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2-2

 ラファエルはそのまま大沢家に住み着くことになった。美希の両親には姪っ子だと思い込ませてある。サッちゃんの姉夫婦が転勤で引っ越し、学校を移りたくないラファエルを叔母宅で下宿させる。そういう設定である。そもそもサッちゃんは一人っ子で、そんな家族構成は嘘っぱちなのだが、問題なく騙せたようだ。

「サッちゃん達に嘘をつくなんて気が引けたけど、あの様子なら問題無いね」

 タナトスに引き続き、サッちゃんもラファエルを気に入ったようだった。大きくなったわね~と、本物の叔母みたいなセリフを言ってはいたが、テンションの上がりかたが凄かった。マックスであった。結局、二人が美希の部屋に戻れたのは日付が替わってからだった。

「さすがに家を勝手に建て替えたりはできないし、どうしよう」

 大沢家は3LDKであった。両親の部屋と、美希の部屋、客間があるが、客間と両親の部屋は一階にあって隣合っている。

「うちはまだ弟か妹ができる可能性が高そうなの。短期間のお客さんならあの二人もさすがに我慢するだろうけど、長期間あの客間に住むのはお勧めできないわ」

「それは興味深いですが、邪魔になってはいけませんね。ミカの部屋で一緒に寝るしかありません。しかも、この部屋にはアップライトピアノがあって布団を敷くスペースが無いようです。これは困りました」

 もっともらしいことを言いながら鼻息を荒げるラファエル。

「幸いなことにミカのベッドは広めのようですが、暑くなってきたこの季節、若い娘が汗だくの濡れ濡れでくっつき合って眠るなんて夢のような……」

「馬鹿なこと言ってないで、ほら、これ着てみて」

 美希のパジャマをラファエルが着ると、胸がきつくてボタンを止められず、今にも張り裂けそうなズボンは七分丈のカプリパンツみたいになっていた。

「やっぱり、どう見てもSサイズなんて無理だよね。サッちゃんのを借りてもいいけど、サッちゃんって基本、エロいのしか持ってないし……」

 ラファエルはパジャマを脱いでたたむと、下着姿のままベッドに入った。

「わたし達は天使だから汗かいても布団汚れません。臭くないし、ばっちくない。だから、ミカも裸で眠るべきです。ほら、このスベスベ、そしてフリーダム」

 布団の中で後ろ手にゴソゴソやって、ホックをはずすラファエル。美希を挑発するかのようにブラジャーをポイッと投げてよこす。

「フリーダムじゃない! お馬鹿! エロ天使! 光希君のTシャツ借りてくるから待ってなさい」

「え~、光希パパいい人だけど、おっさんのくっさいシャツは嫌ですよ~」

「光希君はおっさんじゃないし、臭くないもん! わがままばっかり言うなら追い出すよ!」

 ラファエルは唇を尖らせていじけながら、空中に十字を切ってTシャツを物質化した。

「あ、そっか。十四年も地上人やってたから忘れてた。着替えの面倒見る必要なんて無かったんだ」

 ミカが統治した時代から、物質化の制限は解除されていた。使えるものはなんでも使えばいい。全能なる創造神が、使ってはいけない力を与えるはずがない。それがミカの持論だったのだ。

「ミカは地上人をやっていたせいで堅くなりました。口うるさくて、まるでガブちゃんみたいです」

「そういえば、ガブちゃんとメッティは元気にしてる?」

「はい、二人とも元気でバリバリ働いてます。わたしがミカの代理で神の座を引き継ぎましたが、この性格ですからね。あの二人が天界を支えているようなものです」

 パジャマに着替え終わったミカは電気を消してベッドに入った。

「夏休み中にでも一度天界に行ってみようかな」

「はい、みんなミカの帰りを心待ちにしています。ガブちゃんにもその頃には一度戻るようにと言われていますし……」

 急に静かになったかと思えば、ラファエルは喋りながら寝てしまったようだ。

「……ちびっ子みたいね。おやすみ、ラファエル」


 ――美希はミカだった頃の夢を見ていた。

 天界で一人暮らししていた家に、深夜の来客があった。

「明日は早いのに……寝坊したらガブちゃんに怒られちゃう……」

 チャイムで起こされて眠い目をこすりつつ、玄関ドアののぞき窓を確認する。

「え? サッちゃん?」

 意表をついた嬉しい来客に、ミカはドアを開け放つ。外は見事な月夜で、闇に慣れた目が痛いほどだった。

「いつ力が戻ったの? あれ、もう赤ちゃん産まれた? とにかく、入って入って」

 地上人として光希との子を宿し、大きなお腹をしているはずの時期だったのだ。それが膨らんでいなかった。なんだか変だなと思いつつも、ミカは背を向けて先に歩き出したのだった。

 そして、背後から刺された。

 赤黒いオーラをまとった二本の刃が、貫通して胸から飛びだしていた。

「サッちゃん……どうして……?」

「あの人を奪った……おまえが憎い……エヴァ……許さない……」

 サッちゃんは悲鳴のような咆哮を上げて、何度も何度もミカを突いた。ミカは血を吐き、痛みとパニックで涙が溢れ、ろくに抵抗できないまま床に崩れた。

「……痛いよ……やめ……てよ……」

 ――美希は揺り動かされて目を覚ました。

「ミカ、大丈夫ですか? 怖い夢を見ましたか?」

 美希は寝ぼけたままラファエルにしがみついていた。ラファエルは抱き返し、美希の髪を撫でて慰めた。

「ラファエルはあたしが死んだ時の状況って聞いてる?」

「はい。謎の多い事件として、十四年経った今でも語り継がれています」

「争った形跡も無く、背後から滅多突きにされて玄関で絶命。そんな感じかしら?」

 ラファエルは驚いたように美希の肩をつかんで問う。

「犯人を思い出したんですか?」

「そうみたいなんだけど、ちょっとまずい相手かもしれないの」

「まずいというと?」

 美希はウーンと唸って黙りこむ。

「知り合いですか?」

「まあ、そうなんだけど、夢なんて曖昧なものだし、もうちょっと確信が持てたら話すね」

「気を持たせて教えてくれないなんてずるいです~」

 ラファエルはがっかりしてみせたものの、美希の困った顔を見て深追いはしなかった。

 サッちゃんが階段下から「そろそろ起きなさ~い」と、声をかけてくる。美希は一瞬ためらってから、「は~い」と、答えたのだった。

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