表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/23

4-5

 硬直した一同を見て、エレシュキガルは噴き出した。

「でも、わたしだって鬼じゃないのよ。他ならぬミカエルの仲間ですもの、そんなひどいことはしないわ」

 ほっとする三人だったが、ラファエルはふんっと鼻を鳴らす。

「女神エレシュキガル、ここに残るのはわたしだけで十分でしょう? この三人は帰してあげてください」

「やだ」

 エレシュキガルは即答した。

「お友達は大勢いたほうが楽しいじゃない。こうしてのこのこ集まってきたのだって、エンリル神のお導きなのよ、きっと」

 光希が頭を抱えてうずくまる。

「エンリル……嫌な名前だな……でも、不思議と懐かしい。……エンリル……兄さん?」

 エレシュキガルは、しまったという顔をして光希を見る。

「なによ、この子ってばまさか……神性も持ってないくせに……あれ、持ってるの?」

 光希はウンウンうなって思い出そうとする。エレシュキガルは後ずさりを始める。

「なるほど、俺はそんなに偉い神様だったか。神性とかなんとか、超越しちゃってるようだな、本来」

 エンキ神の記憶を取り戻した光希は、エレシュキガルにゲンコツをはった。

「い、いやだわ、エンキ様だったのね。神性を隠してくるなんて人が悪いわ」

 エレシュキガルは頭を押さえて涙目になりながらも、必死に愛想笑いする。

「と、いうわけで、ラファエルちゃんは返してもらうからな。しっかり留守番しとけよ、エレシュキガル」

 かっかっかと偉そうに笑って背を向ける光希、一緒に出ていこうとする一同。

「やだやだやだ! また一人ぼっちなんて絶対やだ!」

 エレシュキガルは女神の威厳などそっちのけで駄々をこねた。ラファエルがちらりと振り返る。その瞬間。

「帰さないもん」

 エレシュキガルはラファエルに飛びついて額にキスした。額に怪しげな蝶の紋章が浮かび上がって紫に光り、やがて薄い色のタトゥのようになった。

「おまえ……呪ったのか?」

 光希は再度エレシュキガルにゲンコツをはる。

「もうラファエルは永遠にここから出られないもんね! 残念でした!」

 エレシュキガルはそう言い残して城の奥へと走り去った。

 ラファエルは額を押さえて呆けている。

「なんてことを……」

 光希は壁を殴りつけた。

「呪いって、そんなにひどいことなの?」

 美希が心配そうに訊ねる。

「あいつの言ったとおり、ラファエルちゃんは永遠にここから出られない。エレシュキガルを倒せば呪いは解けるだろうが、冥界神を倒したら世界の秩序が根こそぎひっくり返る。死者の魂が解放されれば肉体をめぐっての椅子取りゲームで、世界じゅうが修羅道になってしまうんだ」

 ラファエルは美希の両肩に手を置いて、ニッコリ微笑んだ。

「こうなったら仕方ないです。わたしはあのわがまま女神様と暮らします。ご機嫌取りをしたらいつか呪いを解いてくれるかもしれません。ミカは神性を持っているのだから、たまに遊びにきてくださいね」

「やだよ、そんなの。ラファエルを置いていくなんて出来ないよ……」

 二人は抱き合って涙を流した。

「まてよ……俺はエンキでリリスとエヴァは俺の嫁、元はと言えば俺の分身……つまり、神だ」

 光希は美希とサッちゃんの額に手を当てる。

「かなり古い記憶だから手伝いが必要かもしれないが、思い出してみてくれ」

 二人は目を閉じ、光希の手が金色に輝いた。二人は元々エンキ神のあばら骨から作られた一心同体。太古の記憶を目まぐるしく思い出し、二人はリリス、エヴァの記憶を取り戻していった。

「つまり、サッちゃんも美希ちゃんも生まれつき神性を持っていたんだ。それを忘れていただけのことだったのさ」

 美希は略式の儀式を開いてラファエルに天界の神性を渡す。エヴァとしての神性があるから、ダブっていたのだ。

 光希は何もない空間に手を突っ込んで、エレシュキガルを引きずり出した。

「ちょっと! なにするのよ!」

「まあ、話を聞け。おまえにもわかると思うが、俺達は全員神性を思い出して、天界の神性はラファエルちゃんに渡した。つまり、もはや侵入者として罰せられる立場ではないのだ」

 エレシュキガルはツンとそっぽ向いている。

「それと、キャンバスを荒らしたことは詫びよう。だが、おまえの趣味は少し悪趣味な上に時間がかかりすぎる。そこでだ……」

 光希はパソコンを物質化して立ち上げた。

「俺達の世界には面白い道具があってだな……」

「パソコンぐらい知ってるわ。わたしだって神よ? ばかにしてるのかしら?」

 光希はパソコンを操作して、絵を描くためのソフトを立ち上げた。ついでに、そのソフトのテキストブックを数冊物質化して出した。

「どうせ暇してるなら、これをやってみるといい。便利だし面白いぞ」

「パソコンってなんかオタクっぽいし、描いた絵も味気ないっていうか、大体、覚えるの面倒なのよね……」

 光希はさらにもう一冊テキストブックを取り出した。ボーイズラブとイケメンを愛する女子向けに書かれた本であった。半裸の王子やら執事がくんずほぐれつする様子を、ステップ形式で丁寧に解説した、いかにもアレな本だ。

「わたしをなんだと思ってるのかしら? こんないかがわしい……」

 言いながらもページをめくる手が止まらないエレシュキガル。パラパラと一冊通して眺め終えると、早速絵を描き出した。

「なるほど、悪くないわね」

 あっという間に一枚描き上げるエレシュキガル。

「素敵……」

「鼻血出そうです……」

 サッちゃんとラファエルを虜にする一枚。まさに神のクォリティであった。

「しょうがないな、もう! ……エンキ様、あなたの誠意はわかりました」

 エレシュキガルは「ごめんね」とつぶやいて、ラファエルの額を撫で、呪いの紋章を消した。

「せっかく楽しくなると思ったのに……」

 寂しそうにうつむくエレシュキガル。

 サッちゃんはエレシュキガルの顔をのぞきこんで問う。

「もしよかったら、ここに住まわせてもらえないかしら? どうせわたし達の家もなくなっちゃったんだし、神性と紋章があればどこに住んでいたって同じでしょう?」

「まあ、ここから通いで地球の復旧作業をすれば問題ないな。むしろ、ここはいま、どこよりも安全だろう」

 エレシュキガルは思わずといった勢いでサッちゃんに抱きついた。

「ありがとう、リリス! じゃなくて、サッちゃん大好きよ!」

 根は悪い子ではなかったらしい。一同はそれぞれに部屋を割り振ってもらい、各々に部屋を整えて住み着いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