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東方史萃譚  作者: 甘露
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六五八年

グロ注意




***




   六五八年 新春




***



入鹿とか言う重臣を殺して新しい大王が即位した、なんて報せがぼくと伊吹のの大枝山にも届いたのはもう十二年前。

そしてその大王がぽっくり逝ったのが一昨年の話。それらはぼくには割とどうでもいい話し……と言う訳でも無かった。


人間を気付いたら止めていた身、ぼくに人間の権力闘争とか政権とか、そういうきな臭い話題とは無縁だ。

つまり、元々そいこらの農村の忌み子だったから無縁だったぼくの立場はなんにも変わって無い。

だけど、帝が変わることでぼくに、ぼくらに直結して関わって来る問題がある。


仏教の布教だ。


寺は全国に張り巡らされ始め、日に日に精霊と物の怪と土着神たちは弱っている。

さらに先代大王は仏法を尊び、神道を軽んじた。

何かと付けて仏像を作ったり寺を作ったり、山口大口という冗談みたいな名前の人間が詔を受けて千仏の像を刻んだり。


つまりそれは、この広大な倭の国で神には信仰を、妖怪には畏怖をささげる人間が減るという事。

格が違う全国に信仰の源を持つ連中は仏教の仏様とも張りあって居られるらしいけど、ぼくの身近なところに居る様な妖怪達は皆消滅の危機だ。

ちなみに格の違う連中というのは、この国の信仰の覇者で大王家の祖神であり太陽神でもあり神の大王でもある伊勢の神宮の主とか、伝説時代よりも古から東の諏訪の地を始め各地で信仰されて建御名方八坂神に負けて服従を強いられた筈なのにそこらじゅうに分社を持つ諏訪のミシャグジ神とかだ。


