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こちら真桜人材派遣会社

志郎と一刀達が遭遇する話

 新宿、人が行き交う、都会の闇に人知れず戦う者達が居た。

 彼等は、心の闇を利用して、力を手にする組織、ダークアイと戦っていた。

「ここまでのようだな?」

 ダークアイの幹部が手に持った玉を弄びながら言う。

 人の為に戦う少年、竜崎リュウザキ一刀イットウが言う。

「まだだ! 俺達は、負けない!」

 その時、一刀の前に仲間の少女達が投げ落とされる。

「ごめんなさい。あいつ、強すぎ」

 少女がそのまま意識を失う。

 一刀は、少女達が投げつけられた方を向くと、仮面をした六本手の男が居た。

「貴様がやったのか!」

 仮面の男が頷く。

『そうだ』

 ダークアイの幹部が高笑いをあげて言う。

「これでお終いだ! 阿修羅アシュラよ! あいつにとどめをさせ!」

 ダークアイの幹部が玉を掲げて叫んだ。

 すると、玉から女性の音声が響く。

『契約は、満了しました。またの御契約をお待ちしております』

 空気が凍る。

 そして仮面の男、阿修羅が頭を下げる。

真桜マオウ人材派遣会社をご利用ありがとうございました。これは、サービス券で、次回のご契約の時に割引できますのでお遣い下さい』

 そう言って、阿修羅は、ダークアイの幹部にサービス券を渡して、去っていく。

「待ってくれ! ここでお前達に帰られたら、どうやって戦闘を続ければ良いんだ!」

 阿修羅が肩を竦めて言う。

『すいませんが、契約は、契約ですから。満了した以上、これ以上は、お手伝い出来ません』

 ダークアイの幹部が慌てて、財布を取り出す。

「追加料金を払う! だから、頼む!」

 阿修羅が首を横に振る。

『最初の契約で、この様な状態の時の対応オプションを勧めた筈です。それを契約されなかった以上、一社員の私では、勝手に延長できませんので、すいませんが失礼します』

 そのまま、阿修羅とその部下達は、その場から去っていく。

 一人残されたダークアイの幹部が傷つき、動くのも大変な一刀を見下ろし言う。

「運が良かったな! 今回は、これで見逃してやる! 次こそ、その命を貰い受ける」

 そのまま、逃げていくダークアイの幹部。

 そんな喜劇を見ていた一刀が傷ついた少女達を抱き上げながら言う。

「何だったんだ?」



「仕事完了してきました!」

 六本手の男、阿修羅と名乗っていた男が仮面を外し、人の良さそうな顔で事務所に入って来る。

「ご苦労様。お茶を淹れますね」

 そう言って事務所に居た、金髪の女性がお茶の支度を始める。

 奥の机で事務処理をやっていた男性が言う。

「どうでしたか? 敵の戦闘力を失わせる所までが契約でしたが、やり過ぎに成りませんでしたか?」

 阿修羅が微笑み、答える。

「はい。皆さんが努力して下さったので、戦闘力を奪うだけで済みました。娘さん達の傷も痕が残らない筈です」

 金髪の女性が言う。

「それは、良かったわね。下手にやり過ぎても、余計な恨みを買うだけだものね」

 差し出されたお茶を飲みながら阿修羅が言う。

「でも良かったのですか? ダークアイは、新規のお客様だったのですから、もう少しサービスしてあげた方が、後々の商売になると思うのですが?」

 事務処理をやっていた男性が言う。

「下手にやりすぎて、うちの経営方針をご理解頂けないと困ります。うちは、あくまで手伝いがメインですから」

 阿修羅が頷く。

「悪の組織に戦闘員代わりの戦力を補充するのが主な仕事内容ですから、メインの怪人役までは、専門外ですね」

 お茶を飲む阿修羅に金髪の女性が封筒を渡す。

「今月の給料明細です。阿修羅さんは、頑張ってくださったので、少し多目ですよ」

 阿修羅は頭を下げる。

「これで、嫁さんに言われていたプレゼントを買ってやれますよ」

 阿修羅は、事務所を出て行った後に金髪の少女が小さく溜息を吐く。

「シシ、また、赤字だから貴方の給料が減るわよ」

 事務処理をやっていた男性、シシが言う。

「すまない、小較コヤヤ。でも阿修羅さんは、もうすぐ子供が生まれるからね」

「こうやって、あたし達の結婚は、遠のいていくのね?」

 攻める視線を向ける金髪の女性、白風シラカゼ小較に手を合わせて頭を下げるシシ。

「悪いと思ってる。でもこの会社の方針上しかたないんだ」

 小較が溜息を吐いて言う。

「解ってるわよ。まともな仕事に就けない様な特殊能力や肉体異常を持った人達の仕事を斡旋する為に作った、犯罪組織への戦闘員派遣会社だもんね」

 少し拗ねている小較にシシが近づき言う。

「例え、結婚式が挙げられなくても愛しているよ」

「もう、馬鹿」

 顔を真赤にして小較が目を瞑り、二人の顔が近づく。



「今月は、これだけか」

 溜息を吐くのは、真桜人材派遣会社に所属する少年、鈴木志郎シロウであった。

 志郎は、赤子の頃に親から捨てられて、施設で育ち、抜け出したところを拉致され、改造された、改造人間である。

 仮面ライダーみたいな凄い力は、無いが、町のチンピラ相手なら十分に戦える。

 しかし、改造された肉体ゆえに一般生活をおくれない。

 改造を行った組織から救い出された後、色々あり、真桜に入社し、働いていた。

「二級戦闘員のままだと、ろくな稼ぎにならない。早く一級戦闘員の資格取らないとな」

 愚痴をこぼす志郎に、同僚の中年男性が言う。

「何言っているんだ、仕事あるだけ幸せだぞ。俺なんてな、こんな体だから、仕事もつけずに浮浪者みたいな生活を送ってたんだからな」

 一部の皮膚が鱗状になって居る腕をみせつける中年男性。

「解ってるよ、俺達がまともな生活できてるのは、全部、社長のおかげだって事くらい。でも、独立独歩を基本理念にしてるんで、良い仕事しないと給料が安いのも確かだろ?」

 鱗肌の中年男性が安酒を飲みながら言う。

「仕方ねえだろ、俺達は、特級資格をもつ阿修羅さんみたいな専門訓練を受けてないんだかよ。そんなに強くなりたいんだったら、小較さんにトレーニングを頼めば良いだろう?」

