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真桜人材派遣会社のパックサービス

悪の組織のアジト建築の話

 新宿、人が行き交う、都会の闇に人知れず戦う者達が居た。

 彼等は、心の闇を利用して、力を手にする組織、ダークアイと戦っていた。

 そんな彼等は、裏で流れている情報を元に、一つの建設現場に来ていた。

 リーダー的少年、竜崎リュウザキ一刀イットウがパートナーのクールな少年、に言う。

「ここに間違いないんだよな?」

 クールな少年、小峰コミネ次槍ジソウが答える。

「まだ噂の段階だ。秘密組織の新たなアジトが建設されているってな」

 一刀が舌打ちする。

「でもダークアイの可能性が高いんだろう?」

 次槍が頷く。

「まあな、無駄な勢力争いで、いくつかアジトを失ったらしいからな」

「とにかく、潜入捜査だ」

 一刀が忍び込もうとした時、後ろから声が掛かる。

「ここは、まだ建設中で危険だぞ」

 次槍が振り返り言う。

「すいません、迷ってしまったんです」

 それに対して、声をかけてきた土木作業着をした少年が答える。

「下手な言い訳が通用するのは、テレビの中だけだぞ、正義の味方さん」

 一刀がその声で相手が誰か気づく。

志郎シロウじゃないか! お前がここに居るってことは、やっぱり悪の組織のアジトなんだな!」

 一刀があっさり頷く。

「うちの会社でもトップセールスのアジト作成パックだ。土地代抜きのパック価格で五千万っておすすめ商品だぞ」

 次槍が一刀の方を向いて言う。

「知り合いなのか?」

 一刀が頭を押さえながら言う。

「まあな、戦闘員を派遣している会社の社員だ、美弓ミユミの怪我した戦いの時も戦闘員として居たらしいぞ」

「お前達は、知らないだろうが、何度もお前達の必殺技の余波で吹き飛ばされてたりすんだぞ」

 志郎の言葉に次槍が眉を顰める。

「何で戦闘員がこんな所に居るんだ?」

 志郎が答える。

「うちの会社は、基本的には、秘密結社に人材派遣を主な業務内容にしているんだが、こういった、アジト製作の手伝いのノウハウからパック商品にして売り出したら、けっこう評判良かったんだよ。この不景気、どの組織も資金不足なんだよ。ちなみに人気のオプションは、何時使うのか解らない釣り天井だ。あれって使うのは、いいが後始末が大変なのは、気付いてるんだろうか?」

 次槍が一刀を見る。

「これなんの冗談だ?」

 一刀が肩をすくませて言う。

「本当だろうよ。ここの社長とあったが、真面目で理念を持った確りした人だったぞ」

 大きく溜息を吐く次槍。

「何処の世界の正義の味方が、戦闘員の親玉を褒めるんだ」

 そこに、以前一刀達を倒した事がある真桜の特級戦闘員の阿修羅アシュラが言う。

「志郎、サボっていると給料減らすぞ」

 一刀も次槍も緊張する中、阿修羅は平然と言う。

「君達は、こないだの? あの女の子は、大丈夫だったかい? 一応、痕に残らないように気をつけたつもりなんだけどね」

 意外な優しげな言葉に志郎が舌打ちする。

「それにしてもどうして特級戦闘員の阿修羅さんが、こんな土木作業をやってるんですか?」

 阿修羅が頭をかきながら言う。

「腕が六本あると意外と便利なんだぞ。それに生まれたばかりの子供の事を考えると、次の仕事までの空き時間を休むのが勿体無くってね。こうやって少しでも仕事をしようとしているんだよ」

 そういって、生まれたばかりの子供を背景にした携帯画面を見せてくる。

 一刀が言う。

「おめでとうございます。一つ聞いていいですか? ここってダークアイのアジトになるんですか?」

 苦笑する阿修羅。

「本当は、守秘義務があるんだが、違うよ。正義の味方君達には、怪我させてしまったから、特別だよ」

 微笑む阿修羅に一刀が頭を下げる。

「ありがとうございました。それでは、失礼します」

 そういって立ち去ろうとした時、次槍が傍により言う。

「信じるのは、危険だ。ここは、もう少し様子を窺うべきだ」

 その態度に阿修羅が一組の手を叩く。

「そうだ、どうせならここでバイトしないか? 普通の給料くらいは、出るぞ。正義の味方やるくらいなら体力は、あるだろう?」

 一刀が複雑な顔をする中、次槍があっさり頷く。

「解りました。お願いします」

 そうして、一刀と次槍のバイトが始まった。



「普通に土木作業だな」

 次槍の台詞に、志郎が言う。

「そうでも無いぜ、表の作業場と違って、このアジト関係の作業は、安全基準は、かなり低い。なんせ、担当が仕事の無い戦闘員だから、落石くらいじゃ怪我しないからな。それに一部の特別な人達も居るしな」

