六七一年 10 十月十六日
グロ注意
一部改訂し、原版はノクターンに移動しました。
「さあ皆、主賓の登場だよ! 歓迎してあげよーね!」
小さな鬼の明るい声が開けた場所に響いた。
途端に私に集まる、多数の視線。
獣欲のこもった下劣な視線、今にも殺されそうな殺気に溢れた視線。
未だ生きている部下の絶望した様な視線、逆に縋る様な視線を向ける部下もいる。
私は耐えられず、目を下に反らした。
殺気も欲望も、仲間の期待でさえ私には重すぎる。
ただ、彼の助けを待つだけの私には……どうしてやる事も出来ないから。
済まない。本当に済まない。
だが耐えてくれ。耐えてさえくれれば、必ず……。
誰に向けるでもなく、自分への言い訳に懺悔を繰り返す。
私は最低だ。
部下たちを見捨てたも同意の行為だ。
「跪け」
不意に加わる背中からの衝撃。
両の手が塞がった私は、そのまま無様に地に膝を突いた。
「これ誰だと思う? 聞いてびっくり、なんと尖兵共の頭、梵天ちゃんでーす!」
「痛っ……くっ。私を辱めるのか」
前髪を掴まれ無理やりに顔を上げさせられる。
見た目通りの幼い甘い吐息が肌を撫でた。
「ああそうだよ。敗者には敗者の様ってのがあるんだからね。
見てよ、この無駄に整った容姿。こんな澄まし顔で私達の事“邪鬼”だなんて蔑んでたんだよ。腹立つよねぇ、皆?」
小さな鬼がくるりと群衆に振り返る。
殺気が、欲望が、爆発した。
「殺せ! 殺せ! 殺せ!」
「あいつっ! あいつだ! 名何と不一を殺した奴だ!」
「なんだって!? 赦さない……絶対に許さない!」
「その糞アマを絶望させてやれ!!」
「死ね! 苦しみ抜いた果てに無残に死んでしまえ!!」
男も女も関係ない。皆が私に等しく殺意を向ける。
どうしようもなく怖かった。
手枷さえなければ、この状態でも殺せるような存在が半分以上なのに、それでも。
向けられた殺気の群れに、私の足は竦んで震えた。
歯の根がかみ合わずカチカチと音を鳴らし、全身の毛穴が栗立った。
「あ……」
そして太股を、生温かい液体が多量に伝い落ちた。
寄り代から具現化した身の私達には器官としてだけ存在し、使用すること等ない筈の尿道から、私は失禁したのだ。
「あ、あ……っ」
「おやぁ? どーしたのっかな、梵天ちゃん?
くんくん……何だか少し臭いねぇ、誰か、“おもらし”しちゃったのかなぁ?」
小さな鬼のその言葉から、巻き起こるのは笑いの渦。
腹を抱え爆笑する者、指を指し嘲笑う者、惨めな姿に鼻で小さく笑う者。
未だ嘗て無いその辱めは私の心を順調に蝕んでゆく。
「……いっそ、これ以上辱められるくらいなら」
「駄ぁ目、まだまだ楽にはしてあげないよ。百手、犯れ」
「ん゛むっ!?」
不意に口の中に入り込んだぬめり蠢く太い何か。
歯を立てようとも退く事は無く、それは私の口腔を完全に塞いでしまった。
「どうだい? どぶの底から生まれた下賤な妖怪の味は。
人間もおかしなもんだよね、タコとかイカがが居るならもっと気持ち悪いこんなのも居るよね、なんて百手を考え生み出しちゃうなんて」
「うぶっ、ぐ、ふぅぅ……」
「ねえ、妖怪ってそんなに居ちゃいけないのかな。
あんた達みたいな侵略者に、駆逐されなきゃいけないのかな?
