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『支払期日』が延長されたことで、とりあえず解放された美希は、公園のブランコに座ってボケーッとしていた。ピアノ教室の月謝を滞納した挙げ句に除籍になったから、火曜日は夜までこうして時間を潰してから帰るのだ。
ピアノの先生から電話があった日、たまたま電話に出た美希は母親のふりをして、クビになった旨を聞いた。支払いが苦しいのなら滞納分は結構ですからと、気の毒そうに言われてしまった。美人で優しくて、憧れのお姉さんだった先生に、だらしのない親子という印象を持たれて切られたのだ。そんなことを思い出してはフーッとため息をつく。
「大沢さん、ここ、座ってもいいかな?」
美希はビクリと縮み上がった。いつの間にか同級生の男子がそばに立っていた。
「ど、どうぞ」
隣のブランコに座った亮輔こそが、事の発端である。
「またいじめられたんだね。僕のせいで、ごめんね」
美希はいじめられていた亮輔をかばっていじめられるようになった。それまではクラスどころか学校じゅうで一番人気のお姫様だったのだ。成績優秀で運動神経も抜群、お日様みたいに笑う無邪気なクラス委員長はみんなの憧れだった。
「クラス委員長として見過ごせなかっただけだから。それに、悪いのは亮輔君じゃなくて、沙也香ちゃん達だから。気にしないで」
地面に目を落としたまま、一息に吐き捨てるような言葉だった。
「……無理、してないかな?」
亮輔のほうを見ると、ちょっと困ったような顔で、それでも穏やかに微笑んでいた。
「……なにそれ。亮輔君のくせに、かっこつけてるの?」
「それは、『やだ、亮輔君のくせにかっこいい』っていう意味かな?」
美希はプッと吹き出して、ブランコをこぎ始めた。
「半端な気持ちで人助けなんて出来るものじゃなかったんだね。毎日毎日つらくて、たまに思うんだ。亮輔君なんか助けなければよかったって。あの時、たった一回の判断ミスで、あたしの人生百八十度変わっちゃったんだな~って」
つられてブランコをこいでいた亮輔は、神妙な顔で黙りこむ。
美希はブランコを止めてボソッとつぶやく。
「人助けなんて出来ないんだよ。だから、あたしを助けようなんて思わないで。なるべく恨まないようにするから」
美希は鞄を拾い上げると、さっさと歩き出した。