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東方史萃譚  作者: 甘露
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六六一年



   六六一年




***




「ぼくは、限界だ」

「は? なにさ、藪から棒に」


白が消えて、三年が経った。もちろん、無事だった部分は残してあるけれども。

あれを動かすには、あれを白らしく動かすにはとてつもない労力が要る、って分かってたから、ぼくは今まで直そうとしなかった。

それに、本当は直せるかもわからないから、怖くて仕方がなかった。



鼠が憎い。仏が憎い。大王が憎い。世界が憎い。


何よりも、何も考えて無かった自分が憎い。



あの気持ちを原動力に、ぼくを三年間付き進めていたけれども。

また後悔をしてしまいたくないから、大切な仲間や配下を失いたくないから。

ぼくは頑張って、山を要塞にして、皆で暮らす拠点を見よう見まねと力技で作って、尖兵共に負けないように鍛えて。

そうして三年を過ごしてきたけれども。

から元気で、皆の頭に立って引っ張り上げてきたけれども。


──もう、限界だった。

から元気も、もうこれっぽっちもない。

二言目にはぼくの名前を出すお山の仲間達の顔を見るのもつらい。

思い出せば白とぼくから初まって、それから伊吹の、星熊の、天狗の真白、星熊のが連れてきた山ほどの妖怪達。

どんどん増えて、人だった頃とは比べ物にならないくらいに素敵な居場所も出来て。

だけど、何時でも隣には白が居た。白が居たからぼくは生きた。


だから、白の居ない今がぼくには辛かった。

皆が信頼してくれて、お山の中で安心出来る居場所と信頼できる友に配下を得たからこそ。


決して埋まらない穴が、心にぽっかり穴が開いたままなのを、とても感じるのだ。

今、ぼくが鬼のぼくとしているのは全て白の為なのに。

白を失いたくなかったから、ぼくは鬼になったのに。


頑張っても頑張っても、穴は消えずに残り続けて。


なのに、ぼくはこれから寿命が尽きるまで幾千もの年月を、白を失ったまま過ごすはめになった。

ぼくがあんまりにも間抜けで、そしてあの憎らしい鼠を侮っていた所為で。


誰を殺してもどれだけ殺しても、白の幻想は何時までもぼくを解放してくれない。


三年で、ぼくは白が居ない事に耐えられなくなった。

人間だった頃から、白の為だけに、白が居たから生きていたのに。

それを何処かで忘れて、白が居る事を当たり前に思って。

そして失った。


ぼくはどうしようもないくらい、弱い鬼だ。

幻想が離れない。夢現の境界が定まらない。


ぼくはもう限界だ。

一人で皆の頼りになれる程、ぼくは強くない。

強くないぼくが、白を失ったまま白が居ない悠久の時を過ごすなんて、気が狂ってしまう。

いっそ、狂った方が楽かもしれない。


でも、ぼくが狂うことはできない。

そんな事をすれば、白の存在は忘れられてしまうから。


「ど、どうしたのさ?」


黙りこんで、考えていた所為で伊吹のに心配をかけたらしい。

ぼくは小さく謝ると、その場を静かに立ち上がった。


「白を、直してくる」


返事は、聞かなかった。

違う。ぼくは、聞こうとしなかった。

聞こうとも思わなかった。


──弱い鬼には、聞く資格もないから。




今回短くてすいません。

これだけ挙げとかないと気味の悪い区切りになりそうだったので


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