真桜人材派遣会社の派遣業務
悪の組織のアジトの表向きの商売の話
これは、人の悪意によってその体を改造された者達が強く生きていく物語です。
新宿、人が行き交う、都会の闇に人知れず戦う者達が居た。
彼等は、心の闇を利用して、力を手にする組織、ダークアイと戦っていた。
そんな彼等も、人としての生活もある。
当然、その為には、お金が必要である。
「今日からバイトに入った竜崎一刀くんだ。よろしく頼む」
ファミレスの店長に紹介され、ダークアイと戦う少年、一刀が頭を下げる。
「よろしくお願いします」
そして頭を上げた一刀は、前に立っていた先輩ウエイターを見て顔を引きつらせる。
「それじゃあ、よろしく頼むよ」
そう言って店長が出て行った後、一刀は、先輩ウエイターの襟首を掴む。
「何で、悪の組織の戦闘員がこんな所でバイトしてるんだ!」
襟首を掴まれた先輩ウエイター、真桜人材派遣会社の二級戦闘員、鈴木志郎が視線をずらしながら言う。
「こっちにも色々事情があるんだよ」
じっと睨む一刀に志郎が突っ込む。
「逆に聞くが、正義の味方がどうしてこんな所でバイトなんてしてるんだ?」
言葉に詰まる一刀。
そこに、ウエイトレス姿の小較が来て言う。
「個人活動の正義の味方は、金欠なのは、当然よ。それより、何時までも休んでないで、仕事する。志郎は、ちゃんと一刀君に仕事の仕方を教えるのよ」
「了解しました。一人前のウエイターにしてみせます」
志郎の返事を確認して、店に戻っていく小較。
「そういうことだから、作業内容を教えるから、ちゃんと覚えろよ」
志郎の言葉に不満気だが、バイト代の為に頷かざるえない一刀であった。
「お前、もう少し、営業スマイルを上手くできないか?」
休憩中に志郎がシミジミと言うと、一刀は、怒鳴り返す。
「うるせい! 何で戦闘員が、営業スマイル得意なんだよ!」
志郎は、遠くを見て言う。
「俺も色々と苦労してるんだよ」
ふて腐れながらも一刀が言う。
「実際、どうしてここでバイトしてるんだ?」
志郎が肩をすくめながら答える。
「ここの地下が、非合法組織の秘密基地でな、カモフラージュの為に地上部がファミレスになってるんだが、活動費稼ぎの為にも、ちゃんとした店にする必要があってな、そのサポートと当座の人員提供を行ってるんだよ」
その時、コック服を着た鱗肌の中年が来て言う。
「因みにこいつは、この前の派遣での牢屋警護で、泣き出した女の子を逃がして、違約金を払わされた罰だったりするがな」
「そういうあんただって、戦闘員がなんでコックやってるんだよ!」
志郎の反撃に鱗肌の中年が苦笑をしながら言う。
「俺は、昔、コックをやっていたんだよ。今でこそ、こんなだがな。コックの仕事があるって聞いて、応募したんだ。どうせならこのままここで働くのも良いかもな」
思わず沈黙する志郎を見て鱗肌の中年が言う。
「それより、ヒマだったら皿洗いを手伝え、人手が足らないんだからよ」
「俺達は、休憩中だよ!」
志郎が言い返すのを笑って受け止めて、キッチンに帰っていく鱗肌の中年。
それを見ていた一刀が言う。
「お前もここで一生働いたらどうだ?」
志郎が舌打ちする。
「出来るかよ。それと、そんな事をあの人には、言うなよ」
首を傾げる一刀。
「どうしてだ?」
志郎が嫌そうに答える。
「あの人の肌を見ただろう、常人じゃないことは、一発で解る。お前がこっちの事情知ってるのを解ってたから見せたが、普段は、夏でも長袖を着て隠してる。そんな格好でコックが出来るか? 今は、こっちの人員だけで調理場を回してるからやれるが、一般人が混じったらそれまでだ。あの人は、それまでに、比較的まともな外見の社員に料理を伝授するって言ってたよ」
失敗したって顔をする一刀。
「すまない。それにしても、こんな仕事までするんだな」
志郎が頷く。
