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3-3

 ようやく一段落ついたと四人は休暇をとり、キャンプに出かけた。メタトロンが運転するワゴン車で三十分ほど走って湖のほとりのキャンプ場に到着した。天界は雲の上にあって雨が降らないから、湖といっても水を溜めて循環している人造湖なのである。

「おやおや、皆さんおそろいで」

 最高位の天使四人が一緒に行動していると、市民達の目を引いた。

「ガブリエル様、わたしはこの前の騒ぎで移住してきた者なんですがね、天界はいいところだから息子夫婦や孫達を連れてきたいんですよ。こういうことはどこで相談すればいいんですかね?」

「ああ、あのときの。こちらの暮らしには慣れましたか? そういう相談なら第五庁舎の……」

 一人に答えると、どんどん市民が集まってきて、ガブリエルは臨時の陳情窓口みたいになってしまった。移民が増えたせいで役所が混乱して、生活の不安や不満を募らせている市民が少なからずいるようだ。

 一方、メタトロンはテントの説明書とにらめっこしていた。

「君達は泳いでくるといいですよ。夕飯までには建てておきますから」

「じゃあ、遠慮なく行ってきまーす」

 ――美希とラファエルは更衣室で着替え、早速湖で泳ぎ始めた。美希はフリルのついた可愛らしい白ビキニ、ラファエルは黒い競泳水着を着ている。

「あっちの島まで競争です!」

「あ、待ってよ~」

 美希がオーラの力で優れているとすれば、ラファエルは身体能力がずば抜けて高い。金メダル級のクロールですいすい泳がれると、美希はあっという間に取り残されてしまう。

「よし、こうなったら」

 美希は身体をピンと伸ばして固めると、足の裏からオーラを噴射した。人間ジェットフォイルと化した美希は、ぐんぐん追い上げていく。

「ミカ、ずるいですよ~」

 気付いたラファエルは翼を出して飛び上がった。

「あ~、飛ぶのなし~」

 ラファエルはベーっと舌を出して島にひとっ飛びした。

 美希は競争を諦めて、のんびりと平泳ぎを始めた。雲一つ無い空、キラキラ輝く水面、遠くで騒ぐセミの声。冷たすぎず、ぬるくもない丁度いい水温。

「気持ちいい~」

 ラファエルが岩場に上がって座っているのが見える。美希は立ち泳ぎして手を振った。

 そのとき、美希の足首を何かがつかんだ。

「ちょっと! なに!」

 とっさのことで上手く反応できず、美希は水中に引きずりこまれていく。ようやく下を見て確認すると、リリン二人が美希の足首をつかんでいた。

「ミカ! どうしましたか!」

 ラファエルは上空からミサイルのようにダイブして、リリン達の手首をつかんだ。ラファエルのオーラで手首を焼かれ、リリン達は顔を歪めて手を放す。ラファエルは二人をつかんだまま飛び上がり、島に向かって放り投げた。

「わたしのミカに手出しすると許しません!」

 手のひらに槍を発生させると、ラファエルは猛烈な勢いで突進した。

 リリン達は二手に分かれて飛び退き、翼も出さずに空を飛んで逃げた。

 美希はジェット噴射で水面に立ち、ロケットランチャーで狙いを定めた。

「ラファエルは右のを追って! あたしは左!」

「了解です!」

 ラファエルが右のリリンに突進すると同時に、美希のロケットランチャーが充填を終えた。

「あたれ~!」

 引き金を引くと、相殺されたわずかな衝撃とともにロケットが飛び出す。そこから一気に加速したロケットは逃げまどうリリンを追尾して放さない。リリンは水中に逃げ込もうと急降下したが、間に合わなかった。ロケットは追いつき、標的を巻きこんで爆発した。

 右に逃げたリリンはラファエルの突進を紙一重でかわした。右手に持ったレイピアで猛烈な連続突きを繰り出す。

「この前のリリンより元気ですね」

 ラファエルは槍を使って突きを殺し、さばいていたが、

「見切りました!」

 と、槍の先端でレイピアの先端を突いて破壊した。

「降参しますか? あなたにはもう武器がない」

 リリンは鼻で笑い、両手にオーラをためた。

「それもまたあなたが選んだ道です。さようなら」

 ラファエルはリリンの背中を槍で貫いていた。瞬間移動でもしたかのようにリリンの背後から。リリンはくすぶった自らのオーラに身を焼かれて消え去ったのだった。

 島で合流するなり、二人は岩場に寝そべった。つるっとした巨大な岩盤が日光で温められていて、冷えた身体を心地良く温めた。

「あー怖かった。ラファエル、ありがと」

「天界にまで乗りこんできているとは、要注意ですね」

 ラファエルは美希を転がしてうつぶせにさせると、ビキニのヒモを解く。

「ちょ、ちょっと! なにするの!」

「大人しくしてください」

 ラファエルは美希の腰にまたがり、肩を押さえつける。

「翼を出します。やっぱり、ないと危険です」

「や、やだ! 痛いもん! 放してよ!」

 じたばた暴れるが、ラファエルは構わず背中を引っかいた。

「痛い痛い! 死んじゃうよ!」

 ミミズ腫れの十字が白い光を放ち、ラファエルはそこに手を突っ込む。

「気持ち悪い! げーってなる! 放して!」

 美希の暴れる手脚にオーラがこもりだして、ラファエルは手当たり次第に引っ張った。

「あれ、まだなんかあります。これも、これも……」

「はーなーしーてーよー!」

 美希は苦痛に歪んでいた顔からカッと目を見開き、瞬間的なオーラ攻撃でラファエルを弾き飛ばしていた。

「いたたたた。ミカの翼を出すのは何度やっても恐ろしいですね」

 美希はハッと我に返ってうつむいた。

「ごめんね、痛くて怖くて、なんか夢中で」

「あはは、それでも手加減できるようになりましたね。今回は火傷してません」

 ラファエルは美希の背後を見て「ほほぉ」と、目を丸くした。

「どしたの?」

「六翼です。翼が六つ出てます」

 美希は振り返って、

「ほんとだ」

 と、それぞれの翼を動かしてみる。真っ白な六翼は、日の当たり方によって金色に輝いて見えるような、神々しく立派な翼だった。

「いよいよ神様らしくなってきましたね。育ててきた甲斐があるというものです」

「いつ、あたしがラファエルに育てられたのよ!」

 ラファエルはおもむろに美希の胸をつかむ。

「うむ、たしかに育ってません。これなら隠す必要ない。没収です」

 ラファエルは、ほどけていたビキニのトップをさらって逃げていく。

「ちょっと待って! それはほんとに無理! 返して~!」

 美希は中段の翼で胸を隠しつつ、ラファエルを追いかける。

「早速役に立ってますね」

「うっさい、返せ~!」

 そうやって、日が傾く頃までじゃれ合う二人だった。

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