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悲しみと共にある真桜人材派遣会社

改造されて寿命を縮めた少女の話

 その出会いは、偶然だった。

 共同生活をしている美弓に頼まれて、一刀が買い物してきた帰り、偶々ぶつかった色白で赤い目をした少女。

「あー、あたしのアイスが!」

 大泣きを始める少女に、困った一刀が買い物のお釣りからアイスを買って渡した。

「ありがとう」

 それだけの関係だった。

 だが再会には、そんな時間がかからなかった。



「またお前か!」

 一刀が切りかかりながら悪の組織の派遣戦闘員、志郎を怒鳴る。

「仕方ないだろうが! こっちも仕事なんだよ!」

 睨みある二人。

「いつまでも雑魚に関わってな!」

 次槍が悪夢をたれながす獏の改造人間を攻撃する。

「解ってる!」

 一気に志郎を押し返し、獏の改造人間に接近しようとした時、小柄な戦闘員が立ちふさがる。

「こっから先は、行かせないんだから!」

 その小柄の戦闘員の顔を一刀は、覚えて居た、ぶつかってアイスを零したあの少女だ。

 即座に振り返り一刀が志郎の胸倉を掴み言う。

「まさか、あれもお前の同僚か?」

 珍しく視線を逸らして志郎が言う。

「そうだ」

 顔を近づけ一刀がドスを利かせた声で言う。

「ふざけるのも大概にしろよ。どうしてあんな子供にあんな事をさせているんだ!」

「俺だって反対した上、説得しようとした! だが、本人が望んだんだよ!」

 志郎が怒鳴り返す。

「それを止めるのが周りの責任だろうが!」

「部外者のお前に文句を言われる覚えは、ない!」

 口喧嘩を始める一刀と志郎。

「もー、無視しないでよ!」

 少女がクレームをあげる中、次槍と美弓の手で獏の改造人間は、倒されるのであった。



 翌日、志郎が少女を連れて一刀の所に来た。

「アイスをご馳走になったみたいだから、返礼だとよ」

 差し出されたハウスサイズのアイスを美弓が受け取る。

「ありがとうございます」

 美弓がアイスを冷蔵庫にしまいに行ったのを確認してから一刀が言う。

「結局、説明をしてもらってないぞ!」

 次槍が舌打ちをしながら言う。

「一刀、相手は、犯罪組織だ、まともな倫理観を求めるのが間違いだ! そのこは、こっちに渡してもらう!」

 志郎は、少女の方を向いて言う。

「お前は、どうしたいんだ?」

 少女が拳を握り締めて言う。

オワリは、少しでも真桜で働きたい!」

 少女、終の言葉に志郎が言う。

「そういう事だ。諦めろ」

「馬鹿な事を言うな、こんなやつらと一緒に居たら、ろくな大人になれないぞ! こっちの来るんだ!」

 一刀の言葉に終が舌をだして言う。

「嫌! どうせ、終は、あと一ヶ月もしないうちに死ぬんだから、良いの!」

 一刀が固まり次槍が言う。

「どういうことだ?」

 志郎が嫌そうに説明をする。

「終を助けた時には、手遅れだった。脳が完全に消耗させられていて、後一ヶ月ももたないんだよ」

 一刀が顔を引き攣らせて言う。

「冗談だろ?」

 志郎が一刀に掴みかかり言う。

「こんな事を冗談で、本人の前で言えると思ってるのか!」

 次槍が眉を顰めながら言う。

「本当なんだな?」

 志郎が頭をかきながら言う。

「間違いない。死人だって生き返らせられる八刃でも駄目だったんだ」

 困惑する一刀と次槍。

 そこに美弓が帰ってくる。

「届けてくれたアイスを食べない?」

「終、食べる!」

 終の言葉に、志郎が言う。

「良いよな?」

 一刀は、頷くしか出来なかった。



 美弓と一緒にアイスを食べる用意をする終を横目で見ながら次槍が言う。

「本当に手は、無いのか?」

 志郎が悔しそうに言う。

「記憶が全部消える覚悟だったら、脳自体の治療が出来るらしいが、本人が拒否しているんだよ」

「無理やりでも何でもやれよ! あの年ならまだ十分に取り返しが利くだろうが!」

 一刀の言葉に志郎が辛そうに言う。

「あいつは、先に死んでいった友達の事を忘れたくないって言っているんだ。あいつの脳みそには、人体実験で先に死んだ子供達の記憶が移植されている。そんな無理がたたって、脳みそが限界になっている。詰まりだ、治療をするって事は、そいつ等が生きた証が無くなるんだよ」