「まあな、非合法組織は、一般求人が行い辛いから、掃除や食事等の福祉関係や危険度が少ないが常時人数が居る、警備任務なんかの仕事は、それなりに多いんだよ。うちも全員が戦闘可能なメンバーじゃないから、そういった仕事も多く受けてるな」
それで思い出したのか、一刀が笑みを浮かべて言う。
「人質の女の子を逃がしたんだって、お前もスケベだな」
志郎が怒鳴る。
「違う、まだ乳離れも出来て無そうな幼稚園児だよ。デパートを襲撃して、その時に親とはぐれた時に人質にされたみたいで、ずっと泣いてんだ。小娘一人くらい人質が居なくなっても大丈夫なのに、相手がうるさく契約違反だと騒ぎやがったんだ」
「お前、ロリコンだったのか?」
一刀の言葉に怖い目をして掴みかかる志郎。
そんな時、建物に振動が起こる。
「どうしたんだ?」
『赤刃食品の営業がいらっしゃいました。担当者は至急、応接室に急いでください』
店内放送に、征服を脱ぎ、ジャケットを羽織る志郎。
「敵の襲撃だ!」
複雑な顔をして一刀が質問する。
「正義の味方がやってきたのか?」
呆れた顔をする志郎。
「馬鹿か、正義の味方が、まだ何もしてない秘密基地を攻めてくるか。近くのライバル組織の襲撃だよ」
駆けつけた場所では、戦闘員同士の対決が始まっていた。
ファミレスの制服を着た戦闘員と戦う、大きな瞳のマークが付いた戦闘服を着た敵を見て一刀が言う。
「奴ら、ダークアイ!」
「なるほどな、真桜と喧嘩して、ここらの秘密基地が事実上使えなくなった変わりに、ここを奪うつもりかよ」
そういいながら志郎が戦闘に参加する。
そんな状況を一刀が眺めていると、ダークアイの両手が蛇な改造人間が現れる。
『ここは、ダークアイの新たな基地とする、大人しく言うことを聞けば、偉大なるダークアイの配下にしてやるぞ!』
そこで一刀が切れた。
「そこまでだ、ダークアイ。これ以上は、この竜崎一刀が許さないぞ!」
驚く、蛇手男。
『馬鹿な、どうしてお前がここに!』
一刀が正義の剣を構えて答える。
「お前等の悪巧みを事前に察知して、ここでバイトをして待ち伏せていたんだ!」
怯む蛇手男。
『まさか、情報が漏れて居たのか? まあ、いい、ここで倒してやる!』
こうして、ダークアイの怪人と正義の味方、一刀の戦いが始まった。
戦いが終わり、真桜の社員が手際よく、後片付けをしている中、志郎が一刀に近づき笑顔で言う。
「ダークアイの待ち伏せをしていたなんて知らなかったぞ」
一刀が何も答えないので、志郎は肩を叩いて言う。
「だったら、もう用事が終わったからバイト止めるんだよな?」
「まだ襲撃の可能性があるから、バイトは、続ける」
一刀が視線を合わせないように言うのを聞いて、爆笑する志郎達、真桜社員であった。
バイト最終日、給料明細を受け取った一刀が店を出ると、志郎が待っていた。
「もう待ち伏せは、良いのか?」
一刀が不機嫌そうに言う。
「解って言ってるだろう?」
笑いながら肩を叩き志郎が言う。
「まー建前は、必要だよな」
「いいたいことがそれだけなら、もう行くぞ」
一刀が歩き出そうとした時、志郎が封筒を投げ渡す。
「社長からのお見舞いだ」
一刀が封筒を開けると、中には、映画のペアチケットが入っていた。
「何のつもりだ?」
一刀の質問に志郎が言う。
「彼女の退院祝いを買うためにバイトしていたんだろ? ついでだったら、映画でも一緒に見た後、渡すと効果的だって小較さんも言ってたぞ」
顔を真赤にする一刀。
「お前等、どこまで知ってるんだ?」
肩をすくめる志郎。
「うちの社長は、神の目って二つ名をもってるくらいだからな」
一刀が複雑な顔をして言う。
「ありがたくもらっておくが、次に悪の組織の配下として現れたら、容赦しないぞ」
志郎も頷く。
「当然だ。俺も正義の味方を倒せばボーナスもらえるんだ、遠慮なく行くぜ」
こうして、敵同士の二人が別れていくのであった。