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ぼっちな俺は能力者

作者: 華重 莉内

 俺は小さい頃から変わった名前のせいで仲間外れにされていた。両親が何故こんな名前を付けたのか今はもう知る術は無いけれど、両親が遺してくれた名前を俺は嫌いになれなかった。

 俺に友達が出来ないのは名前のせいだけじゃないと最近思うようになった。一人ぼっちは寂しい時もあるけど嫌いじゃなかったし、周りに合わせた愛想笑いなんてとても出来なかった。


 俺はいつものように学校から帰ってゲームをしていた。何の変哲もないRPGだ。

 レベル上げを作業のように繰り返すが、俺はあまり苦にならないタイプだ。淡々とこなしていく。

 そして画面に集中していると、俺の視界が突然ブレた。ほんの一瞬の事だったけど、何か違和感を感じたのだ。

 それなりにこのゲームにはハマっていたとは思うけど、生活に支障が出る程ではなかったし、急に睡魔が襲って来た訳でもない。

 俺は目が疲れたのだと思い軽く目頭を揉みほぐし、作業に戻るべく画面に集中する。

 前触れもなく、またもや視界がブレた。

 目を開けているはずなのに、まるでゆっくりと瞬きをしたかのように視界が一瞬だけ闇に閉ざされる。

 今度は気のせいなんかじゃない。

 少し怖くなった俺は、ゲームを止めて電源を落とし、何も起こらないようにと願いながら部屋の隅に視線をやった。

 しかし俺の願いは空しく砕かれ、視界は黒く染まった。静寂に包まれた部屋の中で、やたらと耳に優しい重低音と共に。

 何度か黒視界と重低音に繰り返し襲われた結果、俺の目と耳は確実に異常だと分かった。俺は不安に震えながらも明日は眼科と耳鼻科に行くと誓った。


 翌日、俺は学校を休み病院へ向かったのだが、診断結果は芳しくなかった。いや、良かったと言うべきなのか……判断が難しいが、医者の見解では目と耳どちらも異常無しだった。


 昼過ぎには家に帰って来られたので俺は部屋で考える。医者は異常無しと言ったけど、何かを見つめる度に黒視界と重低音が俺を襲って来るのだ。明らかに異常である。

 ならば、この現象は何なのか?

 不安に駆られながらインターネットで検索してみても、全く手がかりになりそうな物は無い。

 激しい焦燥感が俺を襲い、頭の隅に追いやっていた言葉を拾う。


「――未知の病」


 思わずそう呟いた俺はその言葉に妙に納得してしまった。デカい病院で精密検査を受けるという手段もあったのだが、もしも未知の病と判断されたら俺は精密検査という名の実験をされるのではないかと怖くなった。

 問題の先送りでしかない事は十分に理解していたけれど、俺は様子見という選択肢を選んだ。


 一週間引きこもって情報を集めながら様子見をしていたのだが、俺は自分に起こる事の原因に気付いた。俺の選択肢は間違っていなかったのだ。俺を襲う不思議な現象は病気では無かったのだから。


 ――時間移動(タイムリープ)


 それが不思議な現象の原因……いや、俺が手に入れた能力だった。一秒にも満たない時間移動だけれど、俺の心は溢れる程の高揚感に満たされていた。


 それから俺は普通の生活を続けながら、周囲にはバレないように自分の能力を把握する事に没頭した。

 先ずは自分の意思で発動出来るようにならなければならないだろう。自分の意思に関係なく発動するものなど能力とは呼べないが、これはあっさりと解決した。

 俺が自分の能力だと認識してから暴発する事がほとんど無くなったからだ。逆に意識的に発動させるのが難しくなった。何度も繰り返し試みているうちに、集中して強く願うと発動させる事が出来るようになった。


 次にどれくらい発動出来るのか回数を調べた。何か対価的なものを支払っているのかも調べねばなるまい。だが、俺はここでつまずいた。というより、よく分からなかった。いくら能力を使っても何かが減った感覚は無いし、いくらでも使えるような感覚すらある。集中するのに疲れるといえば疲れるが、それ位なものなのだ。