そんなトンデモ強者以外の八百万の神々はや妖怪は信仰と畏怖が失われる事で真綿で首を絞められる様に弱体化し始め、

そこらじゅうに建造され始めた寺院や仏像から襲いかかる下級の、と言っても十二分に強力な仏の使者に苦しめられる毎日。


それらはもちろん、それなりに悪名轟くぼくや伊吹ののところにも襲いかかって来ていた。

もちろんはしたの連中程度には負ける訳が無いが、それでもこう数日に一回それなりの規模で繰り返し襲われると気が滅入る。


「兄」

「どうした白……って、白、右腕は?」

「爆」

「身体は無事か?」

「辛」

「そうか。直してやるから休め」

「了」


人手不足で起こした白も、最近はずっとこんな様子だ。

頭か心の臓さえ残っていればどうにでもなるとはいえ、守りたい筈の白にこんな事をさせてばかりのぼく自身に、ぼくはどうしようもなく腹が立った。


「おやすみ、白」

「ん、兄」


ぼくのおやすみ、って言葉で白はすぅ、と眠りに就いた。

生きている頃と変わらない可愛い寝顔と、肉と骨がむき出しになった右の肩。

凄く痛々しい。とても胸が痛くなる。直ぐに白のこの状態を治してあげなくちゃ、そう思う。


ぼくは白を抱きかかえると、ねぐらに向かった。



**



「あ、大枝の! 白は大丈夫?」

「右半分が傷ついただけだ。ぼくの力で何とか出来る」

「良かったぁ」


心配そうに駆け寄ってきた伊吹のを安心させる言葉をぼくが言う。

伊吹のはそれを聞いて、一つ小さく安心の溜息を吐いた。


「伊吹の、何匹捕まえた?」

「四匹しか捕まえらんなかった。ごめんね」

「いや、もう聞きだす情報もないだろうし、四匹も居ればぼくが白の身体の部品を作るには充分だよ」

「そっかー、じゃあ私一匹目持ってくるね」

「あ、待って伊吹の。どうせだし四匹持ってきて」

「全部使うの?」

「うん。そろそろ白も交換しなきゃいけない部分があるから」

「分かった」


伊吹のが奥に進んでいって、そして両の手に鎖を持って、直ぐに戻って来た。

ぼくたちのねぐらはそんなに大きなところじゃないから、まあ当然といえば当然だ。


「ほい、大枝の」

「ありがとう」

「うんにゃ、それじゃあ、はじめよっか」


そう言って、伊吹のの視線は鎖の先──地面を引き摺られここまで連れてこられた四匹の大陸妖怪(仏の手先)へと向けられた。

連中はとても気が強くて、最初からぼくたちの事を見下している。それは今も変わらないみたいで、皆女の子らしい可愛い顔を憎悪で歪めていた。


ぼくが最初の一人、鼠の妖怪に手を伸ばすと……。

何故かはらり、と噛ませていた猿ぐつわが落ちた。

どうやら噛み千切られたようだ。


「君は一体どれだけ無礼を働けば気が済むんだい? 私達は毘沙門天様の御使い、この地の未熟で愚かな人間達に信仰と言う光明を届ける為に遣わされた使者なんだよ。

 それを縛りあげ猿ぐつわを噛ませ汚い牢獄に放り込む、そんな事をして許されると思っているのかい? 早く私達を解放しなよ、そうすれば君たちに選ばせてあげるから。ここで私達に殺されるか、都へ連行して」

「五月蝿い」


ぼくはこの鼠の並び立てる小難しい言葉を聞くだけで頭が痛くなる気がした。

伊吹のも同じ様で、なにやら眉をしかめて鼠を睨んでいる。


「……なるほど、従う気は無いって事だね。分かった、じゃあ」

「五月蝿い、とぼくは言ったんだ。黙れ」

「なっ、君如きが私達に命令するな! この物の怪が!」

「五月蝿い、と言っているんだ。三度目だ、もう次は無い」

「ハッ! 次が無いなら何だって言うんだ。野に住む下等な君達にされる事なんてたかが知れてるね。

 いいか、私達は鼠だ、もうじきに眷族達が来てお前たちを殺してしまうぞ」

「次は無い、と言った筈だ」


いい加減、ぼくの我慢は限界だった。

最初からぼく達を下にしか見ていない傲慢な話し方も、再三の要求も全部聞く気が無いこの嫌味な鼠の態度も。

本当はもう少し楽に殺してやるつもりだったのに、そんな気もぼくの中では失せてしまってた。


「伊吹の、誰かの右腕頂戴」

「あいよっ」

「は? 君は何を言って」


ぽかん、と口を開けた嫌味な鼠の後ろで、誰かが凄い唸り声を上げた。一緒にぶちぶちと鈍くちぎれる音も聞こえた。

猿ぐつわが無かったら、隣の山まで響きそうなくらいだ。

一瞬で顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。可愛い顔をしてたのに、もうそんな面影なんて何処にもない。


「ほい」

「ありがとう。……うーん、使えない訳じゃなさそうだけど、微妙」

「そっか、ならあと二本右腕はあるし、そっちも試す?」

「そうする。白は大切だから、良いものを使わなきゃ」

「き、君達! 一体何をしでかしたか分かってるのか!?」


そこで、今までぽかんと呆けていた鼠がやっと状況を飲み込めたらしく声を荒げてきた。


「五月蝿い、黙ってろ」

「生きたまま腕を捥ぐなんて! 君達は最早許される事は無くなったんだぞ! 死してなお呪われる運命に」

「お前達がこの地の物の怪や神霊を殺戮して喜んでいるのと何が違うんだ、侵略者どもめ」

「……ッ、し、しかし! こんな鬼畜の所業を」


ぼくのした問いにたじたじになって答えた台詞は、伊吹のの琴線に触れるものだった。

さっきから我慢していたのも相成って恐らく、この鼠は一番むごたらしく殺されるだろう。


「あんた、馬鹿? 鬼畜って言ったけどさ、私達って、鬼なんだよ?」

「ひっ……」


伊吹のの小さくてとびきり可愛らしい全身から、ぼくでも後ずさりしてしまう様な殺気が溢れてくる。

鼠達はこの気にあてられただけでも死んでしまうかもしれない。


「それにね、私達は誇り高い鬼なの。

 オマエラみたいに不意討ちもしなけりゃ態々市中引き摺り回して恥を晒させた後に首を跳ねるなんて真似もしない。思いだしてみなよ、私、あんたとどう戦い始めた? 名乗りを上げて、私が誰か言って、それからだったでしょ。正々堂々戦ったんだよ。 そして、私達は戦った相手に敬意を払うんだよ。どんだけ弱くても、立ち向かってきた相手だからね。弄り殺したりせず、ひと思いに首を跳ねてあげるさ。

 まあ、よっぽど馬鹿にされなきゃ、覆ったりはしないね。……だけどお前は、私を怒らせた」


伊吹のは本当に怒っていた。

ぼくも言いはしなかったけど、鬼を侮辱するあの発言に内心煮えくりかえる思いだった事には違いない。

じゃなかったら、ぼくが幾ら鬼で鬼畜であっても、生きたまま手を毟り取るなんて真似はしない。

白の身体に必要なのは肉体だけだし、それなら死体でも十分事足りる。


「お前は、鬼を侮辱した! 誇りを穢し、私達をそこらの雑魚と同列に並べた!

