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第五章

 光希は富士山でメタトロン、ガブリエルに会い、作戦会議をして冥府に戻っていた。

「とにかく、あの洪水を止めないことにはどうにもならないそうだ」

 五人でテーブルを囲み、紅茶を飲みながらの会議であった。

「エンリル様を説得なんて、できるのかしら?」

 エレシュキガルはすっかりうち解けて、古くからの友達のようになっていた。

「エンリル……関わりたくないな……だがしかし……」

 光希は重苦しいため息をつくばかりだった。

「ところで、エンリル神はどこにいるのですか? それに、逃げたリリスはどこへ行ったのでしょう?」

 ラファエルが問うと、エレシュキガルはテーブルの上に立体映像を作り出した。太陽系のミニチュアのようだが、地球のそばにもう一つ、よく似た惑星があった。

「エンリル様もリリスもこの惑星ニビルにいるわ。三千六百年周期の楕円軌道で太陽の周りを回っている星とかつては考えられていたけど、今ではこの星自体がエンリル様の宇宙船になっているの。地球やこの冥府がある月に接近している間は、コキュートスを通じて行き来できるのよ。具体的に言うと、この城よりさらに雪原を進めば転送装置があるわ」

「わたしは捕まえたくせに、リリスやリリンがうろちょろするのはかまわないのですか?」

 ラファエルが不満そうに訊ねる。

「一応、神性を持っているのよね。リリスだけじゃなくて、リリンも集合として神性を持っているの」

「そういえば、リリンって一体、なんなんだ?」

「あれはリリスに忠実なロボットみたいなものね。自我とか個体としての意思みたいなものが希薄で、リリスが死ねと言えば死ぬ生き物よ。リリスはリリン達をエンリル様に差し出すことで取り入ったみたいね」

「ってことは、アーリマンが評議員達を襲ったのも、エンリルやリリスのしわざか」

「そうね、エンリル様は地球を植民地化しようとしてたみたいだから」

「植民地?」

「そう、ニビルはいま、幸運の樹を育てるためだけの農場になっているわ。でも、エンリル様はもっと幸運の樹を育てたいらしくて、地球にもたびたび植樹を試みてるの」

「幸運の樹って、人の幸運を吸い取って実をつけるあれか? 万能の創造神がそんなもの育ててどうするんだ?」

 エレシュキガルはニビルのミニチュアに巨人の模型をのせた。続いて、テーブル全体が宇宙のミニチュアになり、あちこちに巨人が発生する。

「エンリル様はわたし達の太陽系のトップで、よその太陽系、よその銀河、よその宇宙にはそれぞれ偉大な神様がいるの。エンリル様は幸運の実を使って、よその神々と取引しているのよ。たとえば、補給なしで永遠にオーラを使い続ける能力とか、惑星を改造して宇宙船のように使う技術とか、神でも欲しがるものはいくらでもあるわ」

 光希は腕を組んで考えこむ。

「つまり、エンリルはリリスに頼まれるまでもなく、地球人を滅ぼして、リリン達を住まわせたかったのか。リリンは文句も言わず働いて、幸運を奪われ続け、都合が悪くなったら消されるだけのロボットなんだな」

 サッちゃんが突如テーブルを叩いて立ち上がる。

「ひどいわ! あの子達はわたしの分身の子どもなのよ? つまり、わたしの甥や姪みたいなものだわ。そんな酷い扱いばかりするのなら、わたしがあの子達のママになってやろうじゃないの!」

 光希がげんなりした顔になる。

「そうは言ってもさ~、エンリル強いんだよ~? エンリルの利害がからんでるから、リリスを叩いたら間違いなくエンリル出てきちゃうんだよ~?」

 サッちゃんは光希の襟首を持って、スパーンとビンタをはった。

「あなたの兄さんでしょ? 根性入れて立ち向かったらどうなの? リリン達はあなたの子どもなのよ? 助けてあげようと思わないの?」

 サッちゃんに揺さぶられるままの光希。そこに美希が追い打ちをかける。

「これまで何度も生きてきて、光希君の奥さんだったり、妹だったり、娘だったりしたけど、妻として、妹として、娘として、がっかりだわ。光希君がそんな意気地無しだったなんて」

 光希は完全に脱力し、呆けた顔になった。いまにも椅子から転げ落ちそうだ。

「これはいけません。奮起させるどころか、とどめを刺してしまったようです」

 ラファエルは光希にひそひそ話をする。

「(エンリル神を倒せば、あなたが新しい秩序になるのです。サッちゃんも、ミカも、それどころか、世界じゅうの女達があなたを崇拝して、嫁にしてくれ嫁にしてくれと押しかける世界だって作れるのですよ? 一夫多妻を世界標準にすることだって思いのまま……)」

「なん……だと……?」

 光希は天を仰いで雄叫びを上げた。

「なぜ、いままでそれに気がつかなかったんだ! エンリルがなんだ! 兄貴だからなんだってんだ! やってやるぜ! 俺こそが世界だ! 法律だ!」

 光希はワッハッハと笑いながら城を飛びだし、雪原の奥へと消えていった。エレシュキガルを残して、女達も慌ててあとを追ったのだった。

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