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東方史萃譚  作者: 甘露
15/40

六七一年 3



その光景を茫然と見ていた私は、何処か非現実的な感覚を感じながら、けれど目を離せず見つめていました。


私の様な変わり者の下っ端天狗とは違い、圧倒的な力と存在感を持つお山の主、大枝様が。

これでもか、と大粒の涙を流しながら、噂にだけは聞いたことのあった大枝様の最愛の、妹君を。


──お山の為に、己と決別するためだけに、貪り喰らうその姿に。


骨が砕け、筋肉が裂ける生々しい音。

友人には人を喰った事のある娘も居ますし、真白様が愚かにも天狗を侮辱した人間を弄り殺した後に喰った姿をじかに見た事もありますが。



……それらは、こんな、悲しく胸の痛い行為ではありませんでした。



やがて、精巧に作られた人形の様なその妹君の御顔を残して、大枝様の手は止まりました。

何故私はここに呼ばれたのでしょうか。今更になって、恐怖が駆けあがってきました。


こんな洞窟の奥では逃げる事もできません。

もしかしたら、私は妹君の身体に……。そんな悪趣味な想像さえ溢れ出ます。

天狗の内で算術だったり被害の統計をしてたりするのは私しかいません。つまり私は変わり者。

大枝様はもしかして、変わり者が一人居なくなるくらい構わないと考えて私を呼んだのでは……。


そう思いいたると、もうそうだとしか考えられません。

どうしましょうか、私はどうやら人柱になる様です。天狗なのに人柱、これ如何に。

って、クソつまらない事を言ってる場合じゃ──。


「おい」

「は、ひゃいっ!?」

「どうした、素っ頓狂な声を出して……。ああ、安心しろ、お前を取って食いはしない」


これは安堵すべきなのでしょうか。

寧ろしなければならないですね。下手に機嫌を損ねたくもありません。



──なんて、一瞬でも思った私は馬鹿だったんでしょう。

  我らがお山の主の器を、私はこの時、ひしと感じる羽目になりました。


「お前は、統計とか比例という言葉を知っているか?」

「へ? え、ええ。そりゃ勿論ですよ。私はそっちの術に関しては誰にも負けてないつもりです」


尤も、理解者も好敵手も居ないので独り相撲もいい所ですが。

そんな自傷的な台詞も、大枝様の一言で露と消えました。


「そうか、ならば喜べ。

 天狗、お前の得意な統計の結果を、全て教えろ。

 ──お前を、ぼくの頭脳にしてやる」



**



私と星熊のが騒いで馬鹿やって、暫く立った頃。



「全員、静まれ」



五月蝿かった筈の広場が、決して大きくないその一声で、水をうったように静かになった。


その声は、どれだけ大声を出していようと頭の中まで届いて。

その声は、従わなければ一寸の後には殺されているかもしれない、と各々に感じさせた。


非情な、鬼。

一声聞いただけで、私はそんな印象をうけた。


肌が震える様な威圧感を感じながら、私は声の方向へ振り返る。

……居たのは、大枝のだった。


立ち振る舞いも、顔立ちも、声色も。

何もかも変わらない筈なのに、誰だか分からない。数刻前とは明らかに何から何まで違う、そんな大枝のが。


声が出なかった。


こんなに変わるなんて何があったの、とか。

洞窟の中で何をしてきたの、とか。


疑問は尽きる事無く溢れ出てくるのに、それを口に出せない。

どうやら、とても情けない事に私は怖いらしい。

あの中で何が起きていたのかを知る事も、その引き金が私達だったんじゃないかという事を聞く事も。

……聞かなくても、あの変化が全てを物語っているから、私は怖い。


大枝のは、過去と決別しようとしたんだろう。

だからあの洞窟に再び入ったんだ。そこで……大枝のは、一体何をしたのか。


ふと右を見ると、星熊のと目があった。

あの星熊のが、つうと一つ、汗を流していた。

熱気のこもったソレじゃあない。冷や汗だ。


私達は互いに頷き合うと、そろって一歩前へ出て大枝のへ口を開いた。


「お、お帰り大枝の。一体どうしたのさ」

「あんたがそんな物言いするのって珍しいね。あたしらは全員集まって静かにしてるよ。言葉を続けておくれ」


緊張と怯みそうな心を悟られないように、私達は声をかけた。

少し大枝のの眉が訝しげに上がりはしたが、どうやら上手く声を掛けれたようだ。



「ああ、そうだな。皆聞いてくれ。

 ぼくは、これから侵略者共に反転攻勢を仕掛けたいと思う」



散歩に行くから付き合ってくれ。そんな軽い調子で言われた一言の所為で。

上手く言えた、そんなちっちゃな安堵は一寸と持つ事無く、その言葉で崩れてしまったけど。



**



「ど、どういう意味さ!!」

「言った通りの意味だ。もう無残にやられるだけの日々はお終いにすべきだ」


最初に声を上げたのは伊吹のだった。

はて、ぼくはそんなに可笑しな事を言っただろうか?


