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真桜人材派遣会社のお得意様

悪の組織の活動理由の話

 その日、正義の味方、竜崎リュウザキ一刀イットウは、仲間の高山タカヤマ美弓ミユミの買い物に付き合って、デパートに来ていた。

「なあ、美弓、まだ買うのか?」

 一刀の質問に、美弓が腰に手を当てて言う。

「あのねー、一刀達は、家事を全くしないから知らないだろうけど、普通に生活するのにも、消耗品は、多いの。あたしが入院している間に、そういう生活必需品が殆どなくなってたの。買い足ししないと。それとも、一刀は、次槍ジソウみたいに生活費を余分に入れてくれるの?」

 言葉に詰まる一刀。

 一刀達は、正義の味方の仕事もあるので一軒家で共同生活をしている。(ちゃんと大人の責任者が居る)

 今回の買出しに美弓は、一刀ともう一人の仲間、小峰コミネ次槍を召集した。

 しかし、次槍は、別の用事があると、タクシーで帰れるように余分なお金を出して来た。

 一刀も付き合いたくは、無いが、思いつきでお金を使ってしまう為、持ち合わせが無かったのだ。

「お金が無いのなら体で払ってください」

 そして、美弓が次々と大量の消耗品を買い込むのをげんなりとした表情で見る一刀であった。

「尻にしかれてるな」

 一刀の横から悪の組織へ人材を派遣する真桜人材派遣会社の社員、鈴木志郎シロウが声をかけてきた。

 一刀は、そっぽを向いて言う。

「余計なお世話だ。お前こそ、こんな所で買い物か?」

 志郎は、あっさり手を横に振る。

「違う、仕事だ。今回の仕事は、このデパートの爆破だよ」

「デパートの爆破だと!」

 一刀が叫ぶと周りの視線が集まる。

「あまり大声出すと目立つぞ」

 平然と言う志郎に掴みかかり一刀が睨む。

「そんな事をしてどれだけの人間に被害が出ると思っているんだ!」

 志郎が指を振って言う。

「うちが人的被害を出す仕事するかよ。どんなイレギュラーが起こってもけが人が出ない様にしてある。そのうえ、高い金だして、治癒能力者を呼んであるんだぞ」

 一刀は、怒りが収まらない顔で言う。

「だとしても、どれだけの被害が出ると思ってるんだ!」

 志郎が笑みを浮かべて言う。

「それが、この仕事の大元の発注者は、このデパートのオーナーなんだよ。老朽化したデパートを爆破して処分。保険会社から保険を騙し取るって作戦だよ」

 一刀が呆れた顔をする。

「そういう腐った奴って本当に居るんだな」

 志郎が遠い目をして言う。

「そんな奴等が居るから俺達が食っていけるんだ。社長の話しだと、悪の組織やテロリストの破壊工作の半分以上は、こういった営利目的なものらしいぞ」

 苛立つ一刀。

「嫌な世界だな」

 志郎が頷く。

「だけど、そんな世界に俺達は、生きてる。どんなに文句を言っても、そんな世界に生きるしかないんだよ」

 そこに美弓が来る。

「一刀! タイムサービスだって、来て!」

 一刀が眉を顰めて言う。

「まさかと思うがこれも爆破関係か?」

 志郎が肩に手を置き言う。

「諦めろ、爆破前に少しでも商品を処分しようと、セールのオンパレードだぞ」

