第一章
とある中学校の二年生用女子トイレ。大沢美希は六人ほどの同級生達に取り囲まれていた。
「ママがお金の場所変えちゃって見つからなかったの、ごめんなさい」
リノリウムの冷たい床にペタンとアヒル座りして、小さくなっている美希。すでに何発か蹴られて、やっと起き上がったところだ。
リーダー格の沙也香は腕組みしたまま、冷ややかに美希を見下ろしながら言う。
「それってさ、あんたの都合じゃん。あたしらが必要だって言ったら、あんたは黙って持ってくるしかなくね?」
「でも、あたしの貯金全部あげちゃったし、中学生だからバイトもできないし……」
足癖が悪く、一番暴力的な夏美は美希の背中をグイグイと足蹴にし、土下座のような姿勢を強要した。
「だから、沙也香はおまえの都合なんか知らねえって言ってんじゃん。また、あざだらけにされたいわけ?」
「で、でも、無いものは無い……っていうか……その……」
夏美は容赦なく体重をかけて、美希を押し潰す。
「やだ、やめて!」
美希の可愛らしい顔がトイレの床に押しつけられると、取り巻きの女子達もニヤニヤと笑みを浮かべる。そして、順々に美希の尻を蹴飛ばす。
小さな背中が震え、美希は細い泣き声を漏らした。
「へっ、泣いてやんの、だっせ」
夏美は黒髪ショートの後頭部に乗せた足で、さらにグリグリと押しつける。
「おい、鼻血出させんなよ?」
「へーい」
夏美の足が外されると、沙也香は美希の髪をつかんで前を向かせた。
「金が無いなら稼ごうか?」
「ど、どうやって?」
沙也香はため息をついて、首を振る。おもむろに美希のスカートをめくって、携帯を取り出した。そして写真を撮る。
「剥いてやれ」
夏美の号令で取り巻き達が美希の制服を剥ぎ取っていく。
「ああ、パンツはいいや。わいせつなんとかでこっちが捕まったら話にならないし」
と、いうことでパンツ一丁姿にされて、美希は寒そうに自分の体を抱きしめ、胸をかばう。
「ほら、ポーズとってニッコリ笑えよ」
――美希は散々罵声を浴びせられながら写真を撮られ、ようやく制服を返してもらった。
「その写真を売ってお金作るの?」
「こんな貧乳画像で金取れるかっての。とりあえず、三日やるから二十万作れ。一日でも遅れたらこの画像をネットでばらまくからな。これで少しはやる気出るだろ?」
「三日で二十万稼ぐなんて、大人でも無理だよ、きっと……」
夏美は美希の髪をつかんでゴスッと頭突きを入れる。
「頭使え、頭。大人じゃなくて、女子中学生だからこそ高く売れるものがあるだろうが。ヒント、客はロリコンのおっさん、商品はスカートの中身な」
美希はおでこを押さえ、目に涙を浮かべて考える。
「……パンツを売るの? それとも売りをやれっていうこと?」
美希の顔から首まで真っ赤っかに染まっていった。
「あんたがやりたいようにやれば? まあ、売りが一番手っ取り早いんじゃねえの?」