「そうじゃない。大枝の、あんた現状を理解して言ってんのかい?」


次に歩み出たのは星熊のだった。

腕を組みながら、威圧感を振りまきながら。

ずい、と何処かから聞こえてきそうにゆっくりとぼくの前に立った。


「このお山はね、あんたが籠ってた内、十日に一度の間隔で襲撃に晒されてたんだ。

 見てみろよ! 天狗や河童の中にどれだけ傷を負った奴が居るか!」


そう言って、周囲を見回す様に両手を広げる星熊の。

だけどぼくはそれに少しも反応しない。


「知っている。負傷者の統計も聞いた。どれだけが死んで、どれだけがここを離れ誰が翼を失い誰が腕を失くしたか。

 この鴉天狗の統計を見て把握した。

 敵戦力の規模と報復攻撃の質と規模、それらに比例した被害の大きさと相手へ与えたであろう損害。

 全てを考慮したうえでの決断だ」

「は? とーけい? ひれえ? なんだそれ」


星熊のと伊吹のが聞きなれない言葉に首を傾げた。

ぴったり揃っている様を見るとぼくはまるで親子だと思ったが口には出さないでおいた。


「大陸の算術用語だ。白を直そうとしていた頃に一つの方法として、と。そんな事は今はどうでもいい。

 兎も角だ。この天狗の纏めた情報のお陰である程度裏付けされた戦略が作れたんだ」


そう言ってぼくはその天狗を前へ押す。


「あれ、大枝様、私も前に出るんですか?」

「軍師が引っ込んでてどうする。大陸の“三国志”の軍師はどうしていた」

「対比が無茶じゃないですかね、それ」

「文句あるのか?」

「いえっ、ありません!」


何故か始まりかけた三文芝居を早々にうち切ると、改めてぼくは群れの連中に向かった。


「ならいい。知っている者も居ると思うが、改めて紹介する。

 恐らくこの山で一番の賢者であろう天狗だ」

「……どうも、初めまして。翼が黒いので烏天狗と名乗ってます、身内ではやや(やや)と呼ばれています。名前の由来は口癖です」

「という訳でややだ。彼女を頭脳に、ぼくは侵略者へ反転攻勢を仕掛けたいと思う」


そこで言葉を切ると、視界の隅で何か小さくて可愛いものが跳ねた。

というか手を上げた萃香が跳ねて懸命に自己表現していた。


「はーい、はーいっ大枝の」

「なんだ、伊吹の」

「そいつが凄いってことも、大枝のが自信あるって事も何となくわかったけど、具体的にどうやんの?」

「それは今から説明する。

 さっき、ぼくが現状を把握した時、このままじゃじり貧で負ける、ぼくはそう思ったんだ。

 繰り返される襲撃と終わりの見えない闘争、数の少ないお山が向こうに押しつぶされるのも、時間の問題。

 それは二人も分かるだろう?」


伊吹の、星熊の、真白の。そして最後にややを見る。

皆各々に頷いた。


「だけど、援軍なんて来る事もないだろうし、神社や違うお山の連中が手を差し伸べてくれるかと言えばそんな事も殆どない。

 ならば、ぼく達はどうするべきか? 伊吹の」

「ふぇ!? わ、私!? え、えっとー……んー……と、あっ! 余所の山を占領して兵隊を集めるってのはどうだい!」

「五点ですね」

「何だとこの天狗」


ぼくでも首を傾げたくなるような提案を、ややは遠慮なく酷評した。


「ややっ!? お、大枝様、伊吹様が殺す気ですっ」

「伊吹の、殺しちゃ駄目だ。半殺しまでなら許すから後でな」

「ううー……で、なんで私のは五点なのさっ!」


ぐずって地団駄を踏む伊吹のは凄く可愛い。

思わず頭をぐりぐりと撫でまわしてしまった。伊吹のも手を払わなかったから了承と受け取っておこう。


「いえ、その……単純にお山が余所の山を攻めるだけの余裕が無いんですよ、はい」

「なんでさ!?」

「襲撃への備えとその度に出る負傷者分の補充員、そして外征用に裂く頭数、それらを合わせると現状ではあと百は足りないんです。

 それにお山への外征はやはり負傷者が出ますし、占領したお山を守備するためにも結局それなりの数を置かなければなりません。

 すると余裕のない現状では、余り得策とは言い難いんです」


割と空気の読めるらしいややは、丁寧に噛み砕いた説明で伊吹のに話した。

