表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

真桜人材派遣会社のルール違反

志郎がチョンボをしてそれを小較がフォローする話

 正義の味方、一刀が片膝を着く。

「ここまでの様だな!」

 悪の組織の改造人間、阿修羅が剣を突き付ける。

「くそう! こんな処で負けてたまるか!」

 一刀が立ち上がろうとした時、電子音が鳴り響く。

「阿修羅さん、時間ですよ!」

 派遣戦闘員の一人、志郎が声をかけると阿修羅が幹部に頭を下げる。

「すいません、次の現場がありますのでこれで失礼します」

 数人の戦闘員と共に消えていく阿修羅。

 幹部は、苛立ちながら怒鳴る。

「所詮は、派遣か、いざって時に役に立たない! まあ良い、相手は、虫の息、我々だけで十分だ!」

「力が足りないから、派遣に頼ってるんだろうが」

 幹部が振り返ると一刀の仲間、次槍が幹部の腹に槍の一撃を決めた。

「ここからが本番だ!」

 一刀の逆襲にあっさり撤退する悪の組織であった。



「それで、昨日は、ずいぶんと急いでたな」

 ファミレスで志郎に事情を尋ねる一刀。

 志郎も疲れた顔で答える。

「まあな、最近の不景気だろ。契約時間が短いから大量の仕事をいれてるんだ。もうすぐ決算だからな、いつも以上に仕事を押し込んでるんだよ」

 一刀の仲間の一人、美弓が驚く。

「悪の組織にもそんなものがあるんですか?」

 志郎が頷く。

「あるある。悪の組織って言っても経済活動してるからな、スポンサー等がいるし、自分の処の経済状況を明確に示しておかないと駄目なんだよ。特にうちは、派遣業がメインだから、客の方にも見られるんで、数値の積み上げに必死になってる。しばらくは、事務所に近づかない方が良いぜ。ぷっつんした小較さんの暴走に巻き込まれるぞ」

 顔をひきつらせる一刀と美弓。

「それでか、この頃悪の組織の動きが活発なのは?」

 次槍の言葉に志郎がテーブルに突っ伏しながら言う。

「弱小の悪の組織は、物凄く必死に残った予算で成果を上げようとがんばってる。気をつけろよ」

「悪の組織に派遣される戦闘員に心配されるほど、情けない実力じゃないぜ」

 一刀の言葉に志郎が手を振る。

「まともにやれば強いのくらい知ってる。お前等が居るって解った時点でこっちのエース級、阿修羅さんが組まれるんだからな。問題は、悪の組織側に見境が無くなるって事だ」

「見境が無くなる? 元々、ルール無用の奴らだろうが?」

 次槍の言葉に志郎が苦笑する。

「本気でルール無しの世界なんてあるわけないだろ。悪の世界にもルールがある。一番のルールは、余計な被害を出さない。これは、色々事情があるんだが、かなりの確率で護られる。しかし、この時期は、それのかなり優先度が低くなるんだよ」

