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禁忌のホムンクルス  作者: 錯乱坊
1/1

「クルセス王が御乱心めされた!」



「……あの聡明なクルセス王が……病とは恐ろしいものだ」



今、クルアーン帝国の宮殿内では一人の冶金術師によって混乱が訪れている。


重臣達は不気味な冶金術師を追い出そうとしたのだが、一人、病のクルセス王だけがその話に耳を傾けた。



その冶金術師の名はエリクシール。


西の国から流れてきた者のようであるが、詳しい事は分かっていない。


その姿はまるで雪の結晶のように美しい。


しかしその提案は神に唾を吐くようなものだったのだ。


エリクシールは花弁のような口を開く。


「陛下……畏れながら貴方様の命は持って半年。しかし私なら陛下の命を救えます」



生命力溢れたエリクシールとは対照的に、頬はこけ落ち、目は窪み、痩せ衰えたクルセス王。


その姿はこのクルアーン帝国を開いた不敗の王と呼ばれた姿からはかけ離れていた。


クルセス王は内政にも長けており、民は飢える事なく暫しの安寧を謳歌していたのである。


そのクルセス王が重い口を開く。


「我はまだ死ねぬ……この列強犇(ひし)めく中、我がいなくなれば、この国に残される指導者は、まだ幼い太子アシュヴィンのみ。死ぬ訳には……」




「では……ホムンクルス・クローンの研究を認めてくださいますか?」


「資金は惜しまぬ。但し! 期限は半年。間に合わぬ場合はお主の命は無いと思え!」



エリクシールは薄気味悪い笑顔を浮かべ下がっていった。


そのやり取りを聞き、紛糾したのは重臣達である。


クルセス王の存在は無くてはならない。


このまま王が崩御した場合、列国に呑み込まれる可能性が無いとは言えない。


いや。むしろ高い可能性で起こりうるだろう。


それだけクルセス王の存在は大きい。



それを……あのエリクシールと呼ばれる冶金術師は王のクローンを作り、病である心臓をクローンの心臓と取り換えようと言い出したのだ。



では王のクローンはどうなる?


心臓を抜かれるのだから死を迎えるだろう。


それは神に赦される所業なのであろうか?


