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翌日、朝早くから大天使会が招集され、古代兵器の使用が承認された。同時に、ラファエルから美希へ神性が返上された。これはラファエルへの懲罰というわけではなく、元々予定されていたことだ。
会議が終わったその足で、美希、ラファエル、ガブリエル、メタトロンの四人が古代兵器に向かう。ラファエルが使っていた神のオフィスでエレベーターを乗り換えると、天界の底まで下りられる。
制御室に入ると、美希はメインスイッチを押してシステムを起動した。暗かった部屋が明るくなり、壁が三六〇度ぐるりと取り巻くスクリーンになった。いまは窓のように外の青空を映している。
「おかえりなさいませ、マスター」
一行の目の前に電脳少女といった風のメカメカしい服装の女の子が現れてお辞儀をしている。その顔は美希にそっくりだった。
「この子はガー子ちゃん。この部屋の防御システム兼、案内、補佐係なの」
「大昔のミカが『ガーディアンのガー子』なんて適当に名付けたようですが、かなり強力な戦闘能力を持っています。マスター無しでここにくるのは、我々熾天使と言えども危険です」
「古代兵器というわりには、何もかも新品のように見えますね」
メタトロンが感想を述べると、ガブリエルもうなずいている。
「そうね、古代というよりむしろ未来の技術じゃないかってぐらい」
「実は、例のリリン達が作った技術なのですよ」
ラファエルが悪戯っぽく言うと、ガブリエルは「そうなの?」と、真に受けた顔になる。
「あのさ、ラファエル、ほんとに怒られるよ」
美希がつっこむのを見て、ガブリエルは安堵の表情になった。
ガー子をコントロールパネルに残して、一行は部屋の中心で円陣を組み、手をつなぐ。
「ガー子ちゃん、おねが~い」
ガー子がうなずいてパネルを操作すると、美希達の足下に魔法陣のようなものが現れ、虹色に光り輝く。
「もう始まるの? ずいぶんシンプルなのね」
ガブリエルは何だか不満そうな顔をしている。
「マスターとガー子は精神をリンクしているので、多くを語る必要はありません。ピコピコピコ、ウィーン、ガッシャーンっていうようなのを想像していましたか?」
ラファエルがニヤニヤして言うと、ガブリエルは「べ、べつに……」と赤い顔をした。
四人がやるべきことは魔法陣にオーラを注ぎ込むことだけだった。この役目は四大天使と呼ばれる四人の熾天使ミカエル、ラファエル、ガブリエル、ウリエルが力を合わせてやることになっているが、ウリエルがいないのでメタトロンが代役を務めている。
四人が目を閉じ集中すると、魔法陣が眩しく光りを放ち、その中心に六翼の天使が浮かび上がった。六翼の天使が清らかな声で歌い始めると、部屋じゅうに天使が現れ、美希達も加わって大合唱になる。天使の幻影を通して、天界じゅうからオーラが集まってくる。凝縮されたオーラは天界の底にある突起に集められ、巨大な光球になった。
「地上のみなさん、力をお返しします。目覚めてください。自分たちの手で地上を守ってください」
美希が言うと、地上の人間達は一斉に空を仰いだ。脳裏で美希の姿を見て、心の中で美希の声を聞いたのだ。
ガー子が専用のトンカチでカバーを破り、発射ボタンを押すと、巨大な光球が放たれた。光球はいくつかに分離し、凄まじい速度で飛んだかと思うと、それぞれの大陸に向けて光のシャワーを降らせた。人々は両手を広げて気持ちよさそうにシャワーを浴び、力の使い方を悟った。そして、街のあちこちに立っている異世界樹を消滅させる作業に入ったのだった。
――天使や魔界人と同等の力を得た地上人は、みるみるうちに異世界樹を片付けていった。天界や魔界と比べて地上の人口は桁違いに多いし、世界じゅうの人々がそれぞれのご近所を警戒すれば済む話だった。
暴徒対軍の内戦も、銃や爆弾が役立たずになれば形勢逆転であった。リリンやリリンに協力した売国政治家などが捕らえられ、地上は秩序を取り戻していった。