 俺は一旦思考を変えて、自分の能力に名前を付ける事にした。タイムリープという単語はメジャーだが、実際に口にした奴を見たことがない。何かの拍子に俺が口にしてしまったらとても恥ずかしいし、もしもこの能力が誰かにバレたらどこかの研究施設で人体実験されそうで怖い。絶対にバレる訳にはいかないのだ。俺はそう自己完結し、自分の能力にフリーセンと名付けた。


 俺はフリーセンが成長するのかどうか知りたかった。一秒未満の時間移動を発動するのに最短でも五秒位掛かるのだ。使えないにも程がある。むしろ使いどころが全く思い浮かばない。

 架空の物語ではこういった能力は成長するのが基本だ。フリーセンも成長するに違いない。多分。きっと……。


 俺は成長を信じて、周りに人がいない時はひたすらにフリーセンを使った。少しでも早く発動出来るように、少しでも遠くに跳べるように。そして、俺は中学卒業までの半年で遂に一秒の壁を超えた。発動も移動時間もだ。


 ここまでで分かった事がいくつかある。

 フリーセンは過去にしか跳べなかった。これは最初の頃から薄々感付いてはいた事だ。過去に行きたいと願った訳ではないのに過去に跳んだからだ。一秒の壁を超えてからも何度か試したが、未来に跳ぶ事は無かった。そういう能力なのだと今は諦めている。

 フリーセンは発動した瞬間の自分をそのまま跳ばすのではなく、時間を巻き戻していた。爪を切った瞬間に跳んだら爪は切れていなかったのだ。これは結構重要なポイントではないだろうか。

 あと、爪の実験で分かった事がもう一つ。当然と言えば当然の結果なのかもしれないけど、歴史を書き換えられるという事だ。爪が切れてない時間に跳んでも、一秒後に突然爪が切れるなんて事にはならなかったからだ。

 そして、フリーセンは成長する。時間で成長するのか、反復や熟練度といった努力で成長するのかは未だ不明だけれど、俺は後者だと信じて鍛えていきたい。


 課題や目標みたいなものもぼんやりとだが見えてきた。

 一秒位の時間移動では検証出来ないけど、跳んだ地点から更に連続で跳べるのか、跳んだ地点から元地点に帰れるか、というものだ。前者は出来そうな気もするけど、後者は無理かもしれない。

 俺はフリーセンで何をするべきなのか、何が出来るのか、世のため人のためとは言わないけど、自分や親しい人達が少し幸せになれるような使い方が見つけられればいいなと思う。

 あとは学生の宿命である勉強だ。中学三年の最後の半年をフリーセンの開発に注ぎ込んでしまったけど、平均よりやや低めの学力で入れる普通高校になんとか合格する事が出来た。フリーセンを有効に使う為にも、今の俺の頭では不十分だと思う。勉強もしっかりやって、知識や知恵、発想力や頭の回転速度なども鍛えていきたい。


 高校に進学した俺は予定通りにフリーセンの特訓と勉強に励んでいた。勉強しながら跳ぶ事によって、とても効率良く勉強する事が出来たと思う。フリーセンも、一秒の壁を超えた頃から伸びが良くなったような気はしていたのだが、どうやら気のせいではなかったみたいだ。一年の夏休みが終わる頃には五秒も跳べるようになった。