 一刀が拳を握り締めて言う。

「俺は、絶対にこんな世界を認めない!」

「馬鹿な事を叫んでないで、行くよ!」

 美弓に引っ張られていく一刀であった。

 その姿を見送る志郎の所に変装した阿修羅が来る。

「あの子は、確か、ダークアイの仕事の時の子だったな?」

 志郎が頷くと阿修羅が安堵の息を吐く。

「平気そうで安心した。それより、そろそろ爆破予告が、雇い主『緑の大地』から出るぞ」

 志郎の顔に緊張が走る。

「こっからが本番って事ですね?」

 阿修羅が苦々しい顔で言う。

「そうだ、こちらが提案した作戦をちゃんと使って貰えば、人的被害が出ない筈だが、奴等は、手を抜きたがる」

 志郎が呆れた顔をして言う。

「奴等も本職なんだから、もう少し真面目に仕事しろって言いたいぜ」

「諦めろ、奴等は、自分達以外の人間の価値など認めていない。自分達の求める結果が出れば、それで十分なんだからな」

 阿修羅の言葉に志郎の表情も硬くなる。



 そして、阿修羅達の予測は、当たっていた。

 今回の事件を起こした組織『緑の大地』の下位構成員が自分の受け持ちの爆弾を見て言う。

「こんな物を持ち運んでると俺達が疑われるよな」

 二人組みの背の高い方が言うと背が低いデブが答える。

「でも、時間が来るまでは、持ち運び、避難開始が終わった所に設置して、逃走する予定じゃないか。そうやって発見率を遅らせる作戦だろ」

 ノッポが笑みを浮かべて言う。

「馬鹿だな、もう爆破予告をしているんだ、直ぐに爆破させる。そうすれば発見されずにすむぜ」

「でも、それだと怪我人が出るんじゃ?」

 デブの言葉にノッポが舌打ちする。

「我等『緑の大地』の主張も理解しない愚民が何人死のうが関係ない。ここに居るやつらは、地球の緑を食い潰す害虫だ、我等の仕事の為に死ねるのなら本望だろうよ」

「そうだよな」

 デブも同調する。

「丁度いい、あそこのトイレに設置するぞ」

 そして、何も考えず、トイレに爆弾を設置する二人組みであった。



 そんな二人が去った後、志郎が溜息を吐きながら、トイレを回っていた。

「いくら『緑の大地』の奴等が馬鹿でもトイレに爆弾を置くなんてトンマな事は、しないよな?」

 そういって開いた個室に自分達が用意した高性能爆弾を見つけた時志郎が頭を抱える。

「何考えてるんだよ」

 真桜だけに解る様につけた印から、爆弾の種類を判別する。

「これは、解体目的を察知されない為の擬装用の爆弾。威力は、それほど大きくないが発見される可能性が高いから解体は、難しい奴じゃないか」

 タイマーを見て志郎が怒鳴る。

「何考えてるんだこのボケ! 回答時間前に爆破させるつもりか!」

 直ぐに携帯で連絡をとる。

「……以上の状態で、至急対応をしないと不味いです」

 しかし返答は、芳しくなかった。

『すまない、他の所でも同様か作戦の根幹に関わる爆弾を作戦と異なる設置をされている。そちらの対処が優先される。移動しても大丈夫だから、窓から放り出してデモンストレーション代わりにすると指示が来てる。とにかく、東側の窓から放り出せば後は、小較さんがどうにかしてくれるそうだ』

