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安らかな微笑み
臨終の相ほど美しいものはない。
彼女の姿からその言葉の正しさを痛いほど思い知った。
白装束の上に黒い上着、そして上着と同色のスカートで身を包んだ彼女の肢体は水面に浮かんでいる。
新緑色の髪を閻魔帽子で抑える彼女の表情は満足とばかりに微笑を浮かべて瞳を閉じていた。
華奢な彼女の姿からは想像し難いだろうが、彼女はかつて人間を裁く閻魔の役割を担う存在。
気の遠くなる歳月を過ごし、数えきれない人間に白黒を付けた彼女。
人がいなくなった今、役割を終えた彼女は裁く側から裁かれる側へと回った。
自身の行いが裁かれるにも拘らず、彼女が微笑んでいるのは一片の悔いすらないゆえであろう。
己の所業に後悔など無く、誇れるものゆえに彼女の臨終は美しい。
手向けとばかりに、近くに咲いた桜の花びらが彼女に舞い降りた。
引用URL
http://seiga.nicovideo.jp/seiga/im1880687
題名:絵師
水葬 卜部ミチル