龍の進化
練習を終えてサジェスと教室に入るといきなりロネスタが僕に飛び込んできた。突然の事に対処できず成されるがままになる
「な、何しているの!ヴリティアから離れて」
サジェスはロネスタを引き剥がそうとするが、ビクともしなかった。僕もそれに乗じてロネスタから離れようとするが、本当に小さく耳元で悲しげな声が聞こえた。
「少しこのままにさせてくれ……お願いだ」
いつもの凛とした声とはかけ離れている。何か事情があると察した僕は、抵抗しないままロネスタの腕の中で静かに離れる時を待った。
「ふぅ、もういいぞ。すまなかった」
僕から離れて窓際に移動して日向を浴びに行った。横顔を意味もなく見ていると、普段のロネスタからは想像も出来ないような表情だった。日光で煌びやかに照らされてはいるが、目の色はその反対で暗かった。
「なに見てるのヴリティア?もしかして抱き着かれた時に押し付けられた胸の感触が恋しいと思った?」
サジェスの発言に女子全員が敵と見なしたように睨みつけてきた。大袈裟のようにも見えるが、両手を横に振って全力で否定をした。そのおかげが誤解を解くことは出来てホッとしたが、サジェスの発言には注意が必要と思った。
昼御飯はサジェスも加わり食堂はより一層賑わっていた。それもそうだろう、間近には、龍王の一人娘が同じように学食を食べている。それにサジェスは王の子供だからいわゆるお姫様がすぐ近くに居るからだ。もちろん容姿もお姫様という言葉が似合う美貌の持ち主だ。しかも、今日の朝突然現れた神を一刀両断して如月を救ったその一瞬で見惚れた人も多いだろう。
「な、なんか、周りの視線がとっても気になるんだけど……私なにか変?」
当の本人は気づいていない様子だった。
「まぁ、普通に考えれば注目の的ですよ」
サジェスに助けられた如月は、手を取って前のめりになって感謝していた。
「そうそうカッコよかったわ、それに比べてヴリティアは女々しくて本当に男なの?」
「うっ……でもあの時どうして周りの人たちはリーベ達みたいに召喚の準備をしなかったんだろう」
あの戦闘で思った事を口にする。僕達のクラス以外は魔法陣を出さずただ、神が直ぐに立ち去るのを祈ってるだけだった。
「ヴ、ヴリティアそのもしかして知らないの……ですか?」
如月含む全員が顔を引きつらせながら僕に冷たい視線を送る
「し、知らないって一体な、なんのこと」
「仕方ないんじゃないのヴリティア君は、ヴリトラ様の子供だからさ、でもまさか知らなかったとはね……」
プリエールはデコに手を添えて長いため息を吐いた。
「世間知らずの貴方に私が教えてあげるわよ、召喚または装備が出来るのはある条件があるの。それは、神に大切な龍を殺される。または、神を1人で撃退または殺害すると一般龍族から対神龍族として進化するの。私達ユーベルクラスは、ミラノ学校で数少ない対神龍族として神々に対抗する数少ない龍族なのよ。結構大雑把な説明だけで理解した?」
「もしかして、みんな……ごめん。僕の発言で嫌な思い出を掘り返しちゃったら。リーベの説明で全て分かったよ」
「大丈夫よ、少なくとも私は……さ」
リーベの視線は下を俯いているロネスタに向けられていた。隣では、腕を精一杯伸ばして頭を撫でようとするピスティがいた
「大丈夫、ロネスタ私が付いてるから」
「ピスティ……ありがとう」
思い出したくない記憶がフラッシュバックしたのか、冷静なロネスタはポロポロと涙をこぼして、ピスティに抱き付いた。その姿に居てもたってもいられず僕はロネスタに謝罪をした
「謝るのはやめてくれ……ヴリティアは何も悪くない。あれは、私が悪いからあの時……あの時みんなを殺したのは……」
「もういいよ、ロネスタ自分の事を責めないで。それよりせっかくのご飯だからこの時くらいは明るくしよ」