まるで母親が娘に何かを教える様な構図だ。


「なるほどね……まあそんだけ考えてんのなら仕方ないかぁ……半々殺し位にしといてあげるよ」

「やや、出来ればせめてもう半分減らして頂けると……」

「さて次、星熊の」


交渉中の中を無理やり切った。

何やらややが小さく文句を零しているがぼくには聞こえない。


「うーん……そうさね、どうせ多数で攻めちまっても勝てないなら、少数精鋭で大将潰すとか?」

「具体的には?」

「……大陸の国?」

「一点です」


度胸があるのか馬鹿なのか。

恐らくややは後者なのだろう。


「来世で会おうな、天狗」

「死亡確定!?」

「落ち着け星熊の。やや、理由を」


星熊をどうどう、と諫めややに続きを促す。

何故か星熊を諫めていると頭を撫でるよう求められたのでそのまま撫でた。

偉く嬉しそうだが、星熊のはぼくと同じくらい背があるから正直肩が痛い。


「は、はい。途中までは五十点の回答だったのですが……その、大陸の(くだり)で」

「何がいけないんだい! 元を断つって何事でも大事だろ!」


星熊のは撫でられながら訴える。が、どことなく緊張感に欠ける。

ぼくはそう思いつつも撫でる手を止めなかった。

真白のが後ろで今にも吹きだしそうなのを堪えていると分かったからだ。

あ、吹いた。

瞬く間に星熊のに殴られているが誰も慌てない辺りなんというか。


「大陸は規模違うんですっ。いいですか、大陸には約一億の人間と二千年前から闊歩する魑魅魍魎、

 岩壁を丸ごとくりぬき作った見上げるように巨大な仏像を拠り所にした仏兵に生き神として人を支配する皇帝、

 そして流れる多くの大河には各々が極めて強力な守護者としての龍が住んで居るんです。

 それらを纏めて相手にして、星熊様が勝てるとおっしゃるのならば止めませんとも、ええ」

「うぐっ、それはちょっと……」

「そうでしょう。そんな事するくらいなら我々が近江の都に集団移住して全国の寺院に喧嘩を売って回って歩いた方がよっぽど現実味があるというものです」


そこでややは、ですが、と言葉を切った。


「少数精鋭で、というのは実に良い案です。私の策の中にもそれが盛り込まれていますし。

 戦力の数が確保できない場合は質で補う、というのは褒められた考えではありませんが間違ってもいません。

 英雄譚となる様なものも、少数精鋭だの背水の陣だのが大好物ですからね」


尤も、そればかり目立つのは成功例が圧倒的に少ないが故ですが。と付け加えややは口を閉じた。


「分かったか星熊の?」

「え、ああ。分かったよ。 しかしアレだなぁ、あたしはあんたの事てっきり唯の地味で変な天狗かと思ってたわぁ」

「それを言うなら私なんて顔に見覚えすら無かったよ? ややっていつ頃加わったのさ?」

「あ、いえ、その、初めから真白様の群れに……」


凄く微妙な空気になってしまった。

ぼくが取り持つように一つ咳払いをすると、皆がはっとしたように顔を上げ何処となく気まずげに視線をさまよわせた。


「兎も角、ややの有能性は分かっただろう。そこでだ、ぼくはややと一つ策を考えたんだ」

「あ、あの、大枝様」

「なんだ?」

「私には聞かないのですか……?」

「じゃあ真白の、お前ならどうする?」

「じきゅ『持久戦をしつつ私達天狗で奇襲をしかけるというのはどうでしょうか?』

「と、こういうと分かっているから却下だ」


因みに真白のの台詞を先取りしたのはややだ。

あの天狗は妙なところで容量がいいなとぼくは思った。

先取りに落ち込んでいる真白のは面倒だから触れないでおこう。


「しかしあの奇襲自体は悪くなかった。そうなのだろう、やや」

「あ、はい。あの法隆寺への奇襲から何度か私も偵察や奇襲に同行させて頂きましたが、

 木製の仏像があったところでは確実に、奇襲による火災で尖兵の能力が落ちていました」

「本当ですかっ!」

「尤も、法隆寺の仏像はほとんどが鉛と銅で出来ていましたのであまり効果はありませんでしたが」

「あの時は追手を振り切るのが大変だったの! 大体ややだって見てたから分かるでしょ!」

