表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方史萃譚  作者: 甘露
3/40

六三五年


   六三五年 冬



***



伊吹のが山で暮らし始めて、もう結構な時間が経った。

ぼくは、未だに答えを出せずにいた。

伊吹のがぼくに出した、あの問いへの答え、伊吹のがぼくに尋ねた、あの気持ちへの答え。

もうすぐ、問われてから十年。一昔前のことに、未だ答えを出せない自分に、ぼくは不満を感じていた。


でも、十年という未だ五十年ぽっちしか生きてないぼくにしては膨大すぎる時間を経ても、

全く揺らがない初めての嬉しさと、相変わらずぼくと居て答えを待ってくれる伊吹のに、ぼくは何処か安心を感じていた。


「……雪」

「おっ、今夜は雪見酒だね」


伊吹のは、あれから全く成長しなかった。

出会いがしらにこれから大きくなるんだ、と宣言されたのは今でもよく覚えている。

だけど、結果は……言わずもがな。伊吹のに言わせれば「神は死んだ」だそうだ。


神とは死ぬ存在なのだろうか?

ぼくは神に会ったことが無いから分からない、だから伊吹のに聞いてみた。

答えは「そう言う表現があるんだよ」と言っただけで、何故かへそを曲げられてしまった。


「何にやにやしてるんだい?」

「少し、昔を思い出してただけだ」


こういう時、咄嗟に誤魔化せない鬼の性分で何度伊吹のに殴られたか。

最近になってぼくもやっと、本当の事の一部を言えば良い、という事に気付いた。


「ふーん……。一体何を思い出してたのやら」

「……酒が旨いな」

「あっ、こら! 話を逸らすな!」


それと、言わなければ嘘にすらならない、って事もだ。

なんだか鬼と言うより、小狡い人間みたいだな、とぼくは自分で思った。


「……あ、その、それでさ」

「なんだ?」

「答え、出た?」


一日に一度は聞かれるこの問い。ぼくはそれがあることで、何処か安心をおぼえていた。

このままじゃ進めない、と分かってはいるのに、この丁度いい関係が続いて欲しいともぼくは思ってる。


「……分からない」

「そっか」

「なあ、伊吹の。ぼくは伊吹のが欲しくて、他の誰かのところに行ってしまうのが怖いと思っている。というのは答えにならないのか?」

「何度も言ってるけど、それだとやっぱり五十点かな」

「残りの五十を見つけるのが、ぼくの課題か」

「そだね」

「そうか……」


今日も答えは出なかった。

ぼくはこうして、ゆっくりと死んでゆく様な毎日を、何時まで過ごせるのだろう。



**



「ぬおお、降ったなぁ、大枝の」

「大枝山が真っ白だな、伊吹の」


ねぐらの入り口から吹き込む冷気に誘われて目を覚ませば、大枝の山は一面の雪化粧だった。

昨夜悠長に風情があるねなんて言いながら、ぼくと伊吹ので雪見酒をしてたあれは、どうやら一晩中続いたらしい。


一面白だと、ぼくは白の事を思い出した。最近、ここ一年くらいは起こしてないな。

それにしても、まっさらな処女雪がきらきらして、とてもきれいだ。

ん……? そう言えば……。


「こりゃ良い肴だね、大枝の。大枝の?」

「なあ伊吹の」

「なんだい突然黙りこんじゃって。それよりもさ、この景色を肴に一杯ってのもオツじゃないか? んぐ、んぐ、んぐ」

「お前は処女なのか?」

「ブボッ!? ゲホッ、ごほっ、な、なな」

「……違うのか?」


ぼくはふと、伊吹のが今までに交尾をだれかと交わしたのかが気になった。

ぼくも白も、人間だった頃は忌み嫌われていたからそんな事は無かった。

鬼と死体になってからもここ十年で移り住んだ伊吹の以外とはほとんど交流が無かったから当然ない。

だけど伊吹のはどうなのだろうか。ここに来るまでに誰かと、あるいはここに住んでからも誰かと、

そういう機会があったんじゃないかと思いだすと、ぼくはとてつもない不安に襲われた。

多分これは、ぼくは伊吹のが、誰かのところに行ってしまうんじゃないか、誰かに盗られてしまうんじゃないかと不安になる心と一緒だと思う。


「なに面と向かって聞いてんのさこの変態っ!」

「しかしこれは伊吹のに聞かなくては分からないだろ」

「っ……そりゃ、そうだけど」

「で、どっちなんだ?」

「…………だよ」

「なんと言った?」

「処女だよって言ったんだこの朴念仁!!」


真横で鬼の大声、ぼくは耳がキーンとなった。

しかしそんな大声で言って良いのだろうか。三つ隣の山まで聞こえそうな大声だ。

兎も角ぼくは、伊吹のの言葉で、すとんと安堵がおりて来た。


「そうか。良かった」

「っ!」


その安堵をぼくが素直に言葉にすると、伊吹のは何故か照れたように指を合わせもじもじし始めた。

……正直、すごく可愛いとぼくは思って、気付けば伊吹のを抱きしめていた。


「わわっ! ど、どうしたのさ……」

「ぼくも分からない。伊吹のが可愛くて……抱きしめて捕まえておきたいと思った」

「っ、あ、ありがと……」


その瞬間、ぼくは稲妻に撃たれたような衝撃が、背中を走り抜けるのを感じた。

そうか、ぼくの感情は……!


「伊吹の、分かったぞ! ぼくは伊吹のを独り占めしたいんだ!」

「う~ん……六十九点」

「なんと」

「もう二息だね」


十九点上がった事を喜ぶべきか、それとも正解じゃ無かった事を嘆くべきか。

……欲張らず、十九点上がった事を喜んでおこう。ぼくはそう思い、伊吹のに答えた。


「そうか……」

「どうしたのさ、暗い声なんかしちゃって」


どうやらまだ答えにたどり着けなかった、という内心が上手く隠せなかった様だ。

ぼくは隠しても仕方ないと思い、伊吹のに全部を伝える事にした。


「ぼくは十年もかかって一歩進んだだけで、次の一歩を進む前に、伊吹のがぼくの独り占めできるところから、居なくなってしまいそうに思えて」

「それ以上は言っちゃ駄目」

「む……」


喋るぼくの唇は、伊吹のの人差し指で押さえられた。


「大丈夫、私はどこにもいかないよ」

「いぶ──っ!?」


呼ぼうとした名前を、ぼくは最後まで言えなかった。

伊吹のの唇で、ぼくのくちは塞がれてしまったから。


「ん、ちゅ……ふぁっ……にへへ、初めての接吻、あげちゃった」

「伊吹、の……」

「だからね、大枝のが答えを出すまで、私、待ってるから」



初めての接吻は、どこか甘いお酒味だった。




****



ちゅっちゅしちゃったよ萃香ちゃん割と素直に好感さらけ出して可愛いよちゅっちゅ



大変お見苦しい姿、申し訳ありませんでした。

これで序盤までに必要な下地作りは終わり、次からいよいよ歴史介入が始まります。


次の更新は二日後。土曜の深夜になります。

では。



追記:東方史萃譚の作者小話(世界観などの簡単な説明) 

http://suicaorz.blog52.fc2.com/blog-entry-33.html

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