練習
神の奇襲を奇跡的に死者を出すことなく切り抜くことが出来た。このお陰は隣にいるサジェスのおかげだ。自分の体の3倍はある剣を片手で振り下ろしてミカエルを寸断させたあの攻撃力は、同じ龍族として頼もしい。それに強さだけでは無く誰もが見ても綺麗な女の子だ。新しく増えた家族に楽しい生活が始まろうとしていたが、ミカエルは置き土産を置いてた。
教室に入りいつも通りに席に座ろうとしたが、僕の机に異国の言葉で書かれていた魔法陣を見たときにサジェスを除く全員が顔を白くさせた。
「あぁクソ! 彼奴らどれほどヴリティアを狙っているんだ」
ヘールト先生は、教卓を力の限り叩いた。その衝撃で教室に強い風が吹き荒れた。
「先生これってマーキングですよね?しかも僕の机にマークされてるってことは……」
「分かってるとは思ってるが、近日には再びあの神がお前を狙って来る。しかしまいったな、今のヴリティアではあっという間にやられてしまうな」
先生が頭を悩ませるなか、サジェスが僕の手を掴んで口を開けた
「なら、私の仕事ね。お父様からの頼み事だからしっかりと役目を果たさないと、ってなわけで先生、今日からヴリティアを手厳しく訓練させるから貸し切りでいいかな?」
「な!?ちょっと何言って……」
ロネスタは、僕と先生の間に割り込んで異議も立てようとするが、先生はサジェスの話を飲み込んだ。
「よーし、そうと決まれば早速練習でもしようか! ヴリティア行くよ」
サジェスは1人スタスタと練習場所である体育館へとゆっくりだが足を進めていた。教室を見れば離れる僕を口をきつく締めながら鋭い視線を送るロネスタと目が合う。そう思えば、サジェスが来た時からロネスタが不機嫌な気がする。今日の夜にでも理由を聞きに行けばいいかな、それよりもまずはサジェスのワンツーマンの練習を乗り越えないと
いつも体育館は、他のクラスが授業で使用するのだが、本当に貸し切りみたいで巨大な空間に僕とサジェスしかいない。
「よし、じゃー早速召喚をしてみて」
「分かった……」
肺に溜まった空気を吐き出して新鮮な酸素を一気に取り込んで声を張り上げ
「龍族の英雄よ 古の時代から蘇り世界を救い給え、僕に力を……ヴリトラ!!」
僕の呼びかけに答えるように魔法陣からヴリトラが現れて一度咆哮をすると浮遊を始めた。サジェスは現れたヴリトラを見て拍手を送った。
「流石はお父様の親友の子ね、私の予想を遥かに超える龍力を秘めている。さぁここからが訓練開始よ、龍の力を発揮させるには、心を同調させて気持ちを合わせて命令を送ることが重要よ、そして戦いをイメージするの」
「イメージか例えば、ヴリトラが神々を薙ぎ倒すのをイメージすれば龍はその意思を受け取って攻撃するの?」
「そそ、理解が早くて助かるわ。でももう1つこれが最も重要なの。それは、お互いを信頼するのよ。ヴリトラは主であるヴリティアの事を信頼している。だからヴリティアはどんな時もヴリトラを信じてあげる気持ちが必要なの」
そのことを聞いて僕はヴリトラの顔を見上げると、視線を感じたのか顔をこちらに向ける。この龍を自分は操れるのかとても不安になるが、ヴリトラはそんな僕を見ても拒絶などせず真っ直ぐ僕を見続けてくれる。
「うんうん、ヴリトラとは仲良くやって行けそうね。本当は動かしたいけどこの力だと建物が倒壊するから装備の練習に切り替えよう」
ヴリトラの顔を捉えつつ心に直接話を掛けるように,,戻れ,,と意思を伝えると魔法陣が現れてゆっくりと姿を消して行った。
「次は装備ね、これはとっても簡単よ。ただ自分の龍の特徴をイメージすれば出来るよ」
ヴリトラの特徴……漆黒の鋼の鱗に鋭いツノと逞しい尻尾。その事をイメージして詠唱をした。
「龍の英雄よ、一騎当千の力を僕に宿せ!」
詠唱を終えると魔法陣が僕を包み込む。一瞬の時間で僕は装備を得た。全身を黒い鱗で包まれて、翼は左右黒色になり両手には二本のツノの形をした剣が装備されていた。さらにこの姿になった途端ありとあらゆる場所から龍力が湧き出てくるような感じがする。
「これまた凄い……ね力の加減が付かなそうで私は心配だよ。でも召喚と装備は簡単にできて先ずは安心ね。後は、戦闘技術だけど今の私だと圧倒されそうな気がするわ」
「え?だって僕は剣とか握った事も無ければ殴ったり蹴ったこともした事ないよ」
「なら剣を私に向けてごらん」
サジェスに剣を向けるなんてかなりの抵抗があったが、ゆっくりと剣を上げて胸の部分に向けると自然と、どのように扱えばいいのか理解が出来た。
「ね?装備中は、龍が戦い方を教えてくれるの。後は、その力を自分がどう生かすかが重要なの。まぁそこは練習の積み重ねよ今日は、ひとまずここで終わりにしたいけど時間が酷く余ってるなぁ……まぁ、いいか教室に戻ろう」
「あ、うんそうだね。またよろしく」
「こちらこそよろしくね〜」
装備を解除してサジェスの手を握ると、困惑したような声を上げて頬が赤くなっていた。
「だ、大丈夫? もしかして熱でもある?」
フリーの手で真っ赤な顔をしているサジェスの額に手を当てる。確かに少し熱いが風邪を引いてるとは見えない。
「あのっ、ヴリティア。私今まで城にいて男の人と触れた事があんまり無くて、そのは、恥ずかしくて……だから額の手離してくれる?」
その声も先ほどよりかは高く綺麗な容姿に可愛い声が混じり流石に僕も心がドキッとした
「ご、ごめん!教室にい、行こっか」
「う、うん」
サジェスに触れると極度に恥ずかしがりとても可愛いくなると知りそこを、少し意識をするようになってしまった。しかしそう考えるとロネスタはよくあれ程まで抱き付いたり出来るかが疑問に思った。