 志郎が指差した先では、指先から炎を出して、溶接する人が居た。

「何者だ?」

 次槍の質問に志郎が答える。

「戦闘兵器開発をしていた組織から救助された人で、あのガスバーナー以外にも、感電させたりする能力等、かなり戦闘向きの能力があるらしいが、本人が、戦闘を嫌って、秘密土木作業をメインでやってる。危険手当がつく戦闘員になれば、特級戦闘員になって給料もあがるのにな」

 一刀が頷く。

「こっちもそういうの居るぞ。戦闘向きだけど、戦いが嫌いだって人な。勿体無いと思うが、こればっかりは、強制できないからな」

 暢気な日常会話に次槍が呆れる。



 バイトから帰り道、次槍が疲れている一刀に言う。

「ダークアイの関係の施設は、見つけられない。しかし、まだ関係が否定された訳じゃない」

 呆れた顔をして一刀が言う。

「まだ疑ってたのか? 志郎達が俺たちにうそをつく必要なんてないだろう」

 次槍が鋭い目をして言う。

「何で信用できるんだ、相手は、以前戦った奴等だぞ!」

 一刀が逆に小さく溜息を吐いて言う。

「いつものお前らしくないぞ、相手がその気だったら、俺達が、いつでも殺されてた。そのくらい気付いてただろう」

 そこに、一人の少女が現れた。

「一刀、こんな時間まで何をしてたの?」

 一刀が硬い笑顔で答える。

「ちょっとバイトだ、美弓が気にする事じゃないさ」

 それに対してその少女、高山タカヤマ美弓が眉を顰める。

「嘘! あたし、よく当たる占い師、スターアンドチャイルドのチャイルドさんに占ってもらったんだから。二人だけで、敵のかも知れないアジトの建設現場で土木作業しているって」

 一刀が一歩下がる。

「ずいぶん具体的な占いだな」

 次槍も頷く。

「所詮占いなんて、当たるものでは、無い」

「そうでもないぞ、あの二人だったら、小較さんもかなり高い予測率だって言ってたぞ」

 何処からともかく現れた志郎に一刀が怒鳴る。

「何しに来た!」

 志郎は、二人にバイト代が入った便箋を渡す。

「今日までのバイト代だ。これは、うちの社長からだ」

 志郎が封筒を渡す。

 次槍がそれをあけるとそこには、ダークアイの次の計画の詳細が書かれていた。

「こんな物をどうして持っているんだ? もしかしてお前等が関わっているのか?」

 志郎が肩をすくめる。

「あそことは、喧嘩別れしてるんでね。ちなみにその情報をただで渡すのは、関連施設に孤児施設があるからだ。奴等は、そこを襲い、改造人間の材料にしようとしている。直接、手を出せないから、そっちに情報を流す事にしたらしいぞ」