ピスティの言葉にみんな目の前にあるご飯を食べ始めたが、しかしその場の空気は重く誰一人口を開いて喋る人は居なかった。
結局のところロネスタは、体調を崩し午後の授業は休むことになった。先生からも龍族の進化の事を再確認するように話を聞いた。僕とサジェスは、産まれた頃から対神龍族と知りその中でも神の力を引いている僕は、神々から狙われてもおかしくないと知った。しかし、マーキングが知らせる襲撃の予告は、予想以上に早かった。ご親切なことに魔法陣からは
(2日後に再び舞い降りる)
と伝言が書いてあった。この事実は全校生徒へとすぐに伝わりそれぞれのクラスは自分の戦闘訓練を始めた。対神龍族は召喚、装備の確認をして一般龍族は、食料の調達または、治療の準備を急いで始めた。
僕もみんなと一緒に召喚と装備の確認をするとサジェスがこっそりとある事を伝えた
「ねぇ、私と貴方の間にはお父様の力が宿っているのは知ってるよね?」
「あまり実感はしてないけどあるらしいね。それが一体どうかしたの?」
「あまりおおやけに発表したくないけど、もし今回来る神が強敵だったら私とヴリティアがある技をしないと多分勝てないと思う。その時になったら教えるけど覚悟してね」
後半顔を赤くしながら奥の手となる巨大な技を隠しながら僕に伝えた。
「分かった。なんとか頑張るよ」
頷き答えると微笑んで体を動かしに行った。僕も装備をした。
学校を終わらせるチャイムが鳴り響いと同時に僕達は、寮へと向かい休息を取ろうとした。
部屋に向かいベットで休息を取ろうとしたが、体調を崩したロネスタが非常に気になり。ロネスタの部屋へと向かった。
扉をノックしてお見舞いに来た事を伝えると
入って来れと聞こえ入ると、ベットに横たわり口で息をしてかなり辛そうだった
「ロネスタ、大丈夫じゃないよね……取り敢えず飲み物は持ってきたけど飲む?」
「あぁ……悪いが起こすの手伝ってくれ」
背中と後頭部に手を添えてゆっくり起こす。体温はかなり高く、服越しでもかなら熱かった。スポーツドリンクが入っているペットボトルの蓋を開けて口に当てるとゆっくりとだが給水し始める。満足すると自分でゆっくりと寝る体勢に入ると僕の手を握ってきた。そして過去を思い出すように遠くを見つめて
「ヴリティア……ありがとう、一人で寂しかったんだ。あの時乱れてすまん。どうしても、ヴリティアの顔を見ると死んだ弟を思い出すんだ。とても似てて蘇ったと思ったよ、弟は甘えん坊で私の側を離れないんだ、それがとても可愛らしくて私は弟が大好きだった……でも……でも」
今、話した中でもとても辛い記憶を言おうとしている。でも今の表情のロネスタを見続けることなんて僕には出来ない。龍はここまで辛い表情を浮かべる事が出来たなんて……
「ロネスタもういいよ、見ていられない。今は、ゆっくりと体を休ませて早く体調をよくしようよ……ね」
「ヴリティア……お前は、本当に弟によく似ている。最後に一つだけお願いがある。弟は、私をよく抱き締めて寝ていた。その感覚を思い出したいから私を強く抱き締めてくれ」
ロネスタは布団をめくり上げて僕を誘う。騒がしい心を一度無理矢理沈ませてゆっくりロネスタの隣へと入った。感じたことの無い心臓のバクバク感と理性を歪ませるロネスタの体温と首元に吹きかかる熱い吐息
「わ、分かった。行くよ」
「んっ……はぁっ……ぁぁ」
ギュッと抱き締めると女の子特有の甘い香りと胸に当たるマシュマロのような感触に僕は、なんとも言えない気分になる、それに聞こえてくる甲高い声。視線を下げるといつの間にか寝息を立てていた。寝顔は、いつも通りの美しい顔だがどこか小悪魔を感じさせる
「ふっ、おやすみロネスタいい夢を……」
耳に優しく呟いて頭をずっと撫で続けて。リズムよく聞こえる寝息に耳を澄ませていた。