 次槍は、真剣な顔をして言う。

「その組織は、どうなった?」

 志郎が肩をすくめて言う。

「小較さんが一人で潰した。子供を人体実験に使っていた組織だ、誰も文句を言わなかったぜ」

「俺達に出来る事は、無いのか?」

 一刀の言葉に志郎が答える。

「普通に接してやってくれ。それ以外には、何にも出来ない」

 そんな沈んだ雰囲気の中、美弓と終がやってくる。

「志郎、次の日曜日に終、美弓と一緒に買い物に行って良いか?」

「小遣いは、出ないぞ」

 志郎の言葉に終が胸を張って答える。

「大丈夫だもん。この日の為にお金を貯めておいたんだから」

 Vサインをだす終を見ながら志郎は、美弓の顔を窺う。

「終ちゃんを借りて良い?」

 美弓の言葉に志郎が頷く。

「宜しく頼む」

「やったー!」

 喜ぶ終。



 日曜日。

「お前達まで尾行に付き合わなくても良いんだぞ」

 志郎の言葉に一刀が頭をかきむしりながら言う。

「仕方ないだろうが、ほっておけないんだからよ」

「だったら、一緒に買い物した方が良かったんじゃないのか?」

 次槍の言葉に志郎と一刀が小さく溜息を吐く。

「俺達には、あの店に入る度胸は、無い」

 志郎は、そう言って、ランジェリーショップを指差すのであった。



「可愛い!」

 ランジェリーショップではしゃぐ終。

 それを見守る美弓。

「これなんかどうかな?」

 黒い刺繍が入ったブラジャーを見せてくる終に美弓が指を振って言う。

「駄目駄目、いきなり大人の階段を駆け上がったら、大怪我するわよ。ここは、これからよ」

 そういって、見せたのは、スポーツブラだった。

「何か、普通の服みたい!」

 不満そうに言う終に美弓が語る。

「下着の道は、一日に成らないの。最初は、スポーツブラから、それから無地のブラで、大人のブラジャーを着けるには、越えないといけない山がいくつもあるのよ」

「そーなんだ」

 納得して財布を取り出し、小銭をかき集める。

「これだけあれば足りるよね?」

 千円は、越すだろう額だったが、意外と高い下着を買うには、足らない金額だった。

 美弓は、いっその事、自分が払おうかと考えてた時、店員の一人がやってきて言う。

「ただいまその商品は、セール中ですので、それで十分です。今なら、もう一枚、付いて来ます」

「やったー!」

 うれしそうにする終。

 美弓は、流石に不自然に思いまわりを見回すと、小較の姿が目に入った。

 小較は、唇に指を当てるので、美弓が頷く。



 大切そうにブラジャーの入った袋を持つ終。

「どうして、ブラジャーを買いたかったの? 他の服は、真桜の方で買ってくれてるんでしょ?」

 美弓の質問に終が笑顔で答える。

「あのね、終がつかまっていた所には、終と同じ年頃の女の子が何人も居たの。お互いの事をいっぱい話した。その時に言ったの、自由になったらお小遣いを貯めて、ブラジャーを買うんだって」

 美弓、悲しみに曇りそうになる顔に無理やり笑顔を張り付かせて言う。

「約束が守れて良かったわね」

「うん」

 本当に嬉しそうに頷く終。

「ありがとうね」

 そして終は、手を振って帰っていく。

「本当にありがとうね」

 小較が美弓に声をかけた。

「あの子が言っていた子達は、どうなったのですか?」

 美弓の質問に小較が答える。

「あの子達の体を弄っていた組織は、金持ちの顧客の記憶を若い子供に移す実験をしていたの。記憶を抜かれたり、実験に失敗したりして、最後に残った終ちゃんが全ての記憶を引き継ぐことになった」

 美弓は、切実な思いを込めて言う。

「あたしが代わりに受け取るって訳には、いかないんですか?」

 小較は、首を横に振る。

「もう、どこからどこまで終ちゃん本人の記憶か解らないの。あの子を助けるには、一度完全に記憶を消すしかないのよ」

 美弓は、涙を流しながら叫ぶ。

「どうして、世界は、こんなに不公平なんですか!」

 小較がそんな美弓を抱き寄せ、頭をなでながら言う。

「隠れていないで出てきなさい」

 志郎達が現れ、次槍が言う。

「貴女は、俺達と違って大人だ、彼女をどうするのが一番正しいか解っている筈だ」

 苦笑する小較。

「志郎、貴方にあたしの名前の由来を教えた事があったかしら?」

 志郎が考えながら答える。

「確か、ヤヤさんから一文字とったって……」

 小較が頬をかきながら答える。

「それもあるけど、一番は、あたしが当時、五八八と呼ばれていたから。つまりね、あたしの前には、それだけの失敗があったの。あたしも、そんな失敗作に成る筈だった」

 驚く志郎達を横目に小較は、続ける。

「元々助からない病気だったからって産みの親が組織に売って、実験された。死ぬのを前提に今の姉の命を奪う刺客として送り込まれたの。どっちに転んでもあたしには、死ぬしか道が無かったのを、姉達に助けられて、こうして生きている。そんなあたしの胸には、同じような実験で死んだ人達の思いがある。それがどんなに辛くても大切な物だから、簡単に切り捨てられなかった……」

 戸惑いながらも次槍が言う。

「それでも貴女は、決断するのですね?」

 その時、小較の携帯が鳴る。

 小較がそれに出て少し話してから告げる。

「終ちゃんが倒れたわ。限界ね」

 この世の終りの様な顔をする美弓。

「俺達は、どうしてこんなに無力なんだ!」

 一刀が近くの壁を叩く。



 数日後のある病室に美弓がお見舞いに来ていた。

「お姉ちゃん、誰?」

 頭に包帯を巻いた終が首を傾げる。

 美弓は、全力で笑顔を作って答える。

「貴女が落とした物を届けに来たのよ」

 そして美弓が差し出したのは、一緒に買ったあのブラだった。

 それを受け取り終が嬉しそうな顔をする。

「こんなブラが欲しかったんだ!」

「そう良かった。それじゃあ大切にしてね、ハジメちゃん」

 美弓の言葉に頷く、嘗て終と呼ばれていたが、記憶を完全に消され、新たに始として人生を踏み出す事になる少女であった。

 廊下に出た美弓は、複雑な顔をする一刀を見る。

「顔を見ていかないの?」

 一刀は、出口の方を向いて言う。

「もう真桜とも、俺達とも関係ない一般人だからな」

 病院を出た所で美弓が呟く。

「あの子の記憶で生きていた子達は、消えてしまったのですね……」

「俺達が覚えている。終とその心で生きていたやつらの事を」

 外で待っていた志郎の言葉に美弓が頷く。

「あたしも忘れません」

 一人の少女の命は、救われたが、関係者の心には、冷たい風が吹くのであった。

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