 美弓が首をかしげていると一刀が真面目な顔をして言う。

「どうして自分たちで動かない? 改造人間を増やすのは、そっちの理念に反する行為だと思うが?」

 志郎が苦笑する。

「うちの社長は、理性的でね、自分達の勝手な理念の為に不要なリスクを負わない。利用するものは、利用する主義だからな。それともお前達は、それを見逃すのか?」

 次槍が睨む。

「所詮、悪の組織の人間だって事だな!」

 志郎が平然と答える。

「なんとも言ってくれ。俺は、明日も土木作業があるから、じゃあな」

 そして、去っていく志郎を睨む正義の味方たちであった。



 その後、資料を元に、ダークアイの計画を阻止した一刀達は、納得できない顔をして、夕飯をファミレスで食べていた。

「お疲れ様でした」

 真桜の事務をやっている小較コヤヤが現れた。

 困惑する美弓と疑る次槍。

 唯一面識がある筈の一刀は、無視を決め込んでいると小較が微笑む。

「そういう、若い態度好きだな。あたしも小さい頃は、周りの事情を考えず、動けたけどね。今は、無理」

 一刀が嫌悪感をだしながら言う。

「もう少し、まともな人間だと思っていましたよ。なんであんな計画を知っていながら、人に押し付け、無視するなんて真似出来ましたね」

 その一言で、小較が何処の組織の人間かを察知して次槍が美弓を庇うような位置取りをして言う。

「情報は、助かった。しかし、そっちの勢力争いに巻き込むまねを止めてもらおう」

 小較が苦笑する。

「勢力争いをするつもりは、無い。でも、防げる不幸は、出来るだけ防ぐ。例え、他人を利用してでも」

 一刀が机を叩く。

「そんな一方的に利用するやり方が気に入らないんです」

 小較が笑顔で答える。

「そうね。だから、今回の事は、こっちのお返しね」

 小較が指を鳴らすと、阿修羅が一人の男を担いで入ってくる。

「こいつが、お前達の家を襲撃しようとしていた。それを制止して、ダークアイにあるお前達の個人情報を抹消しておいたぞ」

 ダークアイの男を次槍の前に降ろさせて小較が言う。

「こいつ等は、一般人を襲おうとしたルール破り。だから成敗した。あたし達にとっては、それだけ。情報操作の記録も残っていない。ギブアンドテイクこれでいいかしら?」

 呆然とする一刀達を残して小較と阿修羅が去っていく。



 ダークアイの男を知り合いの所に連行する道中に志郎が居た。

「今回の裏事情を教えてやろうか?」

 一刀が睨む。

「どういうことだ?」

 志郎が言う。

「別段、今回の事は、真桜だけで片付ける事も出来た。社長は、狡猾だからな。問題は、お前達だ。阿修羅さんに負けたこともある。そろそろ大きな成果を出さないと行けないからそっちに回した。まあ、社長にしてみれば、両者に益があるからした事だろうけどな」

 次槍が疑惑の視線を向ける。

「どうしてそこまでするんだ?」

 志郎が視線を合わせて質問を返す。

「逆に聞くが、どうして、お金にもならない正義の味方を続ける?」

 一刀が即答する。

「ダークアイのやっている事が悪だから、それを退治するのは、当然だ!」

 志郎が答える。

「それが正義の味方の基準だろ。俺達の基準は、少し違う。自分の知り合いを護るのが優先。身近な人間なら損得無視で、お前たちみたいな気になる程度の存在だったら損になら無い限りフォローするのが妥当な線だな」

 ここに来て、事態を飲み込めてきた美弓が言う。

「そうなると、その社長さんは、全ての展開を読み取ったって事になりませんか?」

 志郎が肩をすくめて言う。

「なんせ神の目の異名を持つ人だからな、先読みが得意なんだよ」

 驚いた顔をする美弓。

「まさか予知能力者なんですか?」

 志郎が首を横に振る。

「違う。社長は、知能強化人間だ。小学生の頃に、脳を生体改造されて、知能を極限まで強化した結果、戦闘時のあらゆるパターンの予測する能力を得ていたらしい。今回の展開の予測もそれだよ」

 志郎が立ち上がり去ろうとした時、次槍が言う。

「何でその事を伝えに来た? 理解して欲しかったのか?」

 爆笑する志郎。

「違う違う。あの人達にただ護られてるだけじゃお前達が嫌だろうと思ったから伝えに来たんだよ。俺は、この後、土木作業の続きがあるからじゃあな」

 去っていく志郎を見送って一刀が言う。

「ところで、なんで志郎は、土木作業の仕事してるんだ?」

 その時、美弓が地面に落ちていたチラシを手に取る。

「スーパーヒーロータイム特別DVD特価?」

 次槍がその下に書かれた購入申込書に書かれた名前を指差すと、一刀が爆笑する。

「あいつ戦闘員やってるくせに、特撮マニアでやんの!」

 次槍も微笑を浮かべ、実弓は、笑いを堪えながら言う。

「人の趣味は、それぞれなんだから笑ったら駄目ですよ」

「しかしよ」

 腹を抱えながら一刀が笑う中、激走して戻ってくる志郎であった。

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