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正義の味方の敵の真桜人材派遣会社

正義の味方から改造人間を助ける話

「今回の任務は、大切な物だ」

 そう指示を受けて、竜崎リュウザキ一刀イットウは、仲間の高山タカヤマ美弓ミユミ小峰コミネ次槍ジソウと共に、ある半獣を追跡していた。

「ねえ、今回の任務っておかしくない?」

 美弓の言葉に、次槍も頷く。

「確かに、直接ダークアイと関わってないな」

「今は、そんな事より、相手を捕獲するのが先だ!」

 一刀がそう言って、目標との間合いを詰める。

 その時、戦闘員が間に入ってくる。

「これ以上は、行かせないぜ!」

 その声を聞いて舌打ちする一刀。

志郎シロウ、邪魔をするな!」

 割って入ったのは、真桜の二級戦闘員、鈴木志郎だった。

「それは、こっちの台詞だ! 今、追ってるのは、お前らが相手しているダークアイの連中じゃないぞ!」

 一刀が油断無くかまえながら問う。

「黙れ、俺達は、敵の怪人を追えって、命令を受けてるぞ!」

 志郎は、戦闘員用のナイフを構えながら言う。

「確かに、今、お前達が追っているのは、ダークアイと関係がある組織が改造した半獣だが、そいつは、組織を脱走した。お前等が追いかける必要は、無い!」

「本当か?」

 躊躇する一刀だが、次槍が槍を志郎に向けて言う。

「騙されるな! 所詮奴等は、悪の組織だ!」

 志郎は、舌打ちして言う。

「元々敵同士だ、口で言って解るとも思ってなかったぜ!」

 そのまま、ナイフを持って対抗しようとする。

 しかし、次槍の槍は、最初の一撃でナイフを弾き、槍を回転させて石突で、志郎を吹き飛ばす。

 そのまま槍の刃を突きつけ、次槍が言う。

「これ以上邪魔をするなら、殺すぞ!」

「次槍、その人は、志郎さんよ!」

 美弓の言葉に次槍が強い意志を籠めて言う。

「だが、悪の組織の人間だ! 立ちふさがる以上、こうしなければ多くの人間に被害が及ぶ!」

 志郎は、その意思に負けない目で答える。

「こっちだって、死ぬ覚悟ぐらいある! だが、ただじゃ死なないぞ!」

 自分から槍に向かう志郎に次槍は、反射的に槍をずらす。

 志郎のナイフが次槍に迫った。

「終わりだ!」

 一刀の刀が志郎の腕を大きく切り裂く。

 傷を押さえながらも志郎の闘志は、鈍らない。

「まだだ!」

 一刀が苛立ちを籠めて言う。

「お金を貰った仕事なんだろう! 何でそこまで出来るんだよ!」

 志郎が鬼気迫る顔で言う。

「お前等に何が解る! 人と異なる体にされて、何も頼る事が出来ない中、真桜だけが、俺達の救いなんだよ! その仕事の為だったら、命くらいいつでも懸けてやるよ!」

 その迫力に一刀が一歩後退した時、一刀達をバックアップする組織のリーダー、四条シジョウ銘是メイゼが現れた。

「何をそんな戦闘員に手間を懸けているんだ! 一刻も早く、あの半獣を捕まえるんだ!」

「解っています!」

 一刀が刀を構えなおした時、六本手の男、真桜で特級資格を持つ、阿修羅が現れる。

「残念だが、彼は、もう真桜に入る事が決まっている。手を出させない」

 一度負けた相手に、一刀達が怯んでいると、銘是が指揮棒を取り出して言う。

「お前の事は、知っている。真桜って組織の怪人だな。私の部下が世話になったみたいだが、私も同じと思うな!」

 指揮棒が振られると、周囲から戦闘用の小型飛行機模型が現れ、阿修羅に迫る。

 阿修羅は、その六本の腕から放たれる超絶技能で、それら全てを叩き落した。

 悔しそうな顔をする銘是。

「やるな! ならばこれでどうだ!」

 再び指揮棒が振られ、小型飛行機模型が現れ、志郎に迫る。

 阿修羅は、慌ててその前に移動して防ぐ。