 そして夏休みの最終日、俺は実験を開始した。連続フリーセンと元の地点に帰れるかの実験だ。

 俺は実験するにあたり、フリーセンを始める前に用語の定義を定めた。

 俺自身が経験した最も未来の地点を最先端。

 最初のフリーセンで到着した地点を着地点。

 連続フリーセンで二回以上成功した場合には、それぞれ着地点にアラビア数字2以降を付与していく。

 着地点から最先端方向に帰れた場合、到着した地点を回帰点。

 連続フリーセンが成功し、更に最先端方向に帰れた場合には、それぞれ回帰点にアラビア数字2以降を付与していく。

 過去への跳躍をフリーセン。

 回帰点への跳躍を逆フリーセン。

 と呼ぶ事にした。


 これまでは意図的に連続フリーセンは避けてきた訳だけれど、遂に俺に出来る事と出来ない事が確認出来てしまうので少し緊張する。

 俺は机の上にアナログ時計を置いて一分以上待ち、秒針が真上に来た瞬間にフリーセンで跳んだ。秒針が五十五秒を指しているのを確認し、更に跳躍。

 結果的に、一度の実験で二つの実験が終了してしまった。

 秒針が真上にあったのだ。


 俺の予想は大外れで、連続フリーセンは出来ず、逆フリーセンが可能だった。

 未来には跳べないと思っていたけど、良く考えてみれば最先端までの記憶がある俺にとっては最先端以前の地点は全て過去である。予想外ではあったが当然の結果なのだろう。


 ここで俺に新たな疑問が浮かんだ。着地点で最先端に影響を与えるような行動をした場合、逆フリーセンは可能なのかどうかだ。

 俺は爪切りを用意して実験を開始した。

 爪切りを爪に当てながら、先ほどと同じように秒針が真上に来た瞬間にフリーセン。秒針が五十五秒を指しているのを確認して爪を切る。切った瞬間に再びフリーセン。秒針は五十秒を指していた。更にフリーセン。秒針は五十五秒、爪は切れている。

 これで俺の能力が確定したと思ってもいいだろう。用語の定義の変更とフリーセンについてまとめてみる事にした。

 着地点を分岐点に変更。

 分岐点で最先端に影響を与える行動をする事をエンデルンと呼ぶ。

 最先端からは過去にしか跳べない。

 分岐点から何もせずに跳んだ場合、最先端に戻るが、最先端を越える未来には跳べない。

 エンデルンから跳んだ場合、更に過去方向である分岐点2に跳ぶ。

 分岐点2に跳ぶと始めの分岐点が最先端になる。

 ここまでを確定事項として、これからは連続フリーセンの最大回数とエンデルンは何処までの行動なのかについて調べていこう。


 実験も一段落したので、息抜きと連続フリーセンに役立つ道具がないか探しに出かける事にした。

 家から自転車で二十分も走れば大型のショッピングモールがある。インドア派の俺だが、たまには外に出て一人でショッピングもいいだろう。


 ショッピングモールの中を物色していく。確実に役立ちそうに思える物から、役立つか微妙な物まで、自分なりに考えて買っていった。

 あぶらとり紙、ホチキス、ルービックキューブ、綿棒、霧吹き、マグボトル。

 あまり格好いい道具とは言えないかもしれないけど、これからの事を思うと顔が綻ぶのも仕方ないだろう。


 夕暮れの中、俺は自転車を走らせる。いつもよりペダルが軽く感じるのは、早く帰って買った物で色々試したいからに違いない。世界が優しさに包まれたような、そんな気がしてた。


 しかし、そんな俺を裏切るように現実は残酷だった。浮かれていた俺の頭をハンマーで殴り付けたような、能力を手に入れた俺を嘲笑うような、衝撃的な現実だった。俺の十メートル位前を歩いていた親子が突然車に跳ねられた。

 中央分離帯も無い片側一車線だけど、歩道は広く取られている道路で、その乗用車は縁石を乗り越えて歩道に突っ込んできた。スピードも相当出ていたのだろう、母親は回転しながら吹き飛ばされ、子供は乗用車と共に民家の壁を突き抜けていった。


 あまりの出来事に、しばし硬直してた俺だが、我に返ると直ぐにフリーセンで跳んだ。

 跳んでからエンデルンの準備をしていない事に気付いた。腕時計を見ながら最先端を延ばさないようにフリーセンを繰り返しながら考える。連続フリーセンで何回跳べば間に合うのかすら分からないのに、さっき買った物を跳ぶ度に五秒以内に使えるようにするのは難しい。五秒以内に出来たとしても跳ぶ時間はほとんど無いだろう。

 実験なんてしてる場合じゃないと焦燥感に駆られながらも、俺は姿勢の変化だけでエンデルンが可能か試す。

 しかし、残念な結果に終わった。いくら姿勢を変えても連続フリーセンにはならなかった。


 何度同じ五秒を繰り返したのか俺自身でも分からないけど、やっと思い付いた。髪の毛だ。爪で出来たのだから髪の毛を抜けばエンデルンは可能なはずだ。俺は自分の馬鹿さ加減に自分で呆れながらも連続フリーセンで跳んだ。