重臣達はえも云われぬ不安を胸に秘める事となる。


*****


場所は替わり王宮魔導書庫


「殿下! アシュヴィン殿下!」


「ああ……マルス師団長。見廻りご苦労様です」



本に埋まれた白髪の優男。


彼がクルセス王の一粒種である太子アシュヴィンである。


「いやいや。暢気なものですな。私はアシュヴィン殿下を探しに来たのですよ」


「そうでしたか? ではもう少しだけ時間をください。もうすぐ読み終わりますから」


アシュヴィンは分厚い本に顔を近づける。


その姿を見てマルス師団長は本の題名を覗きこんだ。


「錬金術ですか? 殿下は本よりももっと体を動かした方がよい。剣の稽古なら付き合いますぞ!」


マルスは自分の胸をドンッと叩く。


逞しい胸を叩く姿はまるでゴリラのようである。


その姿が余程可笑しかったらしくアシュヴィンはプッと息を吹き出した。


「剣の稽古はまたにしましょう。 ところでどうしました?」


「そうでした! エリクシールと言う冶金術師が何やら気味の悪い話をしていったと王宮内はその話で持ちきりです」


「気味の悪い?」


アシュヴィンは本を閉じマルスの話に耳を傾けた。


「ええ。ホムンクルスという何やら王と同じ人間を作り、臓腑を移して王の病を治すとか」



「それは本当ですか?」

アシュヴィンは興味深そうにマルスに顔を近づけた。


「見に行きたいですねぇ」


「殿下は薄気味悪くないのですか?」


「うん。気味悪くないと言えば気味悪いですよね。あの恐い父上が二人になるのでしょうし」


アシュヴィンはクスクスと口を抑えた。


*****


接見から3ヶ月が経ち、王宮内でホムンクルスの話が上がらなくなった頃、突然エリクシールが王宮に現れたのだ。


横にはローブを深く被った人間を伴っていた。


「クルセクス王の接見を願います」


「用件は?」


「ホムンクルスの件ですわよ」



エリクシールは悪戯っ子のように笑う。


王との接見は即座に許された。


それだけクルセス王に残された時間は少なかったのである。

王の間にはクルセス王だけでなく、両脇には重臣達が居並んだ。


当初は神に唾を吐くような所業と呼ばれていたエリクシールだが、今、王宮内の興味はホムンクルス・クローンが出来たかどうかなのである。


その列席者の中には太子アシュヴィンの姿もあった。



王の間の扉が開くと衆目がエリクシールに注がれる。


重臣達がザワザワと口を開く。


「「ホムンクルス・クローンは出来たのか?出来なかったのか?」」


「……静かにせよ。我が聞く。エリクシールよ……出来たのか?」


3ヶ月過ぎ、更に痩せこけたクルセス王は細々とした声を出した。


「陛下……勿論です。これへ」


エリクシールが連れてきた者は、その場でローブを脱いだ。



「「おお!まさか!」」


姿を見て場は騒然とする。


まさにクルセス王の生き写しであったのだ。


「エリクシール……見事だ。褒美は望むがままである。さて我を治せるか否か?」


「勿論です。なんなら今からでも」



エリクシールに促され王は手術の決意をする。


その時、マルスは手を挙げた。


「待たれい! 手術は良いが、私も手術室に入れてもらおう!」


「マルス師団長! 無礼であろう!」


重臣達が口を挟むがマルスは引かない


「では聞こう! これだけ瓜二つなホムンクルスだ。手術と託つけ王を殺しホムンクルスを王に仕立て上げられたら如何する!?」


その声を聞きエリクシールはクスクスと笑う。


「クルセス王は忠臣がおありですね。手術の同室、私は構いませんわよ」



「あのー……出来れば私も」


アシュヴィンは恐る恐る手を挙げる。


エリクシールはにこやかに快諾した。


「でも、観察者は二人迄にしてくださいね。あまり人が多いと傷口の治りが悪くなりますから」



着々と手術の準備が進んでいく。


アシュヴィンとマルスは白衣とマスクを身に付ける。


「アシュヴィン殿下。マルス師団長。手術中は出来るだけお静かに。気分が悪くなった場合は部屋の外へお願い致します」



エリクシールの言葉にマルスは不機嫌そうに反論した。


「静かにとは失礼であろう。殿下はクルセス王のご子息なのだぞ」


「分かっておりますが、クルセス王を治す為です」


エリクシールは一歩も引かない。


「……ま……まあまぁ。僕は大丈夫だから」


アシュヴィンは二人を宥める。



手術は凄まじいものであった。


ホムンクルスの血液をそのままクルセス王に輸血しつつ、臓腑を移し替えていくのである。


戦場で血を見てきたマルスですら気分の悪くなるものであったのだが、手術は成功した。


「終わりましたわよ」



「ぐ……ぐう」


マルスは口を抑えている。


しかしアシュヴィンは終始興味深そうに覗き込んでいたのである。


その視線を見たエリクシールはアシュヴィンに静かに微笑んだ。


「殿下は怖くありませんでしたか?」


「うん。恐いよりも興味が上回ったよ」


*****


そして手術を終え数日が経つとクルセス王は徐々に元気を取り戻していく。


その姿を見て王宮内ではエリクシールを神の手と讃えるようになり、重臣をはじめ、果ては国民迄もが自分のホムンクルスを作るようになっていく。


それは病気で傷付いた臓腑のスペアであったり、戦いで失った手足のスペアとなる。



当初、ホムンクルス・クローンは牢に閉じ込めていたのだが、食事を与えるだけでは、国の財政は圧迫していく事となり、クルアーン帝国では、ホムンクルス・クローンを奴隷として扱うようになっていくのである。



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