 そして連続して振られる指揮棒の動きに合わせてどんどん小型飛行機模型が現れ、志郎に襲い掛かる。

 阿修羅は、必死にそれを防ぐが、傷の深い志郎を庇っての行動なので、どんどん押されていった。

「リーダー、けが人を盾にする様な戦い方は、卑怯だ!」

 一刀の言葉に、銘是が淡々と言う。

「黙れ! 例え卑怯といわれようと、全ては、正義の為だ! お前達は、急いであの半獣を追うのだ!」

「しかし!」

 躊躇する一刀に次槍が言う。

「今は、リーダーのいう事を聞くんだ!」

 一刀達が、半獣の居た方向に向かう。

 その途中、真桜の戦闘員、一刀や次槍は、何度か会った事のある相手も居たが、一刀達は、戦って蹴散らして行った。

 そして、遂に半獣に追いつく。

「ここまでだ!」

 一刀が刀を向けると、熊の半獣であるその男が懇願する。

「一日だけで待ってくれ。その後だったら、殺されても良い! 娘の、娘の結婚式なんだ! それだけを遠くで見たら、諦めるから、お願いだ!」

 その言葉に、美弓が驚いて言う。

「娘さんが居るのですか?」

 熊の半獣の男は、語った。

 その男の娘は、重病で、助かる見込みも無かった。

 その時、声を掛けてきたのが、ダークアイとも繋がりがある、男を改造した組織だった。

 娘の回復と引き換えに、自らの体を改造して、戦う事になり、男は、家族と別れ、組織の為に働き続けて居た。

 そんな中、偶然、男は、娘が結婚する事を知った。

 一目だけでも娘の晴れ姿を見ようと、組織を抜け出したと言うのだ。

「一刀、この人は、嘘を言ってないわ!」

 縋るような美弓の視線に一刀が迷う。

「駄目だ、こいつは、罪も無い人間を何人も傷つけた悪人だ! 見逃す必要が無い!」

 次槍が強く主張する。

 その時、金髪の美少女、真桜の事務員の小較が現れた。

「随分と偉そうな事を言うけど、貴方達は、その人を罰する権利があるの?」

「俺達には、悪を倒す使命がある!」

 次槍が自信たっぷりに答えるが、小較が苦笑する。

「悪ね。それでは、人に正義があるの?」

 意外な問いに次槍が苛立ちを籠めて言う。

「何が言いたい!」

 小較が答える。

「人は、多くの生物を絶滅させている。それが悪じゃ無いの? そして貴方達は、その悪に対して何かしたの?」

 意外な返しに次槍が戸惑いながらも答える。

「それとこれとは、関係ない!」

 小較が小さく溜息を吐く。

「他の生き物の事も考えていない、自分達の常識だけで語る正義、それって世間では、独善と言うんだけど知ってる?」

 次槍が言葉に詰まると一刀が答える。

「しかし、悪は、正さないといけない!」

 小較が頷く。

「そうね、悪は、正さないといけない。日本では、自分に危害を加えて居ない相手に傷つけたり、無理やり捕縛するのは、犯罪よ。それをするのは、警察の仕事なんだからね」

 直球の正論に一刀が固まる。

 しかし、小較が続ける。

「でも、それが悪い事とは、限らない。自分達のルールにそって行動するのは、決して間違いじゃ無い。だから、この人が娘の為に他の人を傷つけたのも、この人のルールでは、正しい事なのよ」

「詭弁だ!」

 次槍が言い返すが、小較が冷たい視線で告げる。

「貴方達がやろうとしている事は、自分達の勝手な正義で、人の幸せを踏みにじる事よ。貴方達にそれだけの覚悟があるの?」

 次槍がなおも反論する。

「ならば聞く、その男は、自分の娘の為に多くの人を傷つけ、不幸にした。それが許されることなのか?」

 小較が熊の半獣の男の方を向いて言う。

「貴方の覚悟を聞かせて」

 熊の半獣は、答える。

「自分の罪は、知っている。それでも、娘の為にやった。それを罪と思っても後悔は、していない。その罪で死ねと言うなら死ぬのも仕方ない。ただ、最後に娘の晴れ姿を見たい。その後だったら、幾らでも罰を受けよう」