 しかし、更に予想外の事態に襲われた。俺自身の身体に異変が起きたのだ。

 五回目のフリーセンから頭痛がし始めた。

 十回目のフリーセンからは激しい頭痛と目眩でまともに数を数えられなくなった。

 それでも俺は止めなかった。

 コマ送りのように戻る凄惨な事故現場を見ながら、俺はただ親子を助けたいと思った。助けられると思った。

 親子から十分に遠ざかったところで俺は全速力で自転車を走らせる。連続フリーセンのおかげで頭蓋骨を割られたような激しい痛みに襲われながらも、俺は痛みを堪えながら乗用車が縁石を乗り越える直前に自転車を捨てて親子に手を伸ばした。

 両の腕の中に柔らかい感触を感じ、背後に凄まじい衝突音を聞いたところで俺は意識を失った。


 目が覚めた時には俺は病院のベッドの上だった。意識は戻ったが、全身を襲う酷い虚脱感と頭蓋骨を圧縮されているような頭痛に思わずうめき声を上げた。あの親子は無事だったのかと、意識を失う前の事を思いながら窓の方へ目を向けようとした時、俺の視界に見知らぬ女性の姿が映し出された。テレビでもなかなか見掛けられない程の美しさで、まるで女神様のように慈愛に満ちた微笑みで俺の顔を覗き込んできた。


 本当に良かったと、その女性は目に涙を浮かべて言ったあと、俺の身体を気遣ってくれたのか病室から出て行こうとしたのだが、俺は少し話がしたいとその女性を呼び止めた。あれからどうなったのか知りたかったからだ。

 その女性と話して分かったことだが、俺は一週間も眠ったままだったらしい。検査で異常が見つからなかったのにも拘わらず目覚めなかった俺に対して、周囲の人達は相当に心配していたらしく、本当に良かったと、またもや微笑まれた。

 そして、この女性は俺が助けた母親の方だった。きっとそうだろうな、とは感じていたけど、顔が見えないまま助けた人がまさかこんなに美人だったとは思わなかった。

 子供も無事で、怪我などは無かったものの、事故の後は心配で二日程休ませたそうたが、今は元気に小学校に行っているらしい。一年生の女の子だそうだ。


 それから四日後、若干の身体の怠さと頭痛はするものの、普通の生活に支障が無い位には回復して明日に退院を控えていた俺の病室に、日曜日で学校も休みだからだろう、親子で見舞いに来てくれた。美人の母親は毎日見舞いに来てくれてたけど、女の子とは初めて顔をあわせる。母親に似たのだろう、とても可愛らしい笑顔で挨拶された。癒される。無茶して助けて本当に良かった。

 そんな風に思いながら、上半身を起こして俺も笑顔で挨拶を返すと、女の子が俺の側までトテトテと歩いてきた。

 女の子は、俺の顔をじっと見つめたあと、少し恥ずかしそうに俯いてモジモジしだした。どうしたのか不思議に思い頭を撫でようと手を差し出した途端、女の子は俺の手を取り、そのまま俺の腕を抱え込むように腕にギュッと抱き付いてきた。

 突然の事で少し驚いていると、女の子は俺の腕に抱き付いたまま「お兄ちゃんありがとう」と震える声で言った。


 退院して体調も万全になった俺は、事故の教訓を生かし、連続フリーセンとエンデルンについて詳しく検証していく事にした。

 先ずはエンデルンからだ。事故の時は咄嗟に髪の毛を抜いて対応したが、あまりスマートではない。若ハゲになるのも嫌だ。やはり道具に頼るべきだろう。幸いにも以前買った物は事故で壊れる事もなく俺の手元に戻ってきた。

 結果的に、ルービックキューブは多少ガチャガチャやってもダメだった。霧吹きは自分に向かってかけた時だけエンデルンになった。綿棒で耳掃除と、あぶらとり紙はエンデルンになったりならなかったりとばらつきが酷かった。ホチキスとマグボトルは安定してエンデルンに成功した。