「それは、嫌ですね」

 美弓が真剣な顔をする中、一刀が言う。

「任せておけ、奴らが何かをする前に俺がきっちり退治してやるからな!」

「精々頑張ってくれ。俺は、この後、また仕事が入ってるから」

 席を立つ志郎。

「お仕事がんばってください」

 美弓の言葉に頬をかく志郎。

「どうなされたんでしょ?」

 美弓が不思議そうな顔をすると次槍が呆れた顔で言う。

「美弓、あいつの仕事は、悪の組織への戦闘員としての派遣の仕事だぞ? それを頑張ってって言う正義の味方が居るか?」

 手を叩く美弓。

「そうでした。でも、志郎さん達は、良い人です」

 苦々しい顔をする一刀。

「解ってる。でもな、奴らは、悪の組織の協力者なんだよ」

 空気が重くなる。



 その夜、一刀達は、応援を頼まれてやってきた戦場で志郎と再会する。

 お互いに見ないふりを決めて、戦闘を開始し、一刀の一撃で容赦なく、ふっとばされる志郎。

 そんな状況で、悪の組織、『紫の鷹』の幹部が苛立ち、爆破のボタンを取り出す。

「こうなれば、ここで爆破させてやる!」

 その言葉に、志郎が顔を上げて叫ぶ。

「一刀、止めろ! 奴らの爆弾がここで爆発したら一般市民に大きな被害出る!」

 その一言に一刀があわてる。

「次槍、道を作れ!」

 次槍が、負傷を恐れず、敵陣に切り込み、道を作る。

「援護します!」

 美弓の弓が特攻をかける一刀を阻もうとした敵を牽制する。

 そして、一刀の剣が敵幹部の手から爆破スイッチを弾き飛ばす。

「貴様、これは、契約違反だぞ!」

 志郎を睨む『紫の鷹』の幹部に志郎を始めとする真桜人材派遣会社のメンバーが暗い顔をする。

「撤退だ!」

 逃げていく『紫の鷹』。



 翌日のファミレス。

「昨日は、助かりました。志郎さんが声をかけてくれなかったら大事故になるところでした」

 美弓のお礼に志郎がテーブルに突っ伏しながら答える。

「気にするな。俺たちだって想定外の被害なんて望んでいない」

「その割には、ずいぶんと落ち込んでるな」

 一刀の言葉に志郎が一枚の紙を見せる。

 次槍が読み上げる

「始末書?」

 志郎が頷く。

「どんな事情があろうと、派遣先の機密を敵に漏らしたんだ。減俸の上、しばらく謹慎を食らってるよ」

「すいません」

 美弓が申し訳なさそうにいうが、志郎が届いたアイスコーヒーを飲みながら言う。

「さっきも言ったが、気にするな。ただ単に俺の実力不足が原因なんだから」

「どういう意味だ? あの状況では、周りに被害を出さない様にするには、他に方法は、無かっただろう?」

 次槍の質問に志郎が舌打ちする。

「あれが、阿修羅さんだったら、お前達を蹴散らして、ボタンを押す必要性を無くさせてたよ。うちは、そうやって生温い理想を力で押し通してきたんだ」

「聞いてて気持ちいい話じゃないな」

 一刀の愚痴に志郎が言う。

「それで今回の件が正式に訴えられて、うちとしてもかなり困った事になってる」

 その顔には、後悔があからさまに浮かんでいた。

「救った事を後悔しているのか?」

 次槍の言葉に志郎が失笑する。

「馬鹿言うな、無関係の連中に被害を出すことを見逃せるかよ。ただ、自分の非力さが許せないだけだ」

「そう思ったら強くなるのね」

 真桜人材派遣会社の社長のフィアンセ、小較が来ていた。

「小較さん、おひさしぶりです」

 頭を下げる美弓。

「ひさしぶりね。今回は、うちの社員の力不足で力を借りたわ。感謝しています」

「俺たちだって余計な被害は、望んでいませんからかまいません」

 一刀が答える中、小較が志郎を立たせる。

「『紫の鷹』に謝りに行くわよ。同行するように」

「解りました」

 志郎が素直に従う。

「ちょっと待ってくれ。さっき感謝していると言ったよな? だったら、俺をその場に連れてってくれないか?」

 小較が少し考えて言う。

「別に良いわよ」

 こうして、一刀と志郎は、小較に連れられて『紫の鷹』との話し合いに向かう。



「何で学校の中にある喫茶店なんだ?」

 志郎と同じ戦闘員のマスクをさせられた一刀が聞くと、志郎が答える。

「八刃学園は、特殊な場所なんだ。ここで騒動を起こすのは、一番のタブーだから、争いを起こさない話し合いの時は、使われるんだ」

 スーツ姿の『紫の鷹』の幹部が現れる。

「貴女みたいな小娘が真桜人材派遣会社の責任者?」

 小較が笑顔で答える。

「はい。社長から今回の件を任されている、小較と言います」

 馬鹿にした顔をする『紫の鷹』の幹部。

「所詮は、弱小派遣会社か」

 小較の眉間に血管が浮かぶのを志郎と一刀は、見た。

「まずは、今回の一件を謝罪させてもらいます。申し訳ありませんでした」

 頭を下げる小較、合わせて頭を下げる志郎が、目で一刀にも頭を下げる様に指示する。

「何で俺が」

 小声で文句を言う一刀に小較が殺気を向ける。

「下げる頭があるうちに下げておきなさい」

 冷や汗を垂れ流し、頭を下げる一刀。

「本当に部下の教育がなっていない。あの場面で敵に貴重な情報を流すなんて、考えられない!」

 『紫の鷹』の幹部がひたすら文句を言い続ける。

 小較は、申し訳なさそうにそれを聞く。

 そして、話が本題に入る。

「それで、賠償の方は、どうなるのかな?」

 卑しい顔を見せる『紫の鷹』の幹部に小較が一つの封筒を見せる。

「その話の前にこの資料を見てください」

「何かね?」

 封筒を受け取りながら『紫の鷹』の幹部が聞くと小較が答える。

「貴方が爆弾を使用しようとした周囲の情報です。中々面白い情報がありますよ」

 資料を見ていた『紫の鷹』の幹部の顔がどんどんひきつっていく。

「これは、本当なのかね?」

 小較が頬笑み答える。

「いくらでも裏をお取り下さい。それで今回の事ですが、正義の味方の増員による作戦の失敗それでいいですよね?」

「それは……」

 戸惑う『紫の鷹』の幹部に小較が言う。

「もしも、今回の一件が公になればお互いに損失が大きいと思うのですがね?」

「……解った」

 力なく頷く『紫の鷹』の幹部であった。



 『紫の鷹』の幹部が帰った後、デザートを食べる小較に一刀が尋ねる。

「どんな手を使って脅したんですか?」

 小較が苦笑する。

「ルールには、それなりの意味があるの。あの場所には、ちょっと大きな組織の幹部の家族が住んでいたの。もしもあの時、爆弾が爆発していたら『紫の鷹』は、そことトラブルになっていたのよ」

「色々と面倒なんだな?」

 一刀の言葉に志郎が肩をすくめる。

「まあな」

 その後、『紫の鷹』は、決算間際の無理な作戦の為に壊滅することになるのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