あんた達は、コイツみたいな生み出されただけ、考える事も出来ない哀れな妖怪を殺すそんな権利、持ってると思ってるのかな?」
ぬめる触手が私の身体を這いまわる。
首筋に、腕に、脚に、乳房に。
「……っと、いい感じに卑猥に絡まって来たね。おお、卑猥卑猥。
いいよ皆。こいつの事、犯しちゃえ」
そして陵辱が始まった。
**
数刻後。
ぼろきれのように、心も体もずたずたにされた梵天。
目には光を灯さず、晒された愛おしい部下の首を抱きしめ、うわ言のように何かを呟いていた。
「壊れた……か。
女としては、一抹の同情を感じざるを得ないけど。
ごめんね。だけどこれ戦争なのさ。
……おい、頚を落としてやれ。一思いにね」
**
「酷いもんだねえ」
「っ……この様なことが、うぷっ」
「君、いいよ。吐いてすっきりしてからまた合流しなよ」
「あ……はい、ありがとうございます」
早朝、報告の途絶えた梵天様の様相を見に来て見れば……。
私は少々言葉を失った。
「……理性的なケモノ、だね」
「理性的な獣、ですか?」
私の知っている彼らはただ群れるだけしか能のない獣にも等しい存在だった。
それがふたを開けてみればどうだ、明らかに統率された戦闘の痕跡と、戦意高揚の為の処刑と陵辱。
正確な戦闘能力の分析と徹底的な情報解析に基づいた戦闘行為の実行。
「ああ。しかも飛びっきり賢い奴が居るよ。それこそこんな島国の妖怪に生まれるべきでなかった様なね」
「それほどまでに、ですか?」
理解できない部下に、目頭が熱くなる。
もちろん切なくて情けないからだ。
「それほどまでに、だ」
「はあ」
生返事にため息も出ない。礼儀作法やら媚び諂う方法覚える暇があったら勉強して欲しいものだ。
確かに大枝山のあの二体はとんでもなく強い。
私程度じゃ相手にならないことは確実だろうし、正直今のこのヤマトに渡っている御仏の方々でも張り合えるのは数名、確実に斃せるのはお二方しか思い浮かばない。
我が主毘沙門天様でも精々五分が良いところだ。
だが、それだけだ。
そんな相手には数の利を生かせばいい。連携の取れぬ馬鹿を各個物量で押しつぶせばいい。
「知恵を持つとやっかいだ、愚民政治が一番安定するってのは本当だね。私は実感したくなかったけど」
「愚民政治ですか?」
疑問符を浮かべるどうしようもない部下に同情の視線を送る。
私達は知恵を持つ機会があるのだから……はあ。
兎も角、物量で押し通すのは、今回で不可能と分かったが。
梵天様は私たち尖兵妖怪や尖兵獣が存在する世界の上、天界に名を連ねる方だ。
その方が直接率いる隊が殲滅されたのだ。
今のところ確認された敵妖怪の死体は六つ。
どれ程の規模だったかは推測の域こそ出ないが、おそらく敵数は百以内。
対する梵天様配下は昨日の時点で百と五十六。
どう控えめに見ても殲滅されたこちらの完敗だ。
尤も、相手にも大した余剰戦力は無いと過去の大枝邪鬼の縄張りで行われた戦闘から推測できるが、だからといって我々に余裕があるわけでもない。
南海の地(四国)や熊襲に東国、東海沿岸に北陸蝦夷。
ヤマト中に同胞は散らばり戦闘をしている。その所為で中心は逆に手薄なのだ。
精々集めて三倍、六百の尖兵が限界だ。もちろん文字通り一騎当千の力を持った御方も居るが、まあだからなんだと。
しかし彼ら原住の妖怪たちは優に千を超える。もし、この地で彼らが蜂起したとすれば。
知恵を持った獣が、指導者の元一斉に蜂起したとすれば。
妖怪という存在の根源から考えてあり得ない、とタカを括って来た私達の認識を改めねば……。
「──様! 御大将の亡骸を発見いたしました!」
「ああ。分かったよ、案内してくれないか?」
「はいっ」
我々は、この惨状の中で息絶えた同胞と同じ末路を辿るかもしれない。
そして、私はそれを見た。
眩いばかりに輝いていた容姿、一騎当千、万夫不当と讃えられた武勇。
そんな面影を残す事無く。
白濁と血反吐に塗れたその姿。
侮った者の、なれの果て。
「愛した部下の首を抱えた、陵辱の果てに息絶えた首無しの亡骸……ねえ。
大層な悲恋物語だけど……梵天様、貴女様は愚かだよ」
私は静かに、その亡骸の前で手を合わせた。
流石鬼、鬼畜だ鬼
R-18描写のあった部分はノクターンに移動しました
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では