 志郎は、爆弾を掴むと駆け出した。

 しばらく言った所で、『緑の大地』の二人組みが前に現れる。

「貴様、それをどうした!」

 ノッポの言葉に志郎が怒鳴り返す。

「お前等が、これを設置したのか! 少しは、作戦を守りやがれ!」

 ビクッとするデブ。

「どうして作戦の事を知ってる?」

 ノッポが舌打ちして言う。

「真桜の奴等か! 下請けは、下請けらしく偉そうに作戦指示などしないで、こっちの言う事だけを聞いてれば良いんだ!」

「自分達だけじゃ、依頼人の要望にも答えられない二流が大口叩くんじゃない!」

 志郎が怒鳴り返す。

 双方が睨み合うっていると、偶々一刀が通りかかる。

「志郎なにしてるんだ!」

 志郎が笑みを浮かべて言う。

「グットタイミング、これが爆弾だ、そこの窓から投げ出してくれ!」

 志郎が一刀に爆弾を投げ渡す。

 一刀が持っていた荷物を捨てて爆弾に駆け寄る。

「何をするんだ!」

 ノッポが一刀に近づこうとするのを志郎が間に入る。

「急げ、残り十秒だ!」

 一刀は、爆弾をキャッチして駆け出す。

「後で事情を説明しろよな!」

 そんな一刀の前にデブが立ち塞がる。

 一刀が舌打ちした時、芳香剤が飛んできてデブの頭に直撃する。

「よく解らないけど、急いで!」

 芳香剤を投げた美弓が叫び、一刀が全力を込めて爆弾を窓から投げ出す。



「ぎりぎり間に合ったわね」

 屋上に居た、真桜の事務員、白風シラカゼ小較コヤヤが目標に向って手を振る。

『ガルーダ』

 小較の手から放たれた風は、爆発の全てを、安全な所に受け流した。



「邪魔をしやがって、ただで済むと思ってるのか?」

 ノッポの言葉に志郎が言う。

「その言葉、そっくり返す。そっちが契約違反したんだ、それ相当の違約金は、覚悟しろよ」

 一刀が志郎の傍に来る。

「どうなってるんだ?」

 志郎が時計を見て言う。

「残念だが、説明してる時間は、無い。後で話す。今は、脱出開始だ」

『皆さん、当ビルは、テロリスト『緑の大地』によって爆破予告を受けております。いまの爆発は、デモンストレーションとの事ですので、本当の爆発までには、時間がありますので、慌てず避難してください』

 その放送で客が次々と避難していく。

 志郎も素早く誘導に参加するのであった。



 数時間後、喫茶店の奥の席で携帯電話のテレビ機能を使い、デパート爆破事件の放送を見せながら小較が言う。

「変な事に巻き込んですまなかったわね」

 一刀が複雑そうな顔をして言う。

「結局、何だったんですか? 志郎は、人的に被害は、出ないって言っていましたよ?」

 小較が笑顔で答える。

「そうよ、実際に出ていない。貴方の遭遇した事故も、ある程度は、予測のうち。もしもの時は、あたしがビルの天井を破壊して、被害の拡散を防いでた」

 攻める視線で美弓が言う。

「そこまでしてどうしてデパートの爆破なんてするんですか?」

 小較がお茶を飲みながら答える。

「あのデパートは、赤字がかなり出ていたの。でも一部の利権を持つ人たちの抵抗があって大幅な改装すら出来なかった始末。時には、大きな破壊も必要だって事よ」

「そんなの綺麗事ですよ」

 一刀の言葉に小較が頷く。

「そうよ。でも綺麗事が無い行動にどんな意味があるの? あのまま、赤字を出し続けて、多くの従業員をリストラされる事になった場合、責任は、何処に行くの?」

 反論出来ない一刀に小較が微笑み言う。

「貴方が悪いわけでは、無い。でも、上に立つ人間は、被害が出ると解っていても、それが汚い事だと解っていても行動しなければいけないことがある。己を通せる個と組織の違いよ。どっちが正しいでも、間違ってるでもない事よ」

 そして、小較は、指を鳴らすと、志郎が大きな荷物を持ってやってくる。

「ほら、これは、お前等がこっちの騒動に巻き込まれて、無くした物だ。こっちで買いなおしておいたぞ」

 美弓が確認する。

「凄い、あたしが欲しかったもの、全部ある」

 小較が笑顔で言う。

「そのくらい当然よ。まあ、男達には、無理な事だろうけどね」

 一刀と志郎があさっての方向を向く。

 そして伝票をもって小較が去っていく。

 志郎が肩を叩きながら席に着く。

「余計な仕事が増えて面倒だった」

 一刀が悔しそうに言う。

「悪の組織を手伝うあの人の言う事の方が正論に聞こえた。正義の味方失格だな」

 苦笑する志郎。

「仕方ないだろう。経験値が違うんだからよ」

 美弓が品物をチェックしながら言う。

「所で、あの二人は、どうなったの?」

 志郎が笑みを浮かべて言う。

「聞いて驚け、爆破の実行犯として警察に突き出された。奴等の上からは、組織の為の尊い犠牲だと言われていたが、今度の事であまりにも使えない事が解ったんでトカゲの尻尾切りに使われたんだろうよ」

 一刀が言う。

「真の黒幕は、闇の中だがな」

 不貞腐れる一刀に美弓が答える。

「それに対抗できるように強くなろうね」

 一刀が顔を真赤にしながら言う。

「当たり前だ」

 そんな二人をニヤニヤしながら見る志郎であった。

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