「……真白の、お前効果も確かめず唯火を付けてたのか?」

「あっ……えと、その、ふぇぇ」


ぼくが言うと真白のはしどろもどろで涙目になってしまった。


「その、燃やせば少しは被害がでるかな、と。それに部下に被害も出てましたし報復も兼ねて……あ、駄目ですよね、駄目でしたよねごめんなさい」

「いや、寧ろ褒められるべきだ。着想の元にもなったし」

「着想?」


怒られなさそうな事に胸をなでおろしている真白を後目に、

未だ頭を撫でられるがままの小さな鬼っ娘がややに訊ねた。


「はい。放火の後の偵察に私が行った時、少し妙な噂に気付いたんです」

「それは人間の噂かい?」

「あ、はい」


星熊のがそう尋ね、ややが肯定すると、星熊のは少しも隠す事無く不機嫌そうに眉をゆがめた。

嘘だらけの人間の噂が気に入らないんだろう。ぼくもそこには同意するけど。


「もう少し話を聞け星熊の。撫でるの止めるぞ」

「あ、分かったから。手ぇ離したら殴るからなっ」

「何さ何時までも撫でられて、がるるるるっ」

「なんだ、やんのか!?」


何故かぼくの膝の上で始まった鬼同士の喧嘩を故意に無視し、ややに続きを促す。

いつの間にかややを中心に、お山の連中で周りを取り囲む様な状態になっていた。

皆それだけややの話に真剣なのだろう。


「こほん。それでですね、噂の件なのですが人間共がどうやら内輪で揉めている様なのです」

「そんなのいつもの事だろー」


投げ捨てるように言う星熊の。

皆も同意見の様で各々が星熊の言葉に頷いている。


「それを言われちゃどうしようもないんですけどね……。ですが、今回の噂の元は、少し今までと勝手が違うのですよ。

 寺院の復興が、その二人の不仲の噂だけで所為で遅れる様な、そんな人物達なんです」

「へぇ、そりゃすごいけど……人間でそんなに力を持ってるのってなんだっけ?」

「何言ってんのさ伊吹の、そんなの大王に決まってるだろ。

 ……にしても大王って称号は不快だね。ちぃともデカくないんだから小王とかにでもしとけばいいのに」


好き放題言われる大王、と言うのも何となく凄く哀れな感じだ。

それはともかくとして再び脱線し始めた話をぼくは強引に戻した。


「星熊のの言う通り、不仲の噂が流れているのは大王とその弟の、大海人皇子だ」

「はい、二人は最大権力を握った二大人物、と言っても過言ではありませんね」


そこまで言うとややは一度辺りを見回した。

理解したのと首を傾げているので半々といったところだろうか。

河童共は頻りに頷いている辺り、流石の理解力だ。


「やや、貴女何時の間にそんな情報調べてたの?」

「やだなぁ、真白様。一緒に偵察に行った時に決まってるじゃないですか」

「え、でもそんなの誰も」

「皆さんに言っても“人間の噂なんてー”とか言われそうでしたしね。独力で調べてみましたよ。

 五、六回見つかって死に掛けましたけど、まあこうして大枝様に拾ってもらえたし苦労分もチャラになった感じですかね」


“真白様非協力的だったでしょ”、暗に言われたその一言は図星だった様で、真白のは口元を引きつらせながらぎこちなく愛想笑いを浮かべた。

尤も、ぼくも今の状態でなければ同じ事を言っていたであろうから、ちっとも真白のの事も笑えない。

というかややの行動を肯定出来た奴なんてお山に居なかったんじゃないだろうか?


「こほん。やや、続けろ」


また騒がしくなった一同を咳払いで静かにさせると、ぼくはややに続きを促した。


「あ、はい。それでですね、さらに面白いことがあるんですよ。

 ひとつは大海人皇子の出生ですが……これはまあ、この場では然程重要でないので省略です」


つまらない、と大々的に顔に書いてあるややは言う。

ぼくとしては驚きの情報だと思うのだが、その辺りは基本親という概念が曖昧な種族故だろう。

──大海人皇子が、前大王の実子で無いという事実は。


「二つ目は?」

「ふっふっふ、これを調べるのって本当に大変だったんですからね。

 皆様聞いて驚いてくださいよっ!

