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5-5

 エレベーターまでくると、ラファエルは背後に気配を感じて振り返る。

「忘れ物だよ」

 半透明の姿になった美希がラファエルの槍を差し出していた。光希とサッちゃんもいる。

「これは、どういうことですか? 死んだ人の霊魂は自動的に冥府に帰るはずです」

 光希はなにやら得意気に胸を張った。

「俺達は生まれつきの、生粋の神様だぜ? 肉体を脱いだぶん、神としてより純粋になったんだ」

 光希が美希とサッちゃんに目配せすると、二人はうなずく。

「合体だ!」

 三人の霊魂が合わさり、男性とも女性ともつかぬ美しい姿になった。

「これがエンキの完全体だ」

「……何を言ってるのかよくわかりませんが……とにかく、みんな生きているのですね?」

 ラファエルはエンキに抱きつこうとして、スカッと通り抜けてしまう。

「ラファエルちゃん、それが問題なんだよ。エンリルは肉体を持ったまま純粋な神として存在する技術をどこかから仕入れたらしいが、俺は持ってない。本来、神というのは概念であって、力の純度を上げれば上げるほど肉体と矛盾するものだからな。つまり、このままでは奴に触れることもできないんだ」

 エンキの声が光希の声から美希の声に変わる。

「ラファエル、あなたの身体を貸してもらえないかな? あなたに憑依することで、エンキの力をエンリルにぶつけることができるの」

「……もちろん、OKですよ」

 ラファエルはニッコリ微笑んで身体を開く。

「よし、スーパー合体だ!」

 光希が言うと、サッちゃんが「合体、合体って、なんかやらし~」と笑う。そして、ラファエルは一瞬気を失い、また目を開いた。

「パイロットはわたしですか?」

 ラファエルの心の中に美希の声がする。

「ラファエルは天界一の勇猛な戦士でしょ? さっきの見たよ。凄かった。わたし達はあなたの力になるから、思う存分戦ってちょうだい」

 ラファエルは槍をかまえると、矢のように飛んでエンリルを目指した。そのスピードは音速の壁を突き破り、ソニックブームを巻き起こす。

「エンリル神、覚悟!」

 ラファエルの突撃に対して、エンリルは緑色の物体を盾にした。ずたぼろにされたアーリマンであった。ラファエルは寸前のところで動きを止める。エンリルはアーリマンを投げ捨てた。

「……汚い奴です。こんな奴がわたし達の神だとは、恥ずかしくて涙が出てきます」

 ラファエルは両拳を握り、絶叫してオーラを高めていった。三度目にして、限界を超えた力を操れるようになっていた。背中には美希の六翼が現れ、槍にはサッちゃんの炎がまとわりついている。無尽蔵な金色のオーラは光希のものだ。

「ほほう、これは凄い力だ。泣き虫エンキもママ達に抱っこしてもらえば強気になれるってわけか」

「だまらっしゃい! わたしは気付きましたよ。あなたは弟の悪口ばかり言っていますが、それはあなた自身の弱さや願望の投影です。エゴを毛嫌いしたようなことを言うのも、あなたがエゴの塊だからなのです!」

 エンリルの顔から笑みが消える。

「それは聞き捨てならんな。創造神を侮辱した罪、魂を百度滅しても赦しはしない!」

 雷がラファエルを直撃する。悶え苦しみ、悲鳴を上げるラファエルだったが、しまいにはクスクス笑いだし、大声で笑うようになった。

「これがエンキ神の力。エンリル、あなたにも負ける気がしない!」

 何度目かの落雷を槍に受け、炎と電気を帯びた槍にして連続突きを見舞う。エンリルは左腕に盾を発生させて防戦した。

「面白い、こうなれば本気でいこう」

 エンリルは右手に蛇のように長い鞭を発生させた。巻いてあった鞭をダランと下ろすと、鞭が金色の炎で燃えさかる。

「お仕置きだ!」

 生き物のように動く鞭はとらえどころがなく、槍を巻き取られ、遠くに捨てられた。そして、丸腰のラファエルは百叩きの刑さながらに叩かれ続ける。ラファエルの白い肌に無数の切り傷がつく。エンリルは嬉々とした表情で鞭を振るい続ける。

「痛いか? 泣け、わめけ、絶望して僕にひれ伏すがいい!」

 オーラの防壁を張っても効き目がなかった。光弾をためようにも痛みで力が拡散してしまう。

「困りました……力負けはしていないはずなのに……」

 心の中で光希の声がする。

「こうなったら、美希ちゃんに替わるんだ。美希ちゃんは元々光弾が得意だ」

「でも、ミカは切り傷の痛みを異常に怖がります」

「それでいいんだ。むしろ、暴走した美希ちゃんは無敵だ」

 ラファエルが意識をフッと遠のかせると、美希が主導権を握った。

「ちょっと、痛い痛い痛い! やめてってば!」

 絶え間ない鞭打ちに右往左往して痛がるばかりの美希だったが、しまいに目がすわってくる。

「やめてっていってるでしょ! 馬鹿! 死んじゃえ!」

 美希の両手に光弾が現れ、次々に投げつける。バレーボールほどの光弾が二門の機関銃のような勢いでエンリルを襲う。

「むむっ!」

 エンリルは鞭でさばききれなくなってきたのか、徐々に光弾が直撃するようになった。

「ええい、わずらわしい!」

 盾に隠れてやり過ごそうとするエンリルだったが、

「切れてる……いっぱい血が出てるよ……いたいよぉおおおお!」

 身体じゅうの切り傷に気付いた美希は狂ったように大きな光弾を作り、エンリルに放った。

「おい、ちょっと待て! そんな馬鹿な!」

 直径数十メートルはあろうかという光弾を次々に投げつける美希。流星群がエンリルめがけて降っているような、でたらめな攻撃だった。エンリルが盾ごとどこかへ吹き飛ばされても、美希は止まらない。

