者に包まれていた。
グガァァァァァァァァァァ!!!!
外から聞こえたのはヴリトラの咆哮。そして間から差し込む光に目を薄くする、視線を上に向けると僕達を心配しそうに見つめるヴリトラがいた。
「ヴリトラ……ありがとう来てくれて」
グルルルルルルルル
耳には唸るように聞こえたが、僕の心には、しっかりと助けに来たという真意が伝わる。素早くヴリトラの手が降りて戦闘に戻ろうとしたが、隣でサジェスが倒れた。
「サジェス!?しっかりして!」
息はしっかりとしていたが、装備していた部分が焼け焦げ真っ白い肌が見えた。抱きかかえる微かだが声が聞こえた。
「ごめん…….ヴリ……ティア、彼奴の炎……お父様の話……出てきた。あの……炎は私だけを……狙って……いた……死には……しないわ、ただ、この炎には……毒……が」
そしてサジェスは、気を失った。その真後ろではフレイがゆっくりと近づいてきた。次の狙いは僕だと思ったが、視線はロネスタだった。
「そこの金髪の女。久々だなぁテューリンゲン州の小さな村を焼き払ったのは……」
「お前……何を言って……」
ロネスタは、トラウマになった記憶が蘇ったのか、顔面蒼白になっていた。
「あの時は、小さかったな。貴様は弟を殺さないでと散々喚いていたな」
「そんな……まさか……あの時来たのは」
「そう、俺だ。あの小さな村を全て焼き払い。村人を全員葬り、貴様の大切な弟を酷く殺したのはな」
瞬時、ロネスタは装備をした。その目には、止まらない涙が溢れていた。
「お前か……!エイハを殺したのは……!!絶対に復讐してやる!お前のその首をエイハに掲げてやる!懺悔なんて許さない、ここで死ね!」
ロネスタは足を一歩踏み出した途端、突然姿を消した。彼女のいた場所には金色の粒子が待っていた、そしていつの間にかフレイの後ろに立っていた。
「貴様の命、吸い取らせて貰う!」
ロネスタは魔法陣を出現させた。
「命を操る霊鳥よ、その息吹で全ての命を我が物にしろ!姿を現せコカトリス!」
金色の魔法陣からは、その同じ色の霊鳥であるコカトリスが現れた。
「コカトリス……彼奴はエイハを殺した憎き神。貴方の息吹で土に返してやれ」
「……ッ!まさか、あの生き残りが史上最悪の悪龍の伝承者とは……まぁいい燃やしてやる」
フレイは、神力を高めた。そしてこの戦闘で1番の大技をロネスタとコカトリスに放った。熱気で全ての植物が燃えては炭と化した。しかし、放った場所には居なかった。
「コカトリスは霊……私はその能力を完全に使えるのよ。だから、姿を消すなんて簡単よ。さぁエイハを殺した罪を償え」
ロネスタが手を前に突き出すとコカトリスは姿を消した。そして突如フレイの目の前に現れると息吹を掛けた。すると、フレイの体が金色の粒子に変貌するとコカトリスはそれを吸収した。それを見たロネスタは安堵の表情を浮かべてコカトリスを戻した。
「ヴリティア、終わったわ。早く、サジェスのなんだけど強く抱き締めてあげて。私体調崩した時、ヴリティアと寝たら戻ったでしょ?だからサジェスももしかしたら助かるかも」
「え、あぁ!分かった!」
気恥ずかしいけど今の現状気にしていられる時では無い。サジェスを強く抱き締めてると
「んあぁ……あぁ……や、あつ……い」
耳元で妙にいやらしい声をあげるサジェスに僕は、一気に心臓がバクンと上がった。それと同時に
「うっ……んっあ……あ、あれ私?ってヴリティア!?一体何して!こんなのまだ早いよ……。もっと、お互いを知らないと……」
「一体何されると勘違いしてるの?」
サジェスは僕を押し退けたためにハグをやめると真っ赤な顔を無理矢理隠していた。でも、確かな一体何の話なのか……?
「な、なんでも無い!それよりフレイはコカトリスが倒したようね……後は、フレイヤ1人か」
「ピスティがいるから簡単に死なないとは思うけど早く行くわよ」
ロネスタは、先に校舎へと行くのをサジェスに肩を貸して起き上がりその後ろを早く追いかけた。
戦闘が起こった場所では、リーベ、ピスティ、プリエールが3人寄りかかるようように激しく息をしていた。どうやらフレイが死んだ途端に、人格が変わったように崩れ落ちていった。そのフレイヤは今、床に頭を擦り付けて激しく泣いていた。