表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/89

第44話 看病

「なに?」


タカナミとナギ、そしてミセルは事務室へと飛び込んだ。ローレンは椅子に腰かけたままテーブルに()()していた。意識はない。


「ローレン!」と怒鳴(どな)ったタカナミは、ローレンの体を()き起こすと、まず(ひたい)に手を当て、次に首筋(くびすじ)(わき)に手を回し診察した。遅れてノーラが事務室に入ってくる。


「いかん、黒死病だ。ナギ、火酒(ひしゅ)と体を冷やす布を準備しろ。」


「先生、私の治癒魔法(ちゆまほう)は!」ノーラが必死の声を上げる。


「だめだ、まだ早い。お前は蜂蜜(はちみつ)の在庫を確認しろ。」


ナギとノーラはそれぞれ走り去っていった。ミセルが、冷静な声でタカナミに聞いた。


「どうだ、取り()められるか?」


正直(しょうじき)分からん。五分五分だろう。全力は()くすが。」


ミセルは静かに目を閉じた。そして黙って仕事に戻っていった。


ローレンが病室に(うつ)され、ナギとノーラが処置をしていると、サトリとリーナが駆け込んできた。


「ローレン!」悲痛な叫び声をリーナは上げた。サトリは黙っている。


「ごめんなさい、私がわがままを言ったせいでこんな目にあって。」


リーナは泣いていた。そしてその声はナギとノーラの胸に突き刺さっていた。


(「私が(さそ)ったばかりに……」「私が仕事を頼んだから……」)


てきぱきと処置を(ほどこ)す二人の胸中(きょうちゅう)後悔(こうかい)(ねん)に駆られていた。しかし彼女らはいくつもの命を救い、いくつもの命を看取(みと)ってきた自負(じふ)がある。「絶対に助ける。」という意思があった。その様子を見ていたサトリがぽつりと言った。


「リーナ、仕事に戻ろう。僕たちがここにいてもナギさんとノーラさんの邪魔(じゃま)になるだけだよ。」


「いやよ!お願いだからそばにいさせて!」リーナはてこでも動かない様子だった。サトリは静かに仕事に戻っていった……


それから数日、ローレンの容体(ようだい)(かんば)しくなかった。意識は戻らず、リーナの呼びかけにも反応はなかった。そしてまた数日が()った……


毎日ほとんどの時間をローレンのベッドのそばで過ごしていたリーナは疲れてうたた寝をしていた。その耳に小さなうめき声が聞こえた。リーナは()ね起きた。ローレンの(くちびる)が何か言おうとして弱々しく動くのを確認して、タカナミを(あわ)てて呼びに行った。


タカナミが急いでやってきた。素早(すばや)く診察を済ますとリーナに言った。


「よかったなリーナ。一番危険な時期は()えたぞ。」と言うや(いな)や大声で「ノーラ!お前の出番だ!」と怒鳴(どな)った。ノーラはすぐに駆け付けた。


「ローレンさん、頑張ってください。約束通り、私たちがあなたを救います。」と言って、ローレンの胸のあたりに手をかざして治癒魔法(ちゆまほう)をかけ始めた……


それからローレンの容体(ようだい)快方(かいほう)に向かい、とうとうベッドから上半身を起こせるようになっていた。


「リーナ、疲れたろう。俺はもう大丈夫だから宿所(しゅくしょ)でゆっくり休め。」


「大丈夫よローレン。あなたが寝ている間は宿所で私も休むようにしてるから。」


「そうか……」


まだ()れが残る患部に薄めた蜂蜜(はちみつ)()るナギにもローレンは話しかけた。


「ナギさん、これを。」と言って、ナギの手のひらに指輪をそっと置いた。


「これは、俺の命を救ってくれた対価(たいか)だ。受け取ってくれ。」


ナギは一瞬、言葉に()まった。


「これは、ローレンさんに差し上げたものですよ。」


ローレンはかすかに笑い、肩をすくめた。


「俺は行商人だ。借りは作らない主義でね。こいつで帳消(ちょうけ)しにしよう。」


ナギはため息をついたが、指輪を押し返すことはしなかった。

※火酒:蒸留酒/ウィスキーやブランデーなどのことで、タカナミは消毒に使用

※蜂蜜:タカナミは腫物の殺菌と患部の保護に使用

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