 大海人皇子はなんと、我々の様な在野の妖怪に信仰の大部分を捧げているのですよっ!」


…………

………

……


「……で?」


嫌な沈黙が数寸流れた後、詰まらなさそうに星熊のが呟いた。

他の面々もどうしたらいいか分からない様子で苦笑いを浮かべている。


「あ、あっれー? 可笑しくないですか大枝様、こんな反応を返される筈じゃあ」

「言葉が足りないな」

「えーっ、でも大枝様は理解したじゃないですか」

「それはぼくの中で大体の方針の枠があったからだ。突然そんな事を言われても困るのが普通だろう」


呆れたように肩をすくめると、ややは信じられない物を見る様な目で辺りを見回した。


「まっさかー、私なら直ぐ分っちゃいますよ?」

「大枝の、あの調子乗ってる天狗を鳥鍋にしてもいいよな」

「ややっ!? 何故星熊様がお怒りにっ!? 助けてくださいよ大枝様っ」


そう言って同僚天狗の後ろに逃げるやや。

盾にされた天狗は瞬く間にこの世の終わりが来た様な顔色へ変わった。


「……お前、本当に賢いのに本格的に馬鹿なんだな。

 良く発言を見直してみろ、あれは暗に『お前らこんな簡単な事も理解できないの? 馬鹿なの?』と言ったのと同意だ」

「つーわけで天狗、あんた鍋の具に決定」

「……落ち着いてくれ、星熊の。ややの頭脳は必要なんだ」


さり気なく星熊のがややを天狗と呼んでいる辺りがおっかないのだと思う。

名前を呼ばれるより種族で呼ばれた方がずっと親しみが無い様に思えるし。


「……ちっ。仕方ないね。頭脳は必要なんだろ」

「ああ、あの頭脳は必要だ」

「頭脳は、ね」

「頭脳は、な」

「まさかの大枝様離反で項羽も真っ青な四面楚歌じゃないですかやだー」


何やらしくしく喚いているが、ぼくはあえてそれを無視する。

あのまま、ややに話を進めさせても進みそうにないのだ。


「つまりだ、ややが言いたかったことはだな。

 大海人皇子が信仰をぼく達の様な存在に向けているという事は、そこにぼくらが入り込む余地があるという事だ」

「……えーと、じゃあ大枝のとややが考えた策って、つまり私達がそのなんちゃら皇子の信仰のよりどころになるってこと?」

「それも正解だ、伊吹の」

「えへへ、正解したからもっと撫でて!」


ころころと輝く様な笑顔で迫る伊吹のは本当に可愛い。

またぼくは伊吹のが欲しくなってきた。……今は自重しよう、と自分に言い聞かせた。


「てめっ、油断も隙もない奴め!」

「油断も隙もあった星熊のが悪いんだよーだ」

「喧嘩するなら撫でないぞ」


ぼくがそう言うと二人ともぴたりと口を閉じた。

扱いやすくて楽なのだが、星熊のってこんな鬼だっただろうか。

等と考えていると、天狗達の一番前に立っていた真白がおずおずと手を上げた。


「あの、その大枝様。

 お言葉かも知れませんが、怒らないで聞いて欲しいのですが……・大海人皇子のよりどころになって、何の意味があるのでしょうか?」

「ああ、それはな──」

「ハイそれはですね真白様!!」


ぼくが半分口を開いたところで急激に復活したややが飛び出し声を遮った。

まるで水を得た魚、自分の策はぜひとも自分で説明したいのだろう。ぼくは声を掛ける事無くそのまま口を閉じた。


「先ずは大海人皇子が今の大王と不仲な事から……と、やっぱり言ってしまっては面白くないですね。

 注目すべき言葉は、大王と皇位継承権を持つ人物二人の不仲、大海人皇子の信仰のよりどころ、そして、誰が仏教の布教を推し進めているか


 この三つ、これが重要なのです」


最後にへむと鼻息を一つ荒く吐くと、これでもかと言わんばかりに自慢げな表情を向けた。

ドヤァ、とややの後ろに文字が見えた気さえする程だ。


それはともかくとして、この説明は実にいいとぼくは思った。

これだけ言われれば自ずと答えに辿り着けるだろうし、そして適度に頭も悩ませられる。


数瞬、無言の時間が流れ、そして──



「……皇位継承者の、謀反」



誰かが呟いた。



「その通り」



ややの口元が、凶悪に吊りあがった。








文ちゃんかと思った?

残念、ややちゃんでした!


土下座します。ごめんなさい。

恐らくお分かりだと思いますが、彼女とあややの関係は…


これで一応フラグを少しすっきりさせたつもりなのですが…

まだ不足が多々ありそうですね、申し訳ないです。

では、GW中にもう一度くらい更新できたらなと思ってます。


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