求人広告
歳末の街角でサンタクロースに差し出された紙切れ。バーゲンのチラシかと思ったら、そうではなかった。
青年は泣きながら訴える。
だから、信じてくださいって刑事さん。俺はただのバイトで雇われただけで、別にどっかの家に盗みに入りたかったとか、そんな理由でピッキングしてた訳じゃないんですって。
12月の中ごろに、町でサンタからチラシをもらいました。中身は求人広告でした。24日の深夜から25日の明け方にかけての超ド短期バイトで、時給が信じらんないぐらいに良かったから、即行で応募したんです。そしたら、2,3日後に採用の手紙とともに、小包が送られてきました。中にはピッキングツールと説明書が入ってましたよ。俺もそのときは「こりゃあヤバイ仕事じゃないか」って思いましたけどね。でも説明書には、「カギ開け代行業」って書いてありました。イブから次の日にかけては、浮かれて遊びまわっているうちに鍵を落とす奴が少なからずいる。だからそういう人達の為に家の鍵を開けてやるビジネスだそうです。
俺は納得してその日から鍵開けの特訓をしました。24日になると、小包と一緒に送られてきた携帯電話に、鍵を落としたという人の住所がメールで送られてきました。それで俺はあちこちの家に出かけて玄関の鍵を開けまくってたんです。
それ以外のことは何も知りません。逆に俺が聞きたいですよ。何で捕まらなくちゃいけないんですか?俺は本当にそういう仕事だと信じてたんですよ?嘘だと思うなら雇い主を調べてくださいよ!
刑事は調書を取りながら、疑いに満ちた目で青年を見返す。
………あんたの他にもあの日、ピッキングの現行犯で捕まったやつらが2,30人いるんだ。そいつらもみーんなあんなと同じ言い訳を繰り返してる。だけどな、問題の会社を調べてみたけど、住所も電話番号もでたらめだったぞ?やっぱり嘘なんじゃねえのか?今のうちにおとなしく白状した方が見のためだぞー。言い逃れれば言い逃れるほど、刑務所入りが長くなるからな。
………それにしても、問題の不審者はまだ見つからないのかねえ。そいつ、あんたらがピッキングした家に片っ端から入り込んでるんだよ。どうもプロの空き巣らしく、目撃者は多いのに手がかりもなく、まだ見つかっていないんだ。あんたらと関係のある奴かもしれない。幸い、侵入された家から金目のものは盗まれていないということだがね。妙に動きがすばやいデブのジジイで、肩に馬鹿でかい袋を担いでいたらしいが、一体どこに逃げちまったんだろうなあ。
読売新聞の夕刊で以前掲載されていた「有栖川有栖さんとつくる不思議の物語」の12月分に投稿・紙面にて掲載されたものです。
その後、2006年度の年間佳作にも選ばれました。