「美希ちゃん、落ち着きなさい!」

 サッちゃんがコントロールを取り、呼吸を落ち着かせる。両手に二刀を発生させ、周囲の気配をうかがう。

「そこ!」

 サッちゃんの鋭い突きがエンリルの左腕をかすめた。

「やったな? この僕に傷を付けて、ただで済むと思うなよ!」

 エンリルは鞭を投げ捨て、両手を光剣にして斬り返す。サッちゃんの二刀は炎を帯びて、エンリルの手刀を焼く。

「あちちっ……いちいち熱いんだよ、この馬鹿女!」

 エンリルが怒鳴るとサッちゃんの動きがピタリと止まった。

「亭主のしつけが悪いからこういうたちの悪い女が……」

 ラファエルの身体はガクンとうなだれたかと思うと、目を見開いて恐ろしい形相になった。空には黒雲が垂れ込め、地面は粉々になって舞い上がる。虚無と化した空間で光希が大剣をかまえる。

「誰の悪口言っちゃってんだ、てめえ! いっぺん消滅してみるか、この野郎!」

 身長よりも長い剣を目にも止まらぬスピードで操る光希。エンリルは手刀を交差させて受け止めたが、ジリジリと押されて光剣から血が噴き出す。エンリルはとっさに盾を出したが、光希は盾ごと叩き斬った。

「手が! 僕の手が!」

 エンリルの両手は手首から切り落とされ、落下していった。

「エンキのくせに! 泣き虫エンキのくせに僕の手を! 許さんぞ!」

 エンリルは身体のまわりに莫大なオーラを発生させる。エンリル自身が巨大な光弾のようになっていく。

「まさか、自爆する気か!」

 逃れようとした光希は肩をつかまれて動けなかった。切り落としたエンリルの両手が、いつの間にか背後から回り込んでいたのだ。

「さあ勝負だ。ありったけのオーラを燃やしてぶつかり合い、生き残ったほうを勝ちとしよう。泣き虫エンキが頑張ったところで、このエンリルにかなうものではないと、証明してやる!」

 エンリルの手は怪力で、他に方法は無さそうだった。

「いいだろう、いつまでも弱虫の弟だと思ったら大間違いだ!」

 二人の巨神はありったけのオーラを燃やし、爆発させる。

「リリスに、我等の母に力を……」

 どこからともなくアーリマンの声がしたかと思うと、ラファエルの身体めがけてオーラが降り積もってくる。

「これは、リリン達のオーラ。力を貸してくれるのね!」

 サッちゃんの笑顔に応えるように、ニビルじゅうからオーラが集まってくる。

「あたしのランチャー使って!」

 美希のランチャーが手の中に現れ、光希は肩にかついだ。集まってくるオーラが増幅、圧縮され、ロケット弾に変換される。

「とどめだ、馬鹿兄貴!」

「思い知れ、泣き虫!」

 お互いの渾身の一撃。突進してくるエンリルに、ロケット弾が至近距離で炸裂する。その熱量たるや、超新星スーパーノヴァにも匹敵するほどだった。眩しい白の闇に包まれたあと、漆黒の虚無が辺りを支配する。

 肩で息をして、それでも存在していたのはラファエルの身体だった。発射と同時にサッちゃんの意思が持ち前の素早さを活かして飛び退いていたのだ。

「やったぜ……ついに兄さんをやっつけたぞ……」

 ようやく吐き出した勝利の言葉をかき消すように、虚無の空間そのものが語りかけてくる。

「僕を倒したところで、僕だって転生するんだ。そのたびに僕を妨害するつもりかい?」

 エンリルは穏やかな口調で問うた。光希が答えに困っていると、サッちゃんが出てきて言う。

「あなたが生まれ変わったら、きっとあなたを探し出して、わたしがママになってあげるわ。あなたの寂しさはわかった。次こそはあなたをいい子に育ててあげる。だから、安心して今はおやすみなさい」

「それはいいな……僕はエンキが羨ましかったんだ……弱虫エンキが泣くたびに、みんなエンキに注目した。エンキを愛した。僕は強い子だから、一人で育ち、一人で世界を支配した。みんな僕の物だと主張しなければ、エンキに取られると思ったんだ」

 サッちゃんはウンウンとうなずいて、エンリルの言い分を聞き続けた。

「エンキ、ごめんな。しばらくの間、世界を頼むぞ」

「ああ、兄さん。どうせなら次は、可愛い女の子にでもなったらどうだ? 強い男の娘か妹にでもなるといい。愛されるぞ」

「考えておこう……さらばだ」

 それきり、エンリルの気配が途絶えた。

「さて、ここからどうやって帰ろうか?」

 全くの虚無空間に一つの身体で取り残されてしまった。途方に暮れる四人の思考だったが、人の気配が近付いてくるのを感じて身構える。

「攻撃しないで、わたしよ」

 大鎌の先に光を点して現れたのはタナトスだった。

「ここはかなり危うい領域。早く出たほうがいい」

 タナトスが空間を切り裂いて入っていく。ラファエルの身体もあとに続いた。着いたところは冥府の城だった。

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