 俺の能力そのものが不思議な現象なのだが、この結果は予想以上に不思議な結果となった。正直腑に落ちないが、俺に解明出来る訳もなく、そういうものだと無理矢理納得する事にした。

 とりあえず、メインの道具は最速で発動出来るホチキスにして、一応あぶらとり紙と綿棒も持ち歩く事にした。マグボトルはバッグが重くなるのと、取り出すのに時間が掛かるので持ち歩くのは諦めた。


 何が起きても直ぐに跳べるように、鍛練と準備に余念がなかった俺だが、特に何かが起こる事もなく日々を過ごしていた。

 高校二年のクリスマスには浮かれている人達を横目に三十秒の壁を超え、連続フリーセンは三十回まではノーダメージで跳べるようになった。

 高校三年の正月には一人で合格祈願へ行ったその夜に一分の大台に乗った。

 連続フリーセンは六十回を数えたが、だんだんと数えるのが面倒になってきた。連続フリーセンの回数は一回で跳べる秒数に比例すると思って間違いないだろう。

 他にも連続フリーセンで確定した事がある。

 規定の回数を超えると酷い頭痛に襲われる。

 その回数は一度にではなく、一日での合計数であり、つまり一日で過去を書き換えられる回数と等しい。

 一日の概念は深夜0時にリセットされる。


 俺は一流と呼ばれる大学に合格する事が出来た。高尚な目標がある訳でもなかったけど、在学中に一回のフリーセンで二百九十四秒を超えたかった。実際には連続フリーセンでのタイムラグもあるし、二百九十四回も連続で出来るかは俺の精神的な面で微妙なところだけど、理屈的にはこれで二十四時間跳べる事になる。つまり、同じ日を何度も繰り返すタイムループを起こせる可能性がある。


 大学を卒業してから五年経った。

 大学時代も俺はフリーセンの特訓と勉強を欠かさなかった。おかげで大学四年の秋に二百九十四秒の壁を超え、クリスマスには遂に連続フリーセンによる二十四時間の跳躍に成功した。

 早速実験だと気分が高揚してた俺に待っていたのは、クリスマスを何度も繰り返すという苦行だったが、結果、タイムループは可能だった。

 そして俺は大学卒業後、一流企業と呼ばれる会社に就職する事が出来た。

 正直、仕事なんてしなくても金を稼ぐ方法なんていくらでもあったし、成人した頃は実際にフリーセンを使って莫大な金額を稼いでいた。

 でもある俺はそんな莫大な金額を手にしてから、ふと我に返った時、酷く不安になった。

 突然手に入れた能力が突然無くなるなんて良くある事じゃないかと。己の欲望の為だけに能力を使い続けていたら何か良くない事が起こるのではないかと。

 だから俺はフリーセンの特訓は続けながらも、真面目に、普通の会社員として暮らしていた。


 そんなある日の休日、普段はあまり見る事はない俺だが、その日は何故かボンヤリとテレビを眺めていた。時間を巻き戻す副作用なのか、俺の精神的な年齢が実年齢よりも先に進んでいるからなのかは分からないが、画面の向こう側の人達は何が面白いのか不思議な位に笑っている。

 バラエティー番組なのだろう。司会の二人に質問されたりツッコミされたりしてる有名人らしき人が十人いるけれど、俺が知っている人は三人しかいない。

 そんな中、司会が一人の少女に、尊敬する人は誰かと質問した。俺は名前も知らないけれど、恐ろしく整った顔立ちと意思の強そうな眼差しを向けるその少女に惹きつけられた。


「私の敬愛する方は物心ついた頃からお一人だけです。歴史的な偉人や有名な方ではないので皆さんご存知ないと思いますが……。

 ――さんと仰る方です」


 画面の向こう側のその少女は、満面の笑みで俺の名前を呼んだのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  ある日突然能力がなくなっても仕方がないと思える、救われる終わり方。 [気になる点]  能力が主人公に影響を与えたのは親子の事故だけであるため、その後の特訓描画がどのような意味を持つのか分…
[一言] いい作品でした!!
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