第9話 ローレンの悩み
ローレンが案内したなじみの宿屋は、小ざっぱりとして清潔な気持ちのいいところだった。しかし、宿賃を聞いた二人は思わず目を丸くした。
荷物を置き、食堂に降りると、ローレンが待っていた。彼が適当に料理と飲み物を注文してくれたが、リーナはなぜか不機嫌そうだった。どうやら、リーナと同じくらいの年頃の宿の娘とローレンが楽しそうに話しているのが気に食わないらしい。
そうこうしているうちに、料理と飲み物がテーブルに並べられ、改めて三人は話を始めることにした。
「そういえば、まだお礼を言っていませんでした。助けてくださってありがとうございます。僕はサトリ、彼女はリーナといいます。よろしくお願いします」
いつもなら先に口を開くリーナがもじもじしていたので、仕方なくサトリが挨拶した。
「ああ、丁寧なあいさつありがとう。でもな、サトリ。俺は堅苦しいのは苦手だから、もっと楽にしゃべれよ。ところで、お前たち、ノーマンズランドに行きたいって言うんだが……それに、ニンフを助けるってどういうことだ?」
本当は秘密にしたかったことだが、この流れでは逃げようがない。サトリは腹をくくった。年上にくだけた口調で話すのは苦手だったが、ぎこちなくこれまでの経緯を説明した。
「ふーん、不思議な話だねぇ……。何か商売のネタにならんかなぁ……」
ローレンは頭を軽く掻きながら考え込んだ。その時、ここまでずっとローレンの顔を見つめたり、そらしたりしていたリーナが、突然、思いついたように口を開いた。
「ねぇ、ローレン!私たちと一緒に旅してくれない? 大人が一緒だと心強いし、行商人なら旅慣れてるでしょ?」
下を向いて考え事をしていたローレンは、ハッと顔を上げると即答した。
「それはできない相談だな。じつは俺、問題を抱えていてな。子供の冒険に付き合う暇はないんだよ」
「そんな……」
リーナは口では不満を漏らしたものの、それほど本気ではなかったらしく、少し残念そうな顔をしながらも、大人しく引き下がった。場には気まずい沈黙が流れた。その空気に耐えられなかったのは、サトリだった。
「どんな問題を抱えているの?」
「ああ……でかい借金と、さばききれない量の在庫を抱えちまったんだ……」
ローレンの話によると、東のある町で出会った商人に騙されて、売れない毛皮を大量に買い付けてしまったという。サトリは同情し、心から言った。
「どうにかならないの?」
「それがな……一つだけ考えついた。でも、現実的じゃないんだよなぁ……」
リーナが身を乗り出して叫んだ。
「ローレン、そのアイデアを話してみて! さっきのお礼がしたいの。私たちにできることなら、何でもするわ!」
「そうだな、言うだけ言ってみるか……。この街の近くに賢者が住んでいるんだ。その賢者に知恵を授かるっていう算段だ」
「何も問題ないじゃない! どこが現実的じゃないの?」
「ああ、賢者の住処に行くには試練を越えなければならないらしい」
「どんな試練なの?」
リーナとサトリは同時に聞いた。
「それが分からないんだ。なにせ、この百年間で賢者の住処を目指して帰ってきた者は一人もいないって話だからな」
リーナは一瞬たじろいだが、すぐに力強く答えた。
「いいわ、私たちに任せて! その賢者のところへ行ってあげるわ!」




