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2-4

 深夜になって、二人は校庭の巨木と対峙していた。天界からの報告によれば、異世界樹(小)と違って、(大)には寄生する能力が無いらしい。その代わりに大勢の人から無差別で幸運を吸い取って急激に育ち、幸運を濃縮した実をつけることがわかった。

「伐採に際しては何が起こるかわからないので、十分に注意してください。って、言われてもね~」

 美希はメールを読み終えてラファエルに携帯を返す。

「とにかく、やってみましょう」

 ラファエルは十字を切って槍を取り出した。白い柄にギラリと光る銀色の刃まで総金属製で、女の子が扱うには少々重そうに見える槍だった。

 美希も十字を切って武器を取り出した。それは、白いボディにピンクのアクセントが入った可愛らしい『ロケットランチャー』だった。

「なんか、いかついの出てきた」

「それがあれば楽に伐採できそうですね」

 ラファエルは構えていた槍を下ろして、ミカから離れた。

「さてと異世界樹君、あなたに恨みは無いけど、みんなの幸福を吸われちゃうと困るから、ちょっと退いてもらうよ~」

 美希が集中してオーラをこめると、砲身の前後に眩しく白い光が輝いた。

「凄いです、ミカのお馬鹿なほど強大なオーラがさらに増大、圧縮されて威力を増しています」

 引き金を引くと、ドウッという音を立ててオーラの砲弾が発射された。後にも同じ勢いの爆風を発して、反動を殺す仕組みになっているらしい。

 砲弾は見事命中し、異世界樹の幹に突き刺さる。すぐに内部から爆発して異世界樹は粉々に消し飛んだのだった。

「あっさりだったね」

「はい、簡単に片付くに越したことはありません。わたし眠いです。帰りましょう」

 ラファエルは左手で覆ってアワワ~とあくびをした。伸びをした右手の槍に何かが当たって、チュイーンと音を立てた。どこからか飛んできた光弾を弾き返したらしく、校舎の一角に当たって爆発が起こった。

 二人はそれぞれにオーラをドーム状の防壁にして身体を包む。

「誰? 出てらっしゃい!」

「あそこ、屋上です!」

 ラファエルは背中から翼を出して飛び上がった。美希も続こうとしたが、翼が出ない。

「そういえば、この身体になってからまだ出してなかったんだ」

 転生後、初めての戦闘だったから、まだ翼を引き出していなかったのである。

「おびき出します。ミカはそこで発射準備しててください!」

 ラファエルは槍をかまえ、屋上の人影に突撃する。人影は剣で受け止めたが、力負けして尻もちをついた。ラファエルはすかさず喉元に切っ先を突き付ける。

「捕縛」

 白いオーラのリングで両腕ごと胴体を拘束した。人影は深緑色のトカゲ人間だった。

「あなた怯えていますか? あなたが悪いことをしなければ、わたしは何もしません」

 ラファエルはトカゲ人間を連れて美希のもとに戻った。

「アーリマン!」

 美希は驚愕の面持ちのまま、ランチャーをかまえる。

 トカゲ人間は闇雲に首を振って後ずさりした。

「待ってください。この人、怖がってます。そんなに危ない人ではなさそうです」

 美希はランチャーを下ろし、トカゲ人間に訊ねる。

「あなた、アーリマンじゃないの?」

「アーリマンとは名前なのか? 私達リリンは個別の名前など持っていないが」

 美希はトカゲ人間を上から下までなめるように観察した。記憶の中のアーリマンはもっとマッチョな体付きで、凶悪な面構えをしていたなと思い返す。

「あなた達はリリンという種族なのね? どこから来たの? 目的は人々から幸運を奪い取ること?」

「私達はリリスの子リリン。惑星ニビルからやってきた。目的は幸運の実の栽培と、エヴァ、あなたを……」

 突如、一筋の雷光がリリンを撃った。リリンは黒こげになりながらひざまずき、天を仰いだ。

「喋りすぎたようだ……リリスが呼んでいる……」

 リリンの身体は砂のようになり、バフッと爆発して消えてしまったのだった。


 それから数週間のうちに世界各地で異世界樹(大)が発見され、天界や魔界の有志達が伐採にあたっていた。リリンと戦闘になった者もいたが、いずれのリリンも戦意に乏しく、捕らえて情報を得ようとすれば雷に撃たれて消滅した。

 美希達の学校が夏休みに入ったこともあり、二人は天界に帰省することにした。

「光希君とサッちゃん、置いてって大丈夫かな?」

「二人の携帯はオーラセンサー対応なので平気です。半径二百メートル以内で攻撃的オーラを感知したら、わたし達の携帯にお知らせメールがきます」

 美希の携帯もとっくの昔に天界の携帯とすり替えられていた。地上人との通話はもちろん、魔界、地獄でも通じる優れものだ。オーラセンサーは子どもや戦闘に長けていない者を守る目的で開発されたシステムである。これまでも、天界、魔界の仲間達はこれを使って大沢家を守ってきたのである。

「じゃあ、行ってきまーす」

 美希が声をかけると、キッチンにいたサッちゃんが駆けてくる。

「これ、姉様に持っていってちょうだい。いい子にして、姉様の言うことちゃんと聞くのよ?」

「はーい」

 保冷バッグに入った梅屋のどら焼きを渡された。サッちゃんの架空の姉、ラファエルの母のところに旅行するという設定になっているのだ。

 二人は玄関を出てしばらく歩き、周囲に人がいないことを確認する。空中に大きく十字を切ってくぐれば、そこはもうラファエルの家だった。

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