 鬼を侮り、あまつさえ己が格上の如く振る舞った!

 何よりお前は……大枝のを侮辱した!! 私は、それを決して許しはしないぞ。

 鼠風情には過ぎた言葉の罰、その身で受けて絶望して死ね」


どうやら伊吹のは、ぼくの事で必要以上に激昂しているようだ。

それがぼくには、堪らなく嬉しかった。

まだぼくは、伊吹のの問いに答えを出せないでいた。六九点より上は、一度も出なかった。

今、伊吹のが鼠に怒っているという事は、まだ伊吹のがぼくの答えを待っていてくれてる証拠だ。

伊吹のがぼくを思ってくれているという事だ。そう思うと胸の内がじわりと暖かくなった。


「大枝の、次はどうするんだい?」

「あ、ああ。とりあえずあの鼠は置いといて他の二人の腕を貰おう」


丁度何かが、ぼくの中で答えが掴めそうになった拍子に伊吹のに声をかけられた。

当然ぼくは思考を中断する。残ったのは喉に小骨が引っ掛かったままの様なむず痒いもやもや感だけ。

すごくイライラする。答えが掴めそうだったのに、掴めなかった所為だ。だけど伊吹のは何も悪くない。

だからぼくは、このやり場のない感情を鼠どもに向ける事にした。


「りょーかいっ」


伊吹のの返事に、鼠どもはうめき声を上げた。

両の眼からはぼろぼろと涙をこぼして、芋虫みたいに左右に身をよじっている。

そんなことしても、無駄なのに。


「や、止めろ! 君達、これ以上すると本当に!」

「伊吹の、やっぱり一人はいいよ」

「なんでさ」


わめく鼠を無視しながら、ぼくは伊吹のを制止した。

伊吹のは不満げにぷくっと頬を膨らませて、ぼくに不満を訴えかけてきている。凄く可愛い。

逆に喚いてた鼠と、伊吹のが手をかけて無かったもう片方の鼠は明らかに安堵の表情を見せた。


──ぼくの背に、ゾクゾクと鋭い快感が走った。一寸の間の後に、こいつらの表情がどう変わるか、ぼくには予想が付いてるからだ。


「ぼくが直接、分解するよ」

「!?」

「なるほどね」


喚き鼠は大きく眼を見開いて、そしてがたがたと震えだした。

ぼくが指をさした鼠は、飛び出しそうなくらいに目を見開いて生まれ持った全力で大暴れをしていた。

顔は涙だか鼻水だか涎だかなんだかもう分からないくらいくちゃくちゃで、導師服の下半身は失禁と脱糞した所為でこっちもぐちゃぐちゃだ。


ぼくの血肉が沸き躍り、ぼくのなかの鬼の残虐性がむくりと顔を出した。

こいつ等を、破壊してしまいたい。そんな衝動がぼくを蝕んだ。


「……も、もう、止めてくれ……いや、止めて、ください……お願いします」

「嫌だ」


今更謝って何になるというのか。もう伊吹のもぼくも殺る気でしかないのに。


真っ赤な血色の美酒を絶望と悲鳴の肴で頂く。

実にぼくの中の鬼が喜びそうな宴だ、そうぼくは思った。




早く帰れたので早く投稿です。


東方二次で登場する萃香ちゃんには基本鬼っ娘成分が足らないと思うんですよ。

いやああいう『にゃははは!』とか言ってるだけの炉利ババア萃香ちゃんも可愛いからアリなんですけどね?

こう、ぐっちょぐちょでリョナリョナしいグロい事平気でする鬼って感じでは無いですよね。

人攫いなんて攫われたら確実に死ぬんですから、やっぱそれが習慣な生き物の鬼ってのはグロい事大好きだと思うんですよ。

食べたりとか、解体したりとか、百舌鳥のはやにえ宜しく木に突き刺してつるしたりとか。

だから寧ろ東方二次ssだとルーミアが一番鬼らしい気がしないでもない様な。


尤も、主人公は聊か奇猟的ってレベルじゃねーぞってなってますけど。

作者もドン引きしながら描写するレベルです(笑


次は恐らく日曜です


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