 嫌そうな顔をする志郎。

「やめてくれよ、小較さんのトレーニングって地獄だって噂だぜ」

「トレーニングもしないで強くなるのは、無理だ、諦めろ」

 鱗肌の中年男性は、支給されていた戦闘員服から私服に戻ると、真桜の社員寮に帰っていく。

 志郎は、少ない給料を持って、深夜の町をぶらつく。

「志郎ちゃん、ラーメン食べてかないかい!」

 顔馴染みの屋台のおじさんの声に志郎が言う。

「今日は、給料日だから、少しリッチな物たべるから、今度な」

「無駄遣いしてると、また素ラーメンを食べる事になるよ」

 屋台のおじさんの言葉に志郎が顔を真赤にして怒鳴り返す。

「五月蝿い!」

 そして、志郎が、深夜までやっている料理店を探して歩いていると、傷ついた一刀を見つける。

「あれって確か、正義の味方さんだったな」

 一刀がよろけるのを見て、咄嗟に支える志郎。

「大丈夫か?」

「ありがとう」

 一刀が壁に手をつきながら言うと志郎が言う。

「そんな怪我をしてるのに、何をやってるんだ?」

 一刀が悔しそうに言う。

「今日、負けた。少しでも強くなる為、俺は、止まってられないんだ」

 白けた顔をして志郎が言う。

「強さなんて意味ないぜ。この世の中、どう楽に生きるかが大切なんだよ」

 一刀が志郎を睨む。

「貫くべき正義は、あるんだ!」

 志郎が苦笑する。

「本当にそんなもんがあったら、俺は、親から捨てられなかっただろうな。この世で生きるのに必要なのは、正義じゃなく、生きる意志だよ」

「お前とは、意見が合わないな」

 一刀の言葉に志郎が頷く。

「そうみたいだな」

 その時、ダークアイの幹部が現れる。

「なんという幸運、お前の方からやられに来たか!」

 その後ろには、ダークアイが生み出した、ライオンの形をした影の獣が居た。

「逃げるんだ!」

 一刀が叫ぶ。

「そうさせてもらうよ」

 志郎もあっさり従おうとした。

 しかし、ダークアイの幹部が言う。

「最初から、こうしてれば良かったのだ。裏切った真桜の奴等の事務所を襲撃する行き掛けの駄賃だ、死ね!」

 一刀が、残された力を収束して、影の獣と向かい合った時、志郎が振り返り言う。

「お前、それを本気で言ってるのか?」

 ダークアイの幹部が傲慢な顔で頷く。

「当然だ! あんなふざけた真似をして、私がどれほど恥をかいたか! その恨みを晴らさずにいられるか!」

 志郎が呆れた顔をする。

「止めとけ、止めとけ。事務所には、社長が居るんだぞ」

 それに対して、ダークアイの幹部が言う。

「お前、もしかして、真桜の戦闘員か?」

 志郎が苦笑する。

「それは、答えられないことに成ってるんだ」

 話の流れが掴めない一刀。

「お前達、何を話してるんだ!」

 志郎が一刀を抱きかかえると言う。

「逃げるぞ、巻き込まれたら面倒だ」

 一刀が暴れる。

「止めろ、奴を倒さないと大変な事になるんだ!」

 志郎が手を横に振り言う。

「大丈夫だ。事務所に向かって、ただで済む訳ないからな」

「駄目だ! 奴等がどんな最低の集団か知らないから、そんな事を言えるんだ!」

 もがく一刀に志郎が諦めた顔をして、進路を変える。

「事務所に行くぞ」

 そして、志郎は、一刀と共に事務所に戻るはめになった。



「そういう事で連れてきました」

 志郎の言葉に、シシが頭を下げて言う。

「すいませんね、これも業務上のトラブルですから、心配なされなくても平気ですよ」

 一刀が怒鳴る。

「こんなトラブルに巻き込まれる業務というのは、なんだ!」

 シシがあっさり答える。

「悪の組織に戦闘員を派遣しています」

 言葉を無くす一刀を気にせず、志郎が言う。

「社長、小較さんは、何処行ったんですか?」

「夜食を買いに行っています」

 シシの回答に一刀が慌てる。

「もしかして、女性を一人で行かせてるのか! もしダークアイの奴等に見つかったら大変だ!」

 志郎が爆笑する。

「そんな運が悪い事無いって! 幾らなんでも、出会うなんてそんなアンラッキーな事があってたまるかよ」

 その時、外から破壊音が聞こえ、シシが言う。

「遭遇してしまったみたいですね。かわいそうに」