 小較が再び一刀達を見る。

「罪を許す事なんて、被害者以外に出来ないことよ。問題は、その罪を背負い、罰を受ける覚悟があるかなの。貴方達にこれだけの覚悟があるの?」

 次槍が悔しげに言う。

「それでは、貴方達に悪人に力を貸した罪に対する罰を受ける覚悟があるのか?」

 小較がはっきりと答える。

「あたし達を罰せたかったら、あたし達を罰せるだけの状況を作りなさい」

「それって卑怯じゃないか!」

 一刀が思わず叫ぶと小較が頷く。

「卑怯よ。あたしは、自分の大切の物の為なら幾らでも卑怯になれるよ」

「所詮は、悪の組織の人間か!」

 次槍の言葉に小較が言う。

「そして、貴方達は、自分勝手な正義の味方。力が弱い者が滅びるだけだけど、貴方達にそれだけの力があるの?」

 一刀は、刀を構えて答える。

「正義は、勝つ!」

 小較が手を横に振る。

「それは、間違い。勝つのは、常に強く己の信念を貫けた者。貴方達の正義より、あたし達の信念が強ければ、貴方達が負けるわ」

「正義を思う気持ちが負けると思うか!」

 一刀が更に言うが小較が聞き返す。

「貴方の正義って、何?」

 一刀が即答する。

「人々の平和を護る事!」

 小較が淡々と言う。

「それをどれだけ強く、どれだけの間、思っていたの? あたしは、シシと一緒に真桜をやり始めた時からずっと、思い続けて居た。それこそ毎日ね」

 一刀達は、自分達の過去を振り返る。

 彼等が戦い始めてから、まだ二年も経っていなかった。

「それでも、強く思っていた!」

 一刀が搾り出すように言うと小較が答える。

「あんたは、自分の力が及ばず、死んだ仲間がいる? あたしは、何人も居る。その度に強く思っているわよ」

 重い一言に怯む一刀。

「遅れて、すいません」

 そこに阿修羅が志郎を連れてやってきた。

「相手のリーダーは、どうしたの?」

 小較は、志郎を受け取りながら言うと阿修羅が答える。

「逃げられました。多分、この近くに居ると思われます」

 その言葉通り、銘是は、小較達の隙をついて、熊の半獣の男を捕獲しようと、気配を消していた。

 そんな中、志郎が言う。

「この人を捕まえてからどうするのか、解っているのか?」

 一刀が言葉につまると代わりに次槍が言う。

「相手の情報を聞きだす。その後、罪を償ってもらう」

 小較が大きく溜息を吐いて手を合わせる。

「ゴメンね。子供相手に大人気なかった。阿修羅さん、適当に牽制していて、その子達は、単なる正義の味方ごっこだから」

 そのまま、小較は、熊の半獣の男に近づいていく。

「正義の味方ごっこじゃない! 俺達は、命を懸けて戦ってる!」

 小較は、もう答えない。

 志郎も何も言わない、阿修羅だけが、優しい目で言う。

「君達が本気だという事は、解っているよ。でもね、大人の世界は、そんなに簡単じゃ無いんだよ」

「舐めるな!」

 一刀が刀を振るい、次槍も槍で突くが、阿修羅は、あっさり弾き、続ける。

「正義を行うというのは、ただ戦えば良いって訳じゃ無い。自分が行動で何が変化するかをしり、より良い方向に向かわせるという事。君達は、目の前の敵を倒すだけの空想の正義の味方でしかない。本当の正義の味方になりたかったら、自分達の行動の結果を考える事だよ」

 そんな中、志郎を背負い、動き辛そうな小較に、銘是の小型戦闘機模型が迫る。

「馬鹿か?」

 呆れた顔をする志郎。

 次の瞬間、銘是の悲鳴があがる。

 一刀達は、そちらの方向を向くと、隠れていた銘是を地面に押し倒している真桜の社長、シシが居た。

「小較を傷つけるのは、僕が許しませんよ」

「一刀、次槍、美弓! この男を殺せ!」

 銘是の言葉に、一刀達が動こうとした時、阿修羅の顔に殺気が篭る。

「社長に手を出そうというなら、大怪我を覚悟しろ!」

 完全に飲み込まれる一刀達。

「何をしてる! 早くしろ!」

 叫ぶ銘是にシシが言う。

「愚かですね。この場面で一番大切なのは、彼等の身の安全。本当のリーダーでしたら、彼等を逃がす算段をするものですよ」

「うるさい! あいつらなど幾らでも代わりが居る! 私は、正義を実行するために必要の人間なのだ!」

 銘是の言葉に美弓が悔しそうに言う。

「……酷い」

 一刀は、明らかに怒り、次槍ですら拳を握り締めている。

 そんな中、小較が熊の半獣の男を確保して言う。

「あたしは、先に帰るけど、ここの始末は、どうするの?」

 シシは、少し考えてから志郎を見る。

「僕は、こいつに少し用事があるから、こいつを連れて、小較と戻る。彼等の処理は、お前に任せる。阿修羅、すまないが、志郎を助けてやってくれ」

「了解しました」

 阿修羅が頷き、小較とシシは、その場を去る。

 残った志郎が言う。

「お前達は、本気で何も知らなかったんだな。あの人は、兵器開発側の企業の闇の仕事をして居た。そして、お前達のバックアップしているのも、その団体とライバル関係にある、企業だ。今回は怪人技術の奪取が主な目的だったんだよ」

 意外な言葉に次槍が言う。

「何を根拠に、そんな事を言うんだ!」

 志郎が呆れた顔をして言う。

「あのな、何か行動する時には、お金が掛かるが、お前達の組織は、どうやってお金を工面しているか考えた事があるか?」

「ボランティアじゃないのですか?」

 美弓が恐る恐る聞くが志郎が腕を交差させる。

「ハズレ。普通に考えたら解るだろう、ダークアイを捕らえる情報網や、集合するのに使っている場所、それにお前らの武器、とてもボランティアでどうにかなるわけ無いだろうがよ」

「だったらどうして出してるんだよ!」

 一刀が逆切れすると阿修羅が説明する。

「簡単だ、元々は、ダークアイに技術提供している企業に対する対抗策として君達の組織が結成された。詰り、君達の組織は、相手の兵器の威力を測る、実験に使われていたって事だよ」

 驚く一刀達。

「そんな! それじゃあ、あたし達の戦いって……」

 落ち込む美弓に阿修羅が優しく言う。

「落ち込むことは、無いよ。君達の御蔭で助かった人も居る。大切なのは、さっきも言ったけど、行動の結果を常に意識すること。ダークアイと戦うのも、あの人を捕まえるのも、その後、自分達の信念に間違った方向に進まないかを悩む事。若いうちは、間違うこともあるかもしれないけど、それで良い。君達には、未来があるんだから」

 美弓が涙を流しながら頭を下げる。

「色々教えてくださり、ありがとうございます」

 複雑そうな顔をする一刀と次槍。

 志郎が言う。

「阿修羅さん、すいませんが、こいつ等が裏切り者扱いされないように軽くダメージを与えてくれませんか?」

 少し辛そうな顔をして阿修羅が言う。

「確かに、このまま、逃がしたら、こっちに協力していると思われても仕方ないからな。抵抗するなとは、言わない、思いっきり抵抗してくれ」

「嘘だろ!」

 一刀が叫び、次槍が槍を構えて迎いうち、美弓は、覚悟を決めて目を瞑る。



 数日後のとある喫茶店。

「これが、あの人の娘さんの結婚式の写真だ」

 志郎から差し出された写真を見て、全治している美弓が言う。

「幸せそうです。それで、あの人は、会ったんですか?」

 志郎は、首を横に振る。

「カメラマンって誤魔化した。その写真をとったのが、あの人だ。あの人は、罪を犯した自分が名乗り出る資格は、無いって言ってたよ」

「そうですか。何時か罪を償って、名乗れれば良いですね」

 美弓の言葉に志郎も頷く。

「何、敵と和んでるんだ!」

 不満そうな顔をする、未だに顔の腫れがとれない一刀。

 全身から湿布の匂いをさせる次槍がコーヒーを飲みながら言う。

「まあ、今回は、四条銘是のバックの企業に対する得点稼ぎだと見抜けなかった俺たちの自業自得だから、恨み言は、言わないが、俺達も本気で戦っているから、今後、立ちふさがった時は、容赦なく排除するぞ!」

 睨む次槍に志郎が頷く。

「望むところだ。俺も、そろそろ階級を上げたいから、その得点になってもらうぜ」

「戦闘員のお前に負けるかよ」

 一刀が言い捨てる。

「なんだと!」

「なんだよ!」

 喧嘩友達の様な会話をする一刀と志郎であった。

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