 しみじみというシシ。

「そんな事を言っている場合じゃないだろうが! 助けに行かないと!」

 一刀の言葉に志郎が嫌そうな顔をして言う。

「めんどくさいなー」

 シシが肩を叩き言う。

「そうも言ってられません。平和的な解決を心がけないと」

 そして、三人が事務所を出て行く。



「それで、あたしとまだやるの?」

 小較は、コンビニの袋を持ったまま見下ろす。

「何者だ、貴様……」

 ダークアイの幹部がダークアイの自慢の影の獣を瞬殺されて、言葉が無いようだ。

 そこにシシが来て言う。

「もう全滅させたんですか?」

 少し攻める視線に小較が頬を掻きながら言う。

「だって、あたしが真桜の人間だって言ったら、いきなり襲ってきたんだもん、立派な正当防衛だと思うよ」

 シシが首を横に振る。

「前から行っていますが、小較は、白風の人間なんですから、必要以上に表に出ると、ここが、八刃の下部組織だと勘違いされます。ただでさえ、資本金は、ヤヤさんから出していただいているんですから」

 拗ねる小較。

「だから、正当防衛以外では、戦闘に参加しないで、事務仕事してるんじゃん」

「まさか、金の突風の小較なのか!」

 ダークアイの幹部の言葉に志郎が呆れた顔をして言う。

「まさか、知らなかったのか? うちは、一応、八刃と関係無いって事になってるが、かなり後ろ盾になってもらってるって」

 首を思いっきり横に振るダークアイの幹部。

「志郎、それ誤解です。そうですと、色々仕事に影響が出ます」

 逃げていくダークアイの幹部を見て一刀が呟く。

「結局、何だったんだ?」



 遅くなったこともありシシが車で一刀と志郎を送って行く事になった。

「大体の事情が解ったが、お前達のやっている事が犯罪だって事に気付いてるのか?」

 一刀の攻める視線にシシが頷くが、揺るがない口調で答える。

「普通の仕事が出来るようでしたら、そっちを紹介します。それが出来ない人間が多いからこの会社を始めました。生きていくのに必要だからです」

 一刀が反論しようとした時、小較の買ってきた夜食を食べていた志郎が言う。

「奇麗事は、止めろ。お前に、身体検査されただけで警察が呼ばれる人間の気持ちが解るか? 俺は、まだ良かった、外見上は、常人と一緒だから、ごまかして普通のバイトをやってた時期もあった。それでもちょっとした事でばれて、何度も社長に迷惑をかけたぜ。まあ、諦めてこっちに移ってからは、気分的に楽になった。人の仕事を奪っておいて、まともな仕事しろって言うのが問題なんだよ」

 一刀が志郎を睨む。

「だからって犯罪やって良いって事には、ならないだろう!」

「それじゃあ、俺達には、飢え死ぬか、物乞いして生きろっていうのか!」

 志郎も睨み返すとシシが仲裁する。

「どちらの意見も間違っていません。私もこれが最善と思っていません。やり方を改善して、より一般生活に近い形にしていくつもりです。それまでは、周囲に迷惑かけるかもしれません。それでも私は、自分の信じる道を進むつもりです」

 大人の意見に黙るしかない一刀と志郎であった。

 そして家に着き、一刀が車から降りる時、志郎が言う。

「俺達は、自分達の為に他人を犠牲にしているつもりは、ない。お互い、戦う以上、自分達も傷つき、殺されるかもという覚悟がある。その覚悟が無いんだったら、戦うのは、止めろ」

 一刀が振り返り言う。

「覚悟は、ある! だからこれからも戦う」

 シシが頭を下げて車を出した。



「青春してるわね」

 事務所に戻った後、小較が資料を整理しながら言うと、シシが微笑みながら言う。

「ああいう若い人間が新しい未来を作るんですよ」

 小較が小さく溜息を吐く。

「そう年齢も違わないでしょうが、頑張って、変えて行くんでしょ、社長さん」

「はい。早く、焔さんに認めてもらえるような会社にして見せますよ」

 シシの言葉に遠い目をする小較。

「お父さんは、一生認めない気もする」

 そんなこんなで、サービス残業をする、